第3話 忘れられない夏#3
「お待たせしました。バナナ山盛りパフェと特製特盛激辛カルボナーラです」
店員はその料理をカルボナーラを俺へ、パフェを二斬の目の前に置いていく。
しかし、俺達はすぐに互いの料理に手を伸ばすと料理を交換していく。残念ながら食べるのは逆なのだ。
そのことに店員は驚きながら、そっとこの場を立ち去っていく。まあ、当然の反応だわな。
「やっぱり間違えられたね」
「まあ、仕方ないさ」
二斬は先ほどの店員の反応が少し面白かったのかニマニマしたような顔をする。
その表情を「悪趣味な奴め」と思いながら、スプーンで生クリームつきバナナを口の中に放り込んでいく。
あー、やっぱ口の中に広がる甘さってのは美味なもんだよな~。これだから、甘味はやめられないし、止まらない。今度は下の層にあるフレークも巻き込んでの大運動会を味わおう。
「相変わらず甘い物好きだね。昔っからそう」
「まあな、甘味は命だから.......って、俺と二斬は高校からの付き合いだよな?」
「あ、それは.......別にそんな昔から振り返ってのことじゃない。そういえば、まだ私の質問に答えてもらってなかったよね?」
「質問?」
二斬は俺の質問をはぐらかすように話題を変えるとそのようなことを聞いてきた。
正直、俺は二斬のはぐらかし方が妙に気になったのだが、特に深追いすることもあるまい。そう思ってやめた。
そして、二斬の質問に合わせるようにオウム返しに聞いていく。
「私が天渡と会った時にどうして近代歴史だけ落としたのか聞いたよね?」
「あー、確かに聞いたな。けど、そこまで気になることか?」
「興味本位」
そう言いつつもジーっと見つめてくる姿勢は動かす手が止まってしまっている。まるで目の前におもちゃがある猫みたいだ。
その光景を見た俺は「相変わらずだな」という笑みを浮かべながら答えていく。
「別に大したことじゃないよ。単純に体育の後で疲れて眠気マシマシのところに長ったらしい説明が入るのはまるで子守歌でも聞いているみたいでさ、気づいたら寝ちまってる」
「本当に大したことない。面白くない。教室で全裸で奇声を上げながら走り回ってるぐらいのインパクトじゃないと」
「俺を何だと思ってるんだ。そもそもその話が持ち上がった時点で俺はこうして今を過ごしてない」
相変わらずの謎の感性を働かせる二斬に俺は疲れたため息を吐く。
その反応に二斬は思わずムッとした表情をするが、何も告げずにフォークに麺を巻いて口の中に含んでいく。
俺はその様子に苦笑いを浮かべるとパフェを食べ始めながら、ふと二斬との出会いを思い出した。
思えば不思議な縁であった。
時は2120年。この時代は一世紀前の2020年と比べれば様々なことが変化したという。
それは主に国同士の技術面の競争もそうであったが、少子高齢化の波はより一層激しさと相まって外国人が多く入ってきたことが原因の一つらしい。
ちなみに、現在の俺がいる教室にも約五名ほどのハーフやクォーターが存在している。
それによって起きた影響の一例を挙げるなら髪色の自由化。
今では昔ほどの黒髪でなくてはいけないという制約はなく、赤や青はもちろんのことピンクなどもはや髪の色に関することのほとんどは許されるようになった。
しかし、そんな中でも金髪はいても銀髪はほとんどいなかった。ましてや白に近い銀髪など。
二斬は転校生として俺と同じ教室にやって来た。
小学生並みの身長もさながら、西洋人形な精巧なバランスの取れた顔立ちとスタイル、先ほど挙げた髪色、そして転校生という四拍子で一躍有名人へとなり果てた。
それは二斬自身の成績優秀、スポーツ万能と言った高スペック持ちも相まってのことで、転校してから数日で俺が気づいた時にはそうなっていたぐらいだ。
そんな二斬はある意味浮いていた。それは二斬の存在が気に食わない女子にハブられたとかではなく、むしろかかわるのも恐れ多いという畏敬の念的な感じだ。
その空気はクラスはおろか学年まで広がっていて二斬に話しかけるのは本当の一部の女子のみ。男子は声をかけることすら二斬ファンクラブ(女子)によって止められていたぐらいだ。
そして、二斬自身も男子に話しかけることはなく転校してから一週間が過ぎた頃、異変は起きた。
その異変とは二斬が一人の男子に自ら赴いて話しかけに言ったのだ。その相手こそが俺である。
俺は当然二斬と初対面である。しかし、二斬はどうやら違ったらしい。
まあ、確証があるわけではなく、ただの俺の感じ方の問題だが。
別に二斬から昔の幼馴染とかラブコメ展開が起こりそうな内容ではなかった。
俺的には欲していた部分もなくもないが、伝えられたことは至極単純で「当番が一緒だから手伝って」というだけ。
しかし、そう言うだけのはずなのに二斬の顔がどこか嬉しそうに映っていたことを今でも鮮明に覚えている。
とはいえ、それから特別な何かがあったわけではない。一週間に一回話しかけてきたと思ったら、日に日に増してその回数が増えていっただけだ。
学校一の美少女から話しかけられる至福。当然、俺は針のむしろだった。嫉妬の嵐だった。一部暴徒沙汰になりかけた時もあったが、それを諫めたのは二斬だった。
ともあれ、その騒動を引き起こしたのも遠からず二斬自身であるのだが。
それを気づいていたとしても俺は言わないことにした。
「ん、どうしたの?」
「いやー、今更ながらなんという縁だろうかと思ってな」
「誰と?」
「そりゃあ、二斬とだよ。まさか話しかけられるとは思わなかったけど。今やこうして二人で飯食うほどになってるし」
「まさか私が毎回話しかけに言っているからって好意を持ってると勘違いしてない? 全然そんなことないから。なんというかごめんなさい」
「待て、なぜに俺がフラれた風になっている?」
「え? 今のって『もうこんなにも話しかけてきて、さらに食事に誘ってくるってもう彼氏面してもいいんじゃない? え、別にいいよね。ぐへへへへ』的なことを思っていると思ったから」
「とんでもねぇ言いがかり来たな。それにクオリティの低い俺の声真似止めろ。文鳥の方が上手い」
「文鳥に負けるのは解せぬ......それに私はただ影で俺を支えられればいいから.......」
「異論ならもう少しハッキリ言いたまえ。自分は文鳥より凄いのだと」
「凄いね、文鳥よりたくさん達者にお話しできるね」
「そうだろーそうだろーもっと褒めたまえって.......俺じゃないわ!」
俺の鋭いツッコミに二斬は嬉しそうに笑っていく。そんな様子を見て俺も思わず頬を緩めて頬杖をつく。
しかし、俺は二斬の言葉を聞き逃さなかった。
段々聞こえないほどの尻すぼみの呟き声になったので全文が聞こえたわけではないが、確かに『私は影で俺を―――――』までは聞こえていた。二斬は俺の知らないところで何かしているのか? まあ、それはさすがに漫画に影響され過ぎだろうけど。
俺は二斬に悟られないように思案顔をする。
すると、二斬は「そろそろお店を出よう」というのでその提案に乗って、負ければ全額おごりじゃんけんで見事に負け、お会計を済まして外に出た。
外に出た瞬間、うだるような暑さと身を焦がすような日差しにすぐに汗がドバッと溢れ出る。
時間はまだギリギリお昼時。風が吹いていても全て熱風。とはいえ、あるだけマシだが。
そして、辺りはうるさいほどのセミの大合唱が繰り広げられていて、セミの種類対抗でコンクールすら催られている感じだ。
早くも店に戻って涼みたい俺であったが、その一方で二斬は暑さに負けずに少し駆け足で俺の前を歩いて行く。
目の前で揺れる銀髪は太陽に照らされて一部白く映りながら左右にゆらゆらと揺れていく。
「私、そろそろ帰るね」
「ああ、わかった」
「あ、それと――――――お礼ね」
「――――――!」
一度振り返って俺に言葉を告げたかと思うとすぐにもう一度振り返ってスカートの裾をほんの少したくし上げた。まるで俺が脚フェチの変態であると思っているように。
そして、笑顔でそう言った二斬は楽しそうにステップを踏みながら去っていった。
とはいえ、そのあまりの行動に驚いていたのは二斬の満面の笑みに見えるはずの表情がどこか薄っぺらく感じたからだ。
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