蛇神の話
神社に祀られている祭神の朝は早い。なんて言ってみたけど、実際は寝る必要がないから早いも何もなかったりする。でも、僕みたいに生身を持っていたモノは神様と言う役職に慣れるまで睡眠が必要だから、まぁ、うん、いわゆる重役出勤みたいな事をしてしまう日もある。
社の奥から頭を出してみれば、もう供物が置かれていた。多分、何回か呼ばれてたんだろうけど、冬の間はどうしても眠たいから仕方がない。頭を引っ込めてから手を伸ばして、こちら側に引き入れる。
「……ねぇ、流石にこれはどうかと思うよ」
今日の供物は紙パックの甘酒。確かにお酒の類なら何でも良いよとは言ったけど、この何でもって言うのは「神様に供えるに相応しい質と量を満たしている」ものの中から何でもって意味なんだから、もっと配慮して欲しいと思う。
「昨日散々祟……文句をつけたせいかな」
確かに昨日、僕は一人の人間を盛大に祟った。でもそれはあの人間が色々と勘違いして、僕等のことを下に見ていたから、身の程を知らせてあげるためにしたのであって、そんじょそこらの成り損ないみたいに祟り散らかした訳じゃない。他の神社で同じことをしたら、もっと惨い目に遭わされるかもしれないから、そう思ったからであって。
「おはようございます。祟りをカジュアルスポーツか何かだと勘違いしている神様のハウスはこちらですか?」
「いいえ、訪ねるハウスを間違えています。ここには礼儀正しい神様である僕しかいません」
「そうですか。流石に紙パックはどうかなと思ったんで改めて日本酒持って来たんですけど間違えてるなら」
「ここが祟りを競技会種目に推してる神様、通称僕のハウスだよ」
こう言うの、人間は手の平クルックルとか言うんだってね? でも美味しいお酒には代えられない。社の前で呆れたような溜息を吐いてるルキの前に手を差し出した。
「カップ酒もどうかと思うよ?」
「日本酒には変わりないじゃないですか」
載せられたものを引き込んでみれば、210円のカップ酒。確かに供物として、甘酒より上等と言えば上等だけど、期待させられた分失望も大きい。頭を出してじとりと睨めば、同じような目で見返される。
「犬の躾と同じなんですけどね、悪いことをしたら悪いことが起きるって、本能で理解させようかと」
「僕と犬っころを一緒にするんじゃないよ。あいつよりは賢くて聞き分けも良いんだから」
「少なくともオイヌサマは祟る前に本人に警告送るし僕たちにも前もって言ってくれるので」
「あの人間、参道のど真ん中歩いた上に敷地内で煙草ぽい捨てしたから祟ったよ」
「事後報告すりゃ良いってもんでもないんですよ?」
どうにもこの子が神職になってから、動きにくいと言うか、何と言うか。まぁ、人間に危害を加え過ぎると別の意味で成ってしまうから、僕自身も気をつけてはいるけれど。それにしたって、僕の扱いが雑じゃない?
「じゃあ今からもう一回祟ったらさっきのが事前報告になるんじゃない?」
「不貞腐れないでくださいよ、酒英様」
「不貞腐れてなんかないもん」
「龍神様も心配されていましたよ、祟った後の穢れが落ちないなら清めようかと。蛇は末代まで祟ると言いますが、社まで持たれてるんですからもっと落ち着いて動かないと……」
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