気もちのありか
桜咲優
第1話 無口なヒロイン
昨日の雨で、桜は散る寸前だった。
だが、桜の花びらが作るカーペットというのも、風情があっていいものだ。
この桜並木を越えた先、僕の向かう目的地、
ここまで人がいないと、この世界には自分しか人間がいなくなってしまったのではないかと思えてくる。
一抹の不安を払拭し、とにかく先を目指す。
しばらくして桜の木が途絶え、景色が広がる。
「おぉ!」
思わず一言を発してしまう。
見渡す限りの海。水平線が太陽を反射して煌めき、海に浮かぶ数隻の船は米粒のように小さく、眼下にはそれを望まんとする住宅街が広がっていた。
そこで、思ったより高いところに自分はいたのだと実感する。
しばらくは景色に目を奪われていたのだが、ふと、横を見た。
「うわっ」
世界にはまだ人がいたようだ。
見たところ女子高生。それに制服を見たところ僕と同じ高校。
制服を着ていなければ中学生と間違われそうな彼女は、僕がいきなり大声をあげたので驚いたようだ。
「あ、いや。人がいるとは思わなくて」
彼女は話しかけられたせいか赤面して俯く。
「まあいいや。ここで何してるの?」
口ごもり、周りをキョロキョロと見回す。
「ああ、待ち合わせね。誰かと待ち合わせてるんだ」
今度は大きくうなづき、同意を示す。
変わった子だな、と思いながら腕時計を見る。
「そういえば新入生?僕は新入生なんだけど」
またも首運動のみの同意。
「そうか、じゃあちょっと急いだほうがいい。入学式の時間、もうちょっとだよ」
彼女は慌てた様子で周りを見回す。
「言いたいことはわかるけど、いったん高校に向かおう。途中で会うかもしれないし、遅刻したら大変だ」
例によってジェスチャーゲーム。
僕の高校生活の始まりは、いきなり女子との登校。見ず知らずの人だが、放って置けない雰囲気のある女子生徒ではあった。
それからしばらく歩いたが一向に高校が見えてくる気配はない。「桜並木を抜けてすぐ」というデマを吹き込んだやつは誰だ、と呪いたくなるほど歩き、やっと校門が見えてきた。手前からちらほら制服姿の学生が見えてきてはいたが、校門前は生徒でごった返していた。
やっとついた、と一息つく。
しかし、生徒の流れと逆行してこちらに物凄いスピードで迫ってくる女子生徒を発見してしまっては、一息つくどころか一息吸い込んで身構える。
その人物はまるで我が子に怪我がないようか確認する母親のようだった。
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