第1話 平和な世界
高橋良平は迷っていた。
今月の小遣いで買うべきは新作ゲーム「イカの森」か、それとも最近流行りのバンド「非公式hageキング」の新アルバムか。
毎月の小遣いは3000円。CDならなんとか買えるが、ゲームを買うには少し足りない。そんな時は貯金箱に入れてある小銭をごそごそと取り出すか、家の手伝いをするしかない。
良平は自分の親をケチだと思っている。
この10年、世の中はかなりの好景気で、親の給料も上がっているようだ。それにもかかわらず、自分の小遣いは高校生にしては安い3000円。これでは欲しい物も自由に買えない。
「
テレビから今日のニュースが聞こえる。
ヒーローってのは儲かるらしい。俺もヒーローにでもなれば好き放題に金を使えるんだろうか。
「なんだ、またヒーローのニュースか」
そう言って退屈そうな顔をするのは、親友の
「早く決めて買ってこいよ。どうせどっち選んだって後悔するんだから」
電気屋で売っている家庭用テレビの展示から目をそらさずに、勇輝が悪態をつく。
「いいよ、今日は買うのはやめにする」
「優柔不断なやつだな、まあいい、さっさと帰ろうぜ」
勇輝は文句を言うが、良平は自分の優柔不断な性格がそれほど嫌いではなかった。確かにCDを買ったらゲームにすれば良かったと後悔するかもしれないが、悩んで買った物はより一層大切になる。
「また今度買いに来るよ」
今日は28度。7月の気温としてはそれほど暑い方ではないが、クーラーの効いた部屋から外に出るとむわっとした熱気を感じる。
「暑いなあ。この暑さもヒーローがなんとかしてくれないかな」
勇輝は大げさに手で顔を仰ぐ仕草をする。
「それは無理だろ。暑いのは悪魔のせいじゃないんだから」
ヒーローは悪魔を殺す。そうすると、悪魔のせいで起きるはずだった悪いことが起きなくなる。戦争とか、伝染病とか。日本人の常識だ。
今日の悪魔は、放っておいたら大企業が倒産して、日本中が不景気になっていたらしい。
「でも、ヒーローってのはみんな超能力者なんだろ?超能力って、悪魔殺す以外にもいろいろ便利に使えそうだけどな」
「そうか?超能力者なんて、実際に見たことないからなあ」
超能力者は大昔からその存在が確認されている。歴史上最初の超能力者は卑弥呼とされているが、文献も少なく、本当に超能力者だったのかは学者でも意見が別れる。戦国時代以降では、数多くの超能力者が戦場で猛威を振るい、超能力が一般的に知られるようになった。
しかし、科学技術が発達した近代では戦争で超能力者が役に立つ場面は少なく、ここ数百年の間、超能力者は目立たない存在となっていた。
ヒーローが生まれるまでは。
「喉乾いたな。ちょっとそこの自販機で買って来る」
そう言って勇輝は路地に入って行く。路地を抜けた先の駐車場にある自動販売機が100円均一で安いのだ。
勇輝はいい友達だ、と良平は思っている。今日、良平が買い物に行くと言ったら、勇輝は何も言わずに着いて来た。それだけ、2人は一緒にいるのが当たり前なのだ。
そんな勇輝が血を流して死んでいるのを見て、良平は頭が真っ白になった。
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