第8話 私が守る(結衣)

―――――【二斬結衣】視点―――――


 ――――――どうして。どうして。


 そんな言葉ばかりが私の中で反芻していく。

 しかし、この疑問を提示したところで先に起こった現実が覆るわけではない。そんなことわかってる。

 でも、あれは―――――

 私は気づいていた。その上で――――――

 仕方ないなんかで済ませたくない。だって、私は―――――――

 ああうるさいうるさいうるさい! ごちゃごちゃしてまとまらない!


 けど、一つだけハッキリしていることがある。

 私は凪斗を守るためにこの道を選んだ。「アストラル」という人をやめる力を持って。

 なのに、私は守れなかった。状況が状況だったとはいえ、私が憎むあいつらに凪斗が気づいついてしまった。

 許さない。だから、殺す。あの鳥類を!


 私は並んでいる家々の屋根を伝って走っていく。途中途中飛び移っては電線を避け、家と家の間を軽く飛び越えていく。

 きっと周りの人達からは得体の知れない人型の何かが高速で動いているという噂が立つだろう。オカルト好きには絶好のエサだ。

 本当は出来る限り隠密に動けと言われているが仕方がない。だって、あいつだけ許すわけにはいかないから!


 近くにはあの鳥類のオーラを感じる。遠くに逃げても追いつかれるだけだから隠れる作戦に変更したってところだろうか。

 だとすると、相手は飛べない。もしくは、なんらかの影響で飛ぶことが出来ないと考えるべきか。

 それなら、手に届く範囲で斬れる。


 私は電柱の天辺に上ると周囲をグルリと確認していく。あいつの気配はどこだろうか。

 満天の夜空に大きめの月の光が私をほのかに照らす。あの大きさはまるで地球に落っこちているみたいだ。

 そんな浄化するような光も私の憎悪がかき消していく。


 宝石のような輝く瞳も全ては標的を見つけ殺すために得た力の証。その証がある限り、私はもう普通の幸せを得られない。

 ......いや、要らない。全ては私の大切を守るために。


「見つけた」


 私は北側の山を見つめるとそのまま前のめりに倒れ込んでいく。

 そして、目的の場所と体が一直線上になると電柱を思いっきり蹴った。

 その勢い――――――周囲が横に伸びていくほどの速さ――――――で高速で目的地まで移動する。


 ドンッと地響きを鳴らしながら着地するとそこは神社であった。

 神社はもう何年か前に潰れて放置されているようで押せば倒れそうな古びた木材が今も尚何とか建物の形状を持ちこたえていた。

 その周りは木々に囲まれていて、神社までの真っ直ぐな石畳と鳥居、後ろを見れば街の夜景が見えることからそれなりの高さに建てられたのだろうと思われる。

 ともかく、周囲に人の気配はナシ。それなら――――――


「遠慮はしない。八つ裂きにする」


 私は右手にある鎌―――――ラヴァリエ―――――をグッと握りしめる。

 そして、神社に向かって直進すると勢いよく扉を開けた。


「シネエエエェェェェ!」


「くっ!」


 私が開けた瞬間、不意打ちを狙っての鋭い爪の一撃が目前まで迫っていく。

 その攻撃を鎌の柄を両手で横に持つと防いでいく。しかし、勢いまでは殺せずそのまま吹き飛ばされる。

 私はすぐにラヴァリエの刃を地面に突き立てるとそのまま自重でブレーキをかけていく。

 それにしても、やはりとは思ったがしゃべるみたい。けど、形状が動物種ってことは中型。少し厄介。


「でも、私は八つ裂きにすると決めた!」


 私は走り出すと勢いよく跳躍して両手でラヴァリエを振り下ろす。しかし、それは爪で防がれた。やはり膂力では分が悪いか。なら――――


 私は一旦は慣れるとあの鳥類は羽を微振動させて射出してきた。ヒュンッと風を斬る音がする。

 その羽をダメージ覚悟で払いながら進むことも出来るが、敵の情報もまだ出そろったわけではない。いきなりそれで動くのは愚策。


 走りながら様子を観察していく。避けた羽は芯に当たる部分である羽軸が地面に刺さっていく。少なくともまともに食らうのは避けた方がいいか。

 なら次は、あいつの行動。鳥類でありながら人型の成りをしている。

 飛んだ姿は未だ見ていないが、それを隠している可能性もある。それを探る。


「チョコマカト!」


「なら、突っ込んであげる」


 私は透き通たような紅い瞳であの鳥類を見つめる。イラ立っているようなら結構。そのイラ立ちが隙を作る。

 鎌を地面にガッと突き刺すように振るとその勢いを使ってそのまま鳥類へと飛んでいく。

 一斉に向かって来る羽を鎌を回転させながら切り払って行くと足元に着地。そこから一気に足を横に薙ぎ斬る。


 しかし、その鳥類は両腕の翼を大きくはためかせるとそのまま大ジャンプした。それによって、攻撃は避けられる。

 だけど、滞空せずにそのまま地面へと落ちていった。ということは、やはり飛ぶことは出来ないということなのだろう。


 周囲に少し強い風が吹く。森がザワザワと騒ぎ始めた。街灯すらないここではかなり薄暗く、心霊スポットで使われそうなぐらいだ。

 正直、あまり長居したくないので、すぐに終わらせたい。


「すべて見た。もうこれで終わり」


 私は鎌を一度頭上で回転させて槍のように構えるとそのままあの鳥類に向かって走り出した。

 無数に放たれる羽を前方で鎌を回転させて防いでいく。弾いた羽からヒラヒラと地面に舞い落ちる。

 そして、容易に鳥類を間合いに詰めると鎌を横に振るった。だけど、初撃は爪で弾かれる。


「グガッ!」


「汚い声」


 私は弾かれてもすぐに鎌を背中を通して反対側に持ち変えると再び横なぎに振るう。

 その湾曲した刃は鳥類の胴体を掻っ捌こうとしたが、割と動きが素早いのか少し斬った程度であった。


「ナメルナ!」


「!」


 鳥類は私から距離を取った瞬間、上空に向かって一斉に無数の羽を射出した。

 その動作に思わず上空を見上げるが、上空に打ち上げられた羽はヒラヒラと基本黄色っぽい色を空中に舞い踊らせているだけだった。

 つまり、何もない。しかし、3メートルほどの巨体で、さらに気配で逃すわけない―――――――はずだった。


「あいつはどこ――――――ぐっ!」


 私が顔を戻した時には周囲には鳥類の巨体も気配すらもなにもなかった。そのことに思わず驚きが隠せず、辺りをキョロキョロと見回す。


 すると突然、私の脇腹に重い一撃が当てられた。まるで丸太のような太いもので殴られたみたいだ。

 しかも、見えないのに実体を感じる。


 私はそのまま大きく吹きばされ、石畳へと叩きつけられるとそのまま砂利の方まで転がっていく。

 口から独特の鉄分らしき味がする。恐らく唇を切ったのだろう。


 私はすぐさま状態を起こして立ち膝になる。そして、周囲を見渡すがやはりない。

 ま、まさか、あの鳥類は透明にでもなれるって言うの!? それも姿形も隠して!?

 ありえない。今までそんな敵は見たことない。

 .......ということは新型? 他にも数は? 級数は?


 私の思考が戦闘とは余計ない情報で埋め尽くされていく。いや、それも必要なのだが、今必要なものではない。

 しかし、私がどんなに気配を探ってもやはり何も感じない。


「あがっ!」


 その時、背中に鋭い一撃が加えられた。その一撃の威力は空中に舞っていく大量の鮮血とともに証明されていく。

 私は地面に打ち付けられると同時にラヴァリエを手放してしまった。

 転がってうつ伏せになる私と届かない位置にあるラヴァリエ。痛みが激しく、まともに動けそうにない。


 嫌だ! 動け! このままだと! 多くの人に被害が出る! そして、凪斗にも! こんなところで負けられない! 凪斗を守ると誓ったんだ!


 私は軋む体を歯を食いしばって耐えて、腕で地面を這って進んでいく。あのラヴァリエさえ手に取れば、まだ勝機はある。


「オワリハオマエダ」


「........っ!」


 姿を現わした鳥類は私の進行方向に立つと汚い足でラヴァリエを踏みつけやがった。

 でも、それは事実上私の敗北――――――


「二斬から離れやがれ!」


 その刹那、雷光とともに現れた一人の少年は鳥類の顔面を思いっきり殴り飛ばした。

 鳥類はあまりの速度に気付いていなかった様子で古びた神社へと体を叩きつけられた。

 その衝撃で神社は倒壊して、鳥類は下敷きになった。


 そして、目の前にいるのが――――――――


「大丈夫.......じゃなさそうなだな。すぐにあいつを倒して助けてやるからな」


 全身に紫電を纏わせて、暗かったこの場を照らすような光を放つ凪斗の姿だった。

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