第2話
まず最初に感じたのは吐き気と頭痛。まるで酷い時差ボケにあった感覚だ。まっすぐに立つことも出来ない。脳に送られてくる視覚情報は歪んでいる。
「うぅ、うぉえ・・・」
思わずその場に吐く。
(何が起きた?いったい何が・・・)
僕はさっきまで大学の屋上で日没の美しさに見とれていたはずだ。それが何故今激痛に襲われながら地面に倒れ伏しているんだ?
暫くして五感が確かに戻ってくる感覚がした。それと同時にさっきの吐しゃ物が服についており、その刺激臭に顔をしかめそうになるが、その前に目の前に広がる非現実的な景色に驚きが先に表れる。
「どこだ、ここ・・・」
さっきまで確かに大学の屋上にいたはずだ。なのに目の前には一面の草原が広がっている。遠くの方に民家が一つ建っているがそれっきりだ。さらにその民家は明らかに木造であり、大学の面影は何処にもない。
「と、とりあえずあの民家に行かないと・・・」
そう思って立ち上がった時だった。
「ぐぁっ!」
左手に突如激痛が走った。慌てて左を見ると、見たこともない化け物が僕の左手に牙を突き立てている。一瞬理解が追い付かず、いつもの癖で思考の海に沈みかけたが再度激痛に襲われ、強制的に引き上げられる。なにが起こっているか分からないが、とりあえず逃げないといけないと思い動き出した時だった。
「ぐっ、あぁぁぁ!あがっ」
ブチュリという嫌な音と共に僕の左手がその化け物の口の中に消えていく。食われたのだ、そんな思考は今度は一瞬だった。
(逃げないと!)
そんな生存意欲が辛うじて僕の足を動かした。少しだけ化け物から離れてすぐに腰を抜かし、その場にへたり込む。が、その少しがどうやら僕の命を救ったようだった。見ればその化け物は獰猛な牙を持ってはいるが植物であり、その場から動くことは出来ないようだった。ガチッガチッ、と僕の目の前で牙が鳴らされるがその牙はもう僕には届いていない。
(助かった・・・)
その安堵感は僕に激痛を思い出させるだけだった。痛みでまともに思考も出来ないが、すぐさま止血をしないと手遅れになるという事だけ理解し、生存本能が僕を民家まで歩かせた。幸いその草原には先ほどの化け物以外に危険そうな生き物はおらず、なんとか民家に辿り着けた。
「誰かいませんか?」
すぐさま扉を開け、同時に人がいないか確認する。椅子に座って本を読んでいた老人がこちらに気付き、その後僕の怪我を見て驚いた顔をし、大声をあげる。しかし、何を言ってるか全くわからない。薄れゆく意識の中で老人が僕のことを心配そうな目で見ていた。
次に意識が戻った時、木のいい匂いがすると同時に目の前には見慣れない天井があった。確かな五感と共に生きていることを実感する。一息つくと訳の分からないことの連続だったという実感が湧く。ここは何処だろう、あの魔物は何だろう、あの老人は化け物じゃないよね、等という疑問がわくがまずは自分の左手を見る。老人の手によるものだろうか。包帯がまかれており、手首の先がないのを実感する。それと同時に新たな疑問が湧く。先ほどまでの激痛が消えている。これは一体どういう事だろうか。
(いや、まずは老人にお礼を言わないと)
そして言葉が通じないながらもなんとかお礼が伝わった後、老人がベッドを指さした。どうやらまだ休んでおけ、という事らしい。
(老人が化け物の仲間なら逃げきれないし、ここは老人を信じるしかない)
僕は有難くベッドに入った。色々とありすぎたが全て夢でしたというオチをほんの少し期待して。
_____
ハラウル
「そのモンスターはもともとは植物だったが、他の生物を食らうことで生命力を得ると同時に力もつける。また、餌がなくても植物本来の光合成と呼吸をすることもでき、非常にタフである。背丈も高く迫力があり、魔法器官も備えていることから、弱い攻撃などは魔法でガードしてしまう。また、体内に魔力を持つ生物を食らった場合は、その魔物が持ってた魔力を使い防御魔法以外まで習得してしまう」
リュミの世界モンスター図鑑
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