第9話
この世界で生きていくためにやらなけばならないことは沢山ある。言葉を覚えるのはその足掛かりに過ぎない。おじいちゃんは高名な魔術師らしい。魔術師というのは魔法を使うことに長けた人々の総称であり、魔法というのはこっちの世界に来てから起きている不思議な現象の様だ。いきなり火がついたり、食料が腐ってなかったり、水が透明になったり・・・。摩訶不思議な怪奇現象は体内に魔力を持つ生物や、体内に魔法器官をもつ魔物が使用可能とされている。体内に魔力があるかどうかは生まれてきたときの運らしいが、体内に魔法器官をもつ魔物は、魔力さえ取り込めば魔力を運用して魔法を使えるらしい。魔物というのは普通の生物と違い体内に魔法器官を持つ生き物のことで、種族ごとに独自の魔法を使うだけではなく、魔力を取り込み成長までする厄介な人間の天敵のようだ。
「へぇー、危険な生き物もいるんだね」
リュミの世界モンスター図鑑を読みながら素直な感想を言う。
「安心しなさい、リュー。私が降りかかる火の粉を払うから」
「おじいちゃんは高名な魔術師だもんね」
「あぁ、そうだよ」
「へへっ、ありがとうおじいちゃん」
おじいちゃんはこのラスティ王国で過去に大厄災を防いだ魔術師の一人だ。今では引退した身だが、過去の功績を称えられて得たお金と、魔法辞典を書いた印税でこの平屋を建てたそうだ。
「今度はおじいちゃんの書いた魔法辞典読むー」
「あぁ、いいよ」
おじいちゃんの書いた魔法辞典はユーモアに溢れており、魔法のことを習うと同時に楽しい気分にもなれる。魔法には呪文を唱えるパターンと紋様を刻むパターンがあるようだ。前者は呪文に魔力を載せ魔法を顕現させるが、効果は魔力を込めている間だけらしい。おじいちゃんが料理をするときは、あらかじめ薪を用意してそこに火をつけるなどして工夫しているらしい。後者は魔力を込めて紋様を刻み込むことで、その紋様の魔力が尽きるまで魔法が発動し続けるが、呪文の時と違い魔力の消費量が多い。魔力というのは許容量というのが決まっており、また自然回復力は微々たるものらしい。魔力が蓄積するもの、それは血だ。血に魔力が蓄積されるので、呪文を唱える際に魔力を持った生き物の血を用意すると、その血の魔力を吸い上げ魔法が強化されるらしい。
「ねぇおじいちゃん、僕は魔力持ってる?」
「あぁ、持ってるよ。透き通るような綺麗な水色の魔力を感じる」
おじいちゃん程の魔術師になると相手の魔力の質や大きさを測るだけではなく、ある程度の魔法による擬態や幻影も関係なく真実のみが見えてしまうらしい。測定の魔法や真実の魔法というらしい。おじいちゃんの書いた本に載っていた。
「僕もいつか呪文を覚えたり紋様を覚えたりして魔法を使ってみたいなぁ」
「なぁに、すぐに出来るさ。なにせリューは私の孫なのだからな」
なんだか照れるが、嫌な気持ちはしない。こんなに愛情を注いで貰ったのはいつぶりだろうか。脳裏に自分にとっての親友である勝っちゃんの姿がちらつく。当然消すことなど出来ないが、不思議と前よりは地球への未練が薄らいでいた。
(この家でおじいちゃんとまったり暮らすのも悪くないかも。それに、この世界は興味深いものだらけだし。あぁ、魔法を使えるようになったらまずおじいちゃんに見せて、地球に帰ったら勝っちゃんにも見せないと。勝っちゃん驚くだろうなぁ・・・)
どうやら大分この生活に慣れてきて緊張も緩和されたらしい。久しぶりに思考の海に意識を沈める。あの時の憔悴はどこへやら、今は世界を見て回りたいと感じるようになっていた。
_____
経過の魔法
「この経過の魔法を対象物にかけることで、対象物の時間を進めることが出来る。泥水にかけると沈殿物が発生し、畑の作物にかけると少しだけ成長が早くなる。ちなみに保存の魔法に経過の魔法をかけても経過の魔法は打ち消される。この魔法で恋のライバルを老けさせるのは無理なので読者諸君はきっぱりと諦めるよーに」
カカの魔法辞典改訂版
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