《3》捕らえられた人たち
ラナイとオウルが連れていかれたのは、先程いた円形の広間からそう遠くはない小部屋だった。
部屋の扉の前には神官が立っていたが、ならず者と彼女たちを見ても驚きはしなかった。
それどころか、ならず者の男に普通に話しかける。
「ん、そいつらは……」
「幻術に気づいたから連れてきた」
ならず者の男も平然と答えた。どうやら神官服を着ているものの、中身は神官ではないようである。
「うお、まじかよ。なんか凄そうなやつらだな……」
「心配するな。術は封じてある。なにもできねぇよ」
「お、おう、そうだな」
神官風の男は、オウルとラナイの周りに赤いリングが浮かんでいるのを認めて安堵の息を漏らした。
部屋には数十人の神官や巫女、神殿を警護するはずの兵士までもが床に描かれた捕縛陣に閉じ込められていて、その周りを五人のならず者たちが囲っている。
陣の中で座り込んでいる数人がラナイの姿を見て声を上げた。
「……ラナイ!?」
「ラナイさん……!」
「なぜここに」
どうやらラナイが神殿にいた頃を知る人たちのようだ。たしかに、話し相手に困らないくらいにその部屋には人がいた。
「三人ともその中に入れ」
ならず者が後ろに立つラナイとオウル、ミレイを僅かに振り返り顎でしゃくる。その中、とは言わずもがな捕縛陣のことだ。
ラナイとミレイがどちらからともなく歩き出す。彼女たちの後ろをついていきながら、オウルは床の捕縛陣にちらりと視線を向けた。
陣の一部にリングと同じ術式が組み込まれているのが見える。
そしてこの陣は設置型――陣の外周付近で四つの
その一つの近くをオウルは通っていく。真横に差し掛かった時、空色の瞳がほんの一瞬、術式紋の刻まれた丸い石に向かう。
「……」
ラナイに続いてミレイ、最後にオウルが陣に足を踏み入れると術式封じのリングは消え去った。
「ソアレスさん……エクリッド大神官様まで! これはいったい……!? あの人たちは……」
「あいつらが突然やって来てこの有様じゃ。神殿兵たちも、わしらが人質にされたせいで捕まってしまってな……」
ラナイが膝を折ってたずねると、エクリッドと呼ばれた白髪まじりの老人は困り切ったように首を横に振る。青と藍白色の長衣を重ねた服装に、刺繍のされた細長い布を肩から垂らしていた。
「ラナイやそちらの人に怪我とかなくてよかったよ」
大神官の傍に座った茶色い髪の青年――ソアレスはラナイとオウルを見ながら安心したように言った。青と水色の神官服を着ており、やや垂れ目の彼は気が弱そうな印象を受ける。
「いいえ、そんな……! まさか神殿がこんなことになっているなんて……私たちまで捕まってしまって申し訳ないです」
ラナイは肩を落としてそう答えた。
応接間で待っているリュウキと遅れてくるリルはこの事態には気づいていないだろうが、こちらがなかなか戻ってこないと流石に不審に思うのは間違いない。
そうなる前に二人もここに連れてくるつもりなのだろうか。
「外部から来た人は、巫女や神官に対応させて帰させていると聞いてたけど……」
「こちらの聖騎士様が幻術を使われていることに気づいて、それで私たちは帰せなくなったみたいです」
首を傾げるソアレスに、ラナイがここに連れてこられた経緯を説明した。
対応させていた一人が、神殿の入り口付近にいたジェスナや、案内役のミレイだったのだ。ミレイに案内させ、都合が悪い部分は幻術で隠し、適当なところで帰ってもらう予定だったのだろう。
「幻術を見破った……!?」
ソアレスたちは驚いたようにラナイの斜め後ろに腰を下ろしたオウルを見る。
「ああ、水の香りに微かに別の匂いが混じっているのにたまたま気づいただけなんで」
ちょっと鼻がいいんですよーと軽く微笑んで空色の聖騎士は言った。
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