我らがヒーロー

右城歩

プロローグ

 銀色のナイフが綺麗な弧を描くと、男の首からシャワーのように血液が噴き出した。


「なんでこんなことをするんだよ!」


 側に立っている、小柄な男が叫ぶ。


 彼にとって、今日は楽しい日のはずだった。


 3年ぶりに学生時代の友人と会って、仕事の愚痴なんかで盛り上がって、酒を飲む。


 久しぶりの良い日だ。


 そのはずがなぜか、友人は首から血を流して倒れ、ナイフを持った女は次はお前だと言わんばかりにこちらを向いている。


 心当たりなんてあるわけがない。


「なんで?」


 ナイフを持った女は不思議そうな顔をする。


「なんで突然、襲ってくるんだって聞いてるんだよ!」


 小柄な男は、恐怖と涙でぐしゃぐしゃな顔を袖でぬぐい、女を睨みつける。


「だって、お前たちを殺すと、みんな私を褒めて、讃えるよ。日本中が私を英雄と呼んで、感謝し、憧れ、富も権力も与えてくれる。」


 女は表情を変えずにナイフを振り上げる。


「そう、私たちは」


 男は背を向け、一目散に走り出す。


「正義のヒーロー」


 女が投げたナイフは男の後頭部に見事に刺さり、男は地面に倒れた。

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