第12話

しとしとと外で雨が降っている。仕方ないので今日はおじいちゃんと話をしたり本を読んだりすることにする。呪文や紋様を覚えても、体から魔力を練りだすという行為は日本にいたころはしたことがないので、まだ魔法の調整が上手くいかない。


「そういえばおじいちゃん。魔物はどうやって魔法を使っているの?ハラウルとか口、ないよ?」

「いいところに気が付いたな。実は呪文は唱えなくても魔法は発動するんだ。呪文を唱えるのはこの世界の精霊に少しでも助力して威力を高めてもらうためさ。精霊は気まぐれなんだよ」

「じゃあ呪文なしでも魔法を使えるんだね」

「あぁ。そして魔物は生まれた時から一つだけ使える魔法が存在する。魔物によってこの得意な魔法は異なる。ハラウルだと防御の魔法が得意だな。それ以外の魔法は生まれた後にそれぞれ習得するわけだ」

「へぇー。・・・ん?でもさ、おじいちゃん」

「なんだい?リュー」

「あのハラウル、紋様書かれてたよ?」


僕が左手を食われた時、恐怖によりあの化け物から目をそらさなかったが、その時変なマークがついてた覚えがある。今ではそれが紋様だと理解できる。


「・・・前にあのハラウルは運命を変えられた生き物だと言ったな?」

「うん」

「おじいちゃんが前にいたラスティ王国の王都ではな、大厄災に備えて国の軍備力を強化しようという研究がされていたんだ。あのハラウルはその研究の実験体にされた個体だ」

「えっ・・・」

「通常紋様というものは非生物にしか刻むことは出来ない。しかし、実験を繰り返すうちに紋様を少し書き換えることで、生物にも紋様を刻むことが出来ることが判明した。あのハラウルには魔法強化の魔法が刻まれている。まだもう少しは効果が続くだろう」

「それって、大丈夫なの?」

「大丈夫、とは言えないが、大厄災に備えるためなら仕方がないというのが国の見解だ。倫理観で民を守ることは出来ん。あのハラウルは育ちすぎて、最近捨てられたのさ。この大草原にポツリとな」

「・・・」

「研究機関は魔物で一通り実験を行った後、今度は人間で実験をした。おかげで国の兵士たちは今や肉体強化の魔法が刻まれ、屈強な戦闘集団となっている。大厄災で魔物の群れがあらわれても何とかなる。私がいたころとは大違いさ」


そういえばおじいちゃんの書いた魔法辞典には、魔法の最後の台詞が必ず「人間に使っても意味はない」という言葉で締めくくられていた。


「おじいちゃん・・・」

「リュー、何を考えているかは大体わかるがな、人間一人の力というのは微々たるものだ。かつて大厄災を防いだ魔術師という名声も、国に対しては欠片の価値もない。そんなものだ」


しとしとと、雨はやむ気配もなく降り続いている。

_____

英雄の軌跡5

「冒険者登録を行ってからルークはひたすらに剣をふるった。自分が聖剣を握れば敵を倒せると思っていた。村のみんなを全員救えると思っていた。だが実際は違った。今までろくに剣など握ったことがない農民という身の上では、他人を守り切ることなど出来なかった。いや、違う。どんなに強い武人でも、優れた剣士でも、守れる範囲はその小さな両の手が届く範囲のみなのだ。ならば自分に出来ることはすべてやろう。素振りをして、感覚を研ぎ澄ませて、寿命まで削って、小さな両の手を大きくするように。少しでも多くの命を守れるように。聖剣をふるうものとして恥ずかしくないように。」

                               ルークの伝記

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