第12話 歩み始めた道#1
「ごめんって機嫌直してくれよ.......」
「もうやだ。女の人コワイ.......」
「安心してなぎ.......天渡。これは所長が悪い」
身も心も弄ばれた俺はソファの上でうずくまっていた。それぐらいの権利はあるはずだ。自分を守るための。
美琴さんは謝ってくれているが時折先ほどの俺の反応を思い出しては笑っているので、全然誠意が感じられない。
まあ、二斬が俺の味方であることには安堵しているのだが、先ほどから二斬の表情がピクリとも動いていない。
あれ? こいつってこんなにも無表情だったっけ?
ともあれ、いつまでもこんな態度では話が進まないので、そろそろ心を落ち着けなければ。いつまでも上裸は不味いし。
俺は机に置いてある二斬が折りたたんでくれたワイシャツに袖を通す。そういえば、このワイシャツ真っ白だけど、いつの間に変えてくれたんだろうか。
着替え終わると椅子に座っている美琴さんの前に立つ。
「そんな苦手そうな顔をしないでくれ。さすがの私でも傷つく」
そんな顔していたのか。だとしても、それは自業自得です。
「まあいい。ともかく、君の答えを聞こうじゃないか」
「答えねぇ。あれは選択肢と言うんですか?」
「立派な選択肢だろう。ちゃんと選択権が3つも与えられている。その中から選ぶのはお前だ。もっとも最後のが一番いいというだけであって」
それが選択肢になってないって言ってるんでしょうが! ああ、ほんと苦手。
俺はため息交じりに答える。もうどうせかかわったことから逃げられないからな。
「わかりました。俺はその最後の選択肢を選びます。だから、その紙に印したいんですが、印鑑とか持ち歩いてないんですけど」
そう聞くと美琴さん.......いや、所長は事もなし気にサラッと答える。
「いや、もう貰ってるから問題ない」
「は? もらってってどういうことですか? 俺、その紙を見たのも初めてで、そもそもここに来たのも初めてなんですが」
「よく見ろ。この紙を。どうして一部がこんなにも赤いんだと思う?」
「何かインクとかこぼしたんじゃないですか?」
「君の血だ」
「............はい?」
何? 何言いだすのこの人? は? その赤いのが俺の血? え、マジで?
すると、所長はそのことの本末を簡単に話してくれた。
まず、俺はあの夜に所長に出会って、所長に教えられた方向に二斬がいるというのでその方向を信じて進んだ。
ここまでおさらいだ。だが、問題は次の行動だ。
「実はな、お前が向かった後、お前の処遇をどうするか考えたんだよ。アストラルに関わった以上、放っておくわけにはいかないからな」
所長は別の書類に目を通しながら、頬杖をついて続けていく。
「普通なら体にGPSつけての一生観察処分だ。だが、お前は結衣の友人である。そんなことをして、結衣を悲しませるのは忍びない。だから、私はお前を同じメンバーの一員として扱うことにした。威力はまだ低いが"雷を操る"なんてのは十分に欲しい戦力だからな。だから、お前を取り込むための策を用意した。といっても、こんなものだったがな」
「それで、その赤色のシミが血とは?」
「ああ、これか。これはもろもろを書いた後に印が必要だろ? でも、普通の高校生は印鑑を持っていない。だから、血判でも良かったんだが、そこに丁度良く血があったから――――――浸した。血判がわりにな」
「.......」
俺は思わず絶句した。引いた。いや、これは引くわ。てか、こわぁ。え、こわぁ。
やばい、やばいよこの人。頭イカレてるんじゃなかろうか。いや、その判断すらすでに遅いかもしれない。
「ともあれ、こうしてようやくお前もうちの一員であるというわけだ。歓迎するよ、凪斗」
「は、はははは......」
俺は苦笑いしか浮かばなかった。
とはいえ、もうこの話は速やかに終わらせたいので引っ張らないことにした。想像しただけでもクレイジーサイコパスであるからして。
「そういえば、さっき紙に書いてあったんですけど、ここの事務所って.......いや、そもそも二斬がやっていた仕事って警察の仕事だったんですか?」
俺の質問しているそばで二斬が所長の前に淹れたてのコーヒーを置いていく。すると、所長は「ありがとう」と言って二斬を引き下げるとそのコーヒーに口をつけた。
「一応ってところかな。あの紙にも書いてあっただろ?『特殊捜査任務』ってな。私達は省略して"特務"なって呼び方をしている」
所長はコーヒーカップを置くと大きく伸びをしながら背もたれに寄り掛かる。その時の胸の強調具合っていったら―――――――はっ! 殺気!
俺は背後からビシビシ伝わってくる視線を無視しながら所長の話に耳を傾ける。
「私達は肩書は警察だが、自衛隊でもある。つまり中間ってことだ。警察のように事件を捜査し、解明する時もあれば、自衛隊のように災害の場所に支援に行く場合もあると。だけど、役割的にほとんどが警察の仕事ばかりだからまあ、自衛隊の仕事は稀だ」
「でもそれって仕事の負担多くないですか?」
「だからこその『特殊捜査任務』ってことだ。お前も見ただろ? 襲われ、戦った相手を」
あのインコの化け物か。ということは、あれを討伐するのが主な任務ってことか?
「あれを常日頃倒してるんですか?」
「まあな。それを説明するうえでも聞きたいことがある」
所長は前のめりに体を倒すと顔の前で手を組んだ。
「お前は"時空科学研究所爆発事故"ってのを覚えているか?」
「時空科学研究所爆発事故」―――――それは約50年前に起きた未曾有の爆発事件のことだ。
時空科学研究所はその当時日本に置いての最先端の技術を有していて、それは世界にも多大なる影響を与えるものだった。
しかし、栄光もあれば衰退もある。その衰退があまりにも酷かっただけで。
時空科学研究所は突如として全壊するほどの大爆発を起こした。
ニュースの報道とかでは老朽化による漏電が精密機械に不具合を起こして引火したって話だ。
俺は当然生まれてないから当然ニュースの内容を詳しく知らないのだが、爆発事故の起きた日は決まって特番をやっていたのでそれで覚えている。
所長は俺の反応から知っていると判断すると言葉を続ける。
「私もお前とそう年齢が離れているわけじゃないからな。詳しいことは知らない。しかし、この仕事に入ると決まって真実というのを教え込まれるんだ。それが私達の仕事に繋がるのだからな」
「その事故の真実は隠ぺいされているってことですか?」
「その通りだ。その爆発事故の本当の原因は時空科学研究所が作り出そうとした企業の名前にも入っている転送装置さ。それは空間に干渉して意図的に歪めることで異次元ポケットの入り口を作り、別の研究所で出口を作ってそれにものを入れて転送できるかの実験。最初こそは順調だったらしい。だが、事件は起こった」
所長は背もたれに寄り掛かるとグルっと背後を向いた。そして、ブラインドが降りていない窓から景色をぼんやりと眺め始めた。
「ある実験で切り開いた空間は別の世界と繋がっていた。そして、その世界から化け物が流れ込んだんだ。それによって、研究所は爆発。しかし、その原因が異世界の化け物であるとマスコミに言うわけにもいかず、老朽化による爆発とありきたりな嘘でごまかした」
「その化け物っていうのが......」
「ああ、総称ネームはギリシア神話にいそうだからそのまま怪物という意味通りの『ファンタズマ』。そして――――――私達の倒すべき敵だ」
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