《4》大神官と支部長
周囲を見回したオウルは、捕縛陣の中に巫女や神官とはまた別の服装の人たちがいることに気づいた。
「おや……そちらは天導協会の方ですか?」
二人のうち淡黄色と茶色の長衣をまとった壮年の男性が口を開く。
「私は天導協会スレイシェ支部の支部長シェーニです。こちらは部下のトルス。大神官と会合している時にあの者たちに出くわしましてね」
「そうでしたか。大変でしたね」
「……え、シェーニ様?」
名前を聞いてラナイが振り向く。元から気難しげな顔をしているシェーニだったが、僅かに目元が緩んだ。
「久しぶりですね、ラナイ」
「シェーニ様、神殿から天導協会に来てらしたのですか。全く知らずに……! 支部長になられていたんですね。おめでとうございます」
「ありがとう……と言いたいところですが、そういうのは後にしましょう。今は非常事態です」
「あ、すみません。そうですね」
「とはいっても、お手上げ状態じゃがの……別にそういう話しててもいいんじゃないかね?」
向かい合っているラナイとシェーニの間に、エクリッドがひょいと顔を覗かせる。シェーニは眉間にしわを寄せて彼を見た。
「何を呑気なことを言っているんですか。そもそもあなたの神殿で事が起きているんですよ。もうちょっと危機感とかないんですか?」
「はは、シェーニは真面目じゃの。ま、今に始まったことじゃないが」
「……私は支部長という立場で今ここにいるんですがね? そのあたりのことを少しは考えた言動を……」
「いやーシェーニも出世したもんじゃろう? 支部長だからの! まあ、
「…………」
シェーニの言葉に頓着せずにエクリッドは笑いながらラナイに話しかけた(しかも、ばしばしと元補佐の背中を叩いている)。
そんなエクリッドにシェーニは更に眉間にしわを寄せ、その後ろではソアレスが落ち着かなさげに二人を眺めている。
「はい。シェーニ様がご出世されて何よりです」
ラナイが嬉しそうに微笑むと、シェーニはもう諦めたようにため息をついた。
「まったく……宝物殿の物を盗られたりしたらどうするんですか。こんな辺境の神殿に押し入る目的なんてそれくらいしか考えられないですし」
「うちみたいな小さい神殿じゃ、まともにお金になるものなんてないんじゃがの……」
相変わらずエクリッドは飄々としているが、その目が僅かに細められる。
平然としているが、彼と付き合いの長い者や注意深い者ならば、彼が口で言っているほど悠長に構えているわけではないのが分かるだろう。
なにしろ、この神殿にはラナイたちの目的の物――<人界の書>が保管されているからだ。
(かなり重要度は上のはず……そんな簡単に持ち出されるようにはなっていないはずですが……)
しかし、<聖域の書>は現に外部へと出てしまっている。
ならず者が関係者なのかはわからないが、最悪の場合も想定してやはり一刻も早くなんとかしなければ。
エクリッドの心境に気づいてか、シェーニの顔にやや気遣わしげな空気が漂う。
「……確かに八方塞がりなのは認めますけどね。この捕縛陣は術式封じまでされていますし、それにもしここを出られたとしても迂闊には動けません」
「どういうことですか?」
たずねるラナイに、シェーニが深い息を吐いて言った。
「四つの結界柱の
「確かに各社へ連絡がつかなくなっておるからな……」
「そんな……!?」
シェーニとエクリッドの言葉にラナイは青ざめた。
結界柱はこの街を覆っている半円形状の防御壁の要になっているものだ。それがなくなってしまえば街が水没してしまう。
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