fallen
M106
第1話
「僕らなんで生きてるんだろうね」
そんな答えのない質問を投げかけられた。こいつとは中学校からの付き合いだが、なんで今更こんなことを聞いてくるのかわからない。いや、大学生という悩ましい時期だからこそか?
「知らねーよ、リュー。むしろ俺が聞きてーくらいだ」
いつもの相槌を返す。こうするとこいつは決まって自分で考えこむのだ。
「最近まではセンター試験頑張るぞっていう生きる目標があったんだけどなぁ。なんか部活はいってそれを目標にするかな?でも勉強も続けないとせっかく大学に入った意味がないし。いや、やっぱり大学生と言えばアルバイトか・・・?」
こいつが些細なことで考え込む癖は昔から変わらない。いちいち相手にするのが面倒な時はこうやってどっぷりと考えに沈ませてやるのが一番だ。そもそも俺はリューほど思慮深い性格ではない。大学選びも実家から通えてそこそこ良い大学ならどこでも、って感じだった。授業料を払ってくれる親には感謝しているが、大学に入って特にこれといったやりたいことはない。
「なぁ、リュー」
ある程度時間が経ってから、こいつを強制的に思考の海から引きずり出す。
「なに?勝っちゃん」
「生きてるってさ、素晴らしいことだよな」
「え?なに、急に・・・」
「ぶっちゃけ俺生きる目標とか定まってないけど、海外ではさ、その日生き延びるだけでも辛いやつとか、そもそも学校に行けないやつとかいるじゃん。なんかそーゆうの考えたらさ、生きる意味ダラダラ考え込む日々を送れるってだけで幸せモンだよな、って」
「勝っちゃん・・・・・。それ、国際経済学の教授の受け売り?」
「っ、なぜそれを!」
「だって一緒に授業取ってるじゃん。覚えてるよ、それくらい。」
「うぐっ・・・」
こいつは結構記憶力がいいのだ。俺はいつか教授をからかうためにこのフレーズを覚えたが、こいつは何でもないことまで覚えている。
「あと何でいきなりそんなカッコいい台詞を言ったかだけど・・・。君の後ろで昼食食べてる女性に聞かせたかったからかな?勝っちゃん前からいつか告白したいって言ってたもんね」
「バッ、お前、シー。シー!」
こいつは結構観察力もいいのだ。でも性格が少し悪い気もする。
「さて午後の授業も一緒だよね。僕あの先生好きだから楽しみだなー」
「うぇ、お前あの先生好きなのかよ。授業中スマホ触れねぇし最悪じゃね?」
「いやいや、自主性を強調した大学生の授業って感じで楽しいよ。グループワークも他人の意見を聞けるし、学べることは多いよねぇ」
「うへぇ・・・。まぁ、とにかく午後の授業もパパっと終わらすか」
最後の俺の言葉にリューの同意はなかった。自分の信念や考えは曲げずに突き通す。変わらないなと思ったところで、世渡り下手なこいつの唯一の理解者であり親友であることを同時に誇らしく思った。
「まったく、心配になるレベルだぜ・・・」
「勝っちゃん、なんか言った?」
「いや、何にも。さっさといこーぜ!」
こんな変わらない日常がいつまでも続くと思っていた。あの時までは。
「5限目終わったし帰ろーぜ、リュー」
「うん、そーだね」
「待って、丁度この時間日の入りが見れる。僕屋上にいって見てくるよ」
「またか?そんなに日の入り見たいのか」
「うん、だって綺麗だもん」
「はぁ、分かったよ。俺は先に帰るからな。あんま遅くなると帰り危なくなるから。ほどほどに、な」
「分かった。勝っちゃんは優しいねー」
いつも後悔する。俺があの時リューのことを止めることが出来てたら。俺がリューに嫌われても良かったから強制的に帰らせれば、あんなことには・・・。
次の日、リューは学校に来なかった。風邪かと思ったが、次の日も、その次の日もリューは学校に来なかった。不審に思って電話をしたがスマホは虚しい音を響かせるだけだった。そして暫くして警察が大学に来た。
「こんにちは。私は警察の者なんですが・・・。あなたは神木龍之介君と仲が良かった八代勝君ですよね?神木龍之介君の失踪事件について何か心当たりはありませんか?」
リューが消えた日から俺の人生は変わった。
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