第2話 地獄な世界

 頭にナイフが刺さって死んでいる。


 血が流れている。


 この顔は、間違いなく勇輝だ。


 その様子が良平の視界にはしっかりと写っているが、頭が理解しようとしない。


「あれ?見られちゃった」


 セーラー服の少女が良平を見て笑う。


「また怒られちゃうわ」


 不気味だと思った。


 綺麗だと思った。


 勇輝が倒れているのだから、警察や救急車を呼ばなくてはいけない。


 でも、どうしたらいい?


 救急車?


 警察?


 まず駆け寄って確かめる?


 何を?


 少女が殺したのか?


 いろんなことを考えても、体が動かない。


 少女から目が離せない。


 普通の、セーラー服を着た、真っ黒な髪の女の子が立っているだけなのに。


 目を奪われるとは正に今の良平を説明した言葉だろう。


「しょうがないなあ。この人も刺しとこうかな」


 そう言いながら、もう一本のナイフを取り出す。


 少女と目が合う。


 良平は、状況がわからない混乱と、少女の美しさで体が固まり「え・・・」という声を漏らすのが精一杯だった。


 少女の手から離れたナイフが自分の眉間の前にあることに気がつくまでは。




 ・・・死んだ?


 良平はそう思ったが、考えられるということは生きているということだ。


 額を触ってみても、ナイフは刺さっていない。


 良平は自分が放心していた事に気づき、改めて状況を確認する。


 足元を見ると、こちらに投げられたであろうナイフが落ちている。


 少し右には、やはり勇輝が倒れている。


 少女を見ると、「おかしいな?」という顔をしている。


「なにしてんだ!逃げるぞ!」


 そう言われてはじめて、良平は自分の後ろにもう1人男が立っている事に気がついた。


 男は良平の腕を掴むと、無理やり引っ張って裏路地から出ようとする。


「ちょっと、勝手に連れて行かないでよ!」


 少女が呼ぶのを気にもとめず、男は良平の腕を掴んだまま走り出した。


 振り返る時に見えた男の顔に、良平は見覚えがあった。

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