第2話 奇妙な偶然
決して「すぐ」とは言えない距離を歩き、同じ新入生である彼女を学校まで無事に送り届けた。
しかし、人息つく暇もなく眼前で連れてきた彼女の体を隅々までチェックする女子生徒に行手を
「だ、大丈夫だった?待っても待ってもこないから事故にでもあったんじゃないかって心配してたんだからね?どこいってたの!?」
身体検査が終わってからの質問責め。
空港の税関にでも引っ掛かったのか。
「で、あなたはなんでさっきからこっちをジロジロ見ているわけ?」
思わぬ飛び火。
確かに彼女からすれば不審者が我が子に付き纏っているように見えるかも知れないが、
「ああ、いや。この子……この人が待ち合わせ場所を間違ったようだったから」
「え?それでわざわざ連れてきてくれたんですか?」
「まあ、入学式まで時間もなかったし」
「あ、ありがとうございます。すみません、さっきは失礼な聞き方をして」
「いや、気持ちはわかるから」
話がわかる人でよかった。最初の口ぶりからは想像できないほど礼儀正しい。
「じゃあ、僕はこれで」
「あ、わざわざありがとうございました」
二人の女子生徒はペコリとお辞儀し、二人を背にすっかり人がまばらになった校門を通り抜け、クラスが貼り出されている駐輪場前へ向かう。
駐輪場前には先ほどまで校門前でごった返していた新入生たちでいっぱいだった。クラスを確認し終わったのか正面玄関に向かう人もまばらにいる。集まった人々の隙間をなんとか見つけて集団の中央あたりに移動し、自分のクラスを確認する。
まずはA組。名前なし。B、C組と名前を確認する時間は無駄だった。
結局自分の名前を見つけたのは最終組のE組。
周りの生徒たちは友達と同じクラスだったことの喜びを分かち合っていたりもしたが、僕の場合は友達ゼロ。そんなことはできるはずもなく、正面玄関へと向かう。
靴を持ってきていたビニール袋に入れ、入学式の前に教室へと向かう。
「靴入れ忘れたの?しょうがないなぁ」
そんな声が聞こえる。
どことなく聞いたような声。
「あ、また会ったわね」
思った通り、先ほど会った迷子の人と母親。
「あなたは何組?」
「僕はE組だったな」
「え!?そうなの、私たちもE組なの」
たち、ということは隣の無口な迷子の人もE組か。奇妙な偶然もあるものだ。
それから同じ教室に向かうのに分かれるのも何なので三人で教室へと向かい、自分たちの席を探す。クラス掲示の名前の横に出席番号が振ってあり、その番号と同じ番号の貼られた席に着席するよう、黒板に指示が書かれていた。
僕の出席番号は20番。6列に並んだ机が5個ずつ並んでいる。
出席番号20番の貼られた席は廊下側から4列目の一番後ろ。
「
何と、僕の隣の席。
「私は、例によって後ろの方だから」
志桜里と呼ばれた彼女はうなずく。
「あ、あなた。志桜里の隣なのね。じゃあ、志桜里をよろしく」
「ああ、うん」
……いや待て、何をよろしくされたんだ?
それだけを言い残して教室の一番奥、窓際の自分の席を見つけ、早々に着席する。
「えっ、何か僕の顔についてる?」
ふと隣を見ると、彼女がこちらをじっと見ていた。何事かと思い、思わずこちらから話しかけてしまった。よろしくしてしまった。
彼女は首を横にふり、見つめていたことに気がつき恥ずかしくなったのか、顔を少し赤らめそっぽを向いてしまう。
「ああ、僕の名前?それくらい聞いてくれればいいのに。改めまして、僕は
彼女は一礼。それくらい深く「お辞儀」をし、一枚の付箋のような紙に何やら文字を書いて渡してきた。
「私は
やけに丁寧。字も、口調(……話してはいないが。)も、仕草までもが。
「乃咲さんね、よろしく。ちなみに彼女の名前は?」
彼女とは先ほどの保護者の方のことだが。目配せでそのことを乃咲さんに伝える。
そして、またもや文通。
「彼女の名前は
やはりよろしくされてしまった。
「うん、よろしく」
タイミングよく、このクラスの担任によってドアが開け放たれ、二人の会話は打ち切りとなった。この後の会話をどう繋げていいか分かりかねていた僕にはベストなタイミングだった。
何事もなく入学式も終わり、高校生活初日を無事に終えたのだった。
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