誘拐ですよ、宮藤さん！

鈍感は罪

最近、宮藤美園の周辺で、変わったことが二つある。

一つ目は、高校の元後輩であり、現隣人である椛が、頻繁に遊びに来ることだ。

頻繁といっても、毎週土日に来るだけなのだが、彼女が大学生だという事を考慮すれば、十二分に多い頻度と言える。

その甲斐あってか、聖音の椛に対する警戒心は解け、今ではそれなりに親しくなっている。

聖音は少し、内気というか内弁慶なところがあるから、椛がそれを直してくれるのなら万々歳である。

……しかし、二つ目が問題。

聖音が最近、挙動不審なのだ。

思えば、椛が初めて家に来た日を皮切りに、徐々にその症状は悪化しているような気がする。

テレビを見ていると、背後から視線を感じ、気になって振り向くと、大体いつも聖音と目が合って、そのまま双方硬直後、恥ずかしくなってどちらかが目を逸らす、という事例が多発している。

特段様子が可笑しかったのは、昨日の夕食時だ。

聖音の口元に米粒が付いていたから、私がそれを指摘してやると、

『い、いい!自分で取れるから!』

なんて、私はちっとも取る素振りをしてないのに、何故か焦って米粒を取る聖音を、奇異の目で見ていると、その視線をどう曲解したのか、今度はわざとらしく米粒を口元に付け、

『取って、ねぇ取って』

と、せがんできたから、たまたま手元にあったティッシュで拭ってやった。

なのに、聖音は期待を裏切られたような顔をし、朝まで口を聞いてくれなかった。

……なんてことがあり、どう対応すれば良かったのか、今でも全く分かってない。

取り敢えず今日のところは、大学の帰りに甘い物でも買ってこよう……。