第11話

読書という日課を終えて、おじいちゃんと一緒に外に出る。一面の緑が広がり、透き通るような日差しが照り付け、爽やかな風が鼻を突き抜ける。日本にいたころには経験しなかった体験だ。遠くにはあの忌まわしき化け物がいる。大きい図体に凶暴な牙を持った植物だ。身構えるが、あの化け物は動けないという事と、となりにおじいちゃんがいるという現実が僕に安心感を与えてくれる。


「リュー、あれはハラウルといってな。体内に大きな魔法器官を持ち、そこにためた魔力を使って防御の魔法を使う厄介な魔物だ」

「・・・へぇ」


読書をした時の記憶を引きずり出す。魔物といわれる体内に魔法器官を持つ生き物は、魔力持ちの血を体内に取り込み、魔法を使用する。あのハラウルという化け物は僕の左手を食らったので、今あいつは魔法を使えるという事だろう。


「魔物の厄介な点は他にもある。知能がある程度存在する点だ。バステル焼きの原料のバステルなんかは温厚な動物で、人間を攻撃することはない。しかし魔物は魔力持ちの生物を襲い血を吸収し力をつけようとするんだ」

「魔法を使うのが厄介ってこと?」

「少し違うな。やつらは知能があると言っただろ?我々が魔法を習得するように、やつらも魔法を習得するのさ」


どうやらこの世界では、経験を積み成長をするのは人間だけではないようだ。おじいちゃんは字を読めない僕に対して、不信感を抱くこともなく丁寧にこの世界のことまで教えてくれた。疑問に思って一回なぜ僕にこの世界のことを教えてくれるのか尋ねたが、「似ていたから」と言われて結局それっきりだ。あの時のおじいちゃんは苦しそうな顔をしていたからそれ以上聞くことが出来なかった。


「おじいちゃん、忌々しい魔物を何で放っているの?」

「・・・リューよ、どんな生き物にも命があるんだ。その命をむやみに奪ってはいけないよ」

「でもあいつは僕の左手をっ・・・」

「リュー、聞きなさい。むやみやたらに命を奪う。そんなことをしたら自分勝手な神と一緒になってしまうよ」

「・・・でも・・・・・」

「それにリュー、少し視野を広げて物事を見なさい」

「視野を・・・広げて?」

「そうだ」


視野を広げるといっても何をすればいいのか。そう思い草原を見渡す。すると草原に見慣れぬ生き物がいた。その生き物をじーっと見つめていると、こちらに気付いたのか慌てて身をかがめ茂みに紛れる。


「おじいちゃん、あれは?」

「あれはティビという草食動物だ。綺麗な毛皮がある国の王様の目にとまって、いたるところで密猟者により乱獲された生き物さ。だがここではあのハラウルと私がいるから密猟者も近づけない。ここはティビにとって最後の楽園なんだよ」


そして、とおじいちゃんが続ける。


「あのハラウルも運命を変えられた悲しき生き物なのだよ。その話はまたの機会にしようか」

「・・・おじいちゃん、何も知らないのに我儘言ってごめんなさい」

「なぁに、知らないことは恥ずかしい事ではないさ。私もまだリューのことをすべて理解しているわけではないしな」


おじいちゃんが微笑む。その微笑みにいくらか胸が軽くなった。

_____

英雄の軌跡4

「ルークが行った冒険者登録とは、人間の生活を脅かす魔物を排除することで、そのお礼として金を得る職業であった。しかし魔物は脅威であると同時に資源でもある。乱獲は許されず、魔物の被害が出た後の処理や、被害が出る前に間引くという作業が主であった。ルークは聖剣を使い、危なげなく魔物を倒した。しかし、魔物との戦いよりもルークが望んだもの。帝国との戦争中なら自分も傭兵として王国から招集を受けるかもしれない。かつて守れなかった命を今度は守るのだ、そうルークは心に誓った。」

                               ルークの伝記

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