第8話
リューが失踪してから数か月が経った。その間の記憶はあまり残っていない。いつもリューが隣にいて一緒に受けた授業は、もはや授業を受けていると言うにはほど遠いものだった。先生が何か喋っているが、その言葉が頭に入ってこない。右から左に流れるということはまさにこのことなのだろう。
「リュー、この先生の授業のどこが楽しーんだよ。グループワークもお前がいないと心ぼせーんだよ」
学食で一人で飯を食べる。しかし、目の前には見慣れた顔はなく、学食の壁が我が物顔でこちらを眺めている。
「リュー、一人で食う飯って味気ねーよ。」
あれから刑事さんからの連絡はないし、テレビや新聞でリューが見つかったという話も聞かない。もう、リューが失踪してから数か月が経っている。あいつは、もう・・・
そこまで考えたところで、その最悪の想定を振り払う。何で俺が弱気になってんだ!リューや刑事さんを信じるしかないんだ。だが、誰かに頼って結果を待つだけという現状に歯ぎしりする。日本だけでも失踪事件は数多く起こっており、中には解決していない事件もある。
「聞いたか?神木が失踪中って話」
「まだ見つかってないんだろ?」
横から同回生の世間話が聞こえてくる。
「もう何か月も失踪中らしいぜ」
「あー、そりゃもう手遅れだわ。あれだろ?神隠しってやつさ」
頭の中の何かが切れた。
「おめーら、人の失踪を何だと思ってやがる!」
「うわっ、なんだよ八代。離せよっ!」
直ぐに取り押さえられるが、後ろから同回生の捨て台詞が聞こえてくる。
「やべーだろアイツ。何熱くなってんだよ気持ちわりー」
はらわたが煮えくり返りそうになるが、ここで暴れたらさっきの二の舞になるだけなので、なんとか学食から離れる。家に帰ってきて冷静になるとまた怒りが込み上げてくる。
「・・・くそっ!」
行き場のない怒りは静まることを知らず、体の中を循環していくだけだった。
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英雄の軌跡3
「帝国の近くにある村が滅んだらしい、と酒場の冒険者が話している。それはルークにとってはひどく身近なことで、胸が痛んだ。ルークの生まれ育った村は帝国の魔の手がかかり、今は王国の都市に逃げ延びてきていた。王国の防御は辺境の村にまで行き届くことはなく、重要な都市や村を守るので精いっぱいだった。先ほど話していた冒険者も、普段なら魔物を相手にしているのだが、戦争がはじまるとその相手が人間にかわる。といっても、まだ帝国兵士がこの都市まで攻め込んできていない分マシではあるが、戦争によって鉱石や食料の需要が跳ね上がり、冒険者稼業も満足にいっていないようである。ルークはこの都市で冒険者登録を行った。もとより鍬を握る事しか出来なかった身の上だが、今は聖剣が手元にある。何をするにしてもまずは金が必要なのだ。」
ルークの伝記
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