《5》隠し事?
(……そういえば何かあったといえば……)
ノイエスの騒動? ですっかり忘れていたリュウキだったが、はたと思い出した。
「ラナイとメルファさんも何かあったのか?」
「何かって……なに?」
ジェスナは今度は本当に意味が分からないらしく逆に聞き返した。
「いや、喧嘩でもしたのかと。メルファさんの話をしたときにラナイの様子がおかしかったんだが」
「え……? ここ最近で二人の間に何か起きるはずはないけど」
「……? なんでそう言い切れるんだ?」
なぜか断言するジェスナにリュウキは訳が分からず眉をひそめる。
「え、だって、メルファさんずっと昏睡状態よ?」
「……なんだと?」
思いもしなかった事に、リュウキは耳を疑った。
「え、え? ラナイから聞いてないの?」
「聞いてない。いつから?」
「えっと……もう一年以上かしら? 一年半前?」
「…………」
(確かそのくらいにはラナイとは会ってたよな……)
リュウキは知らなかったらしいと知ってジェスナは内心慌てた。
(え、黙ってたってこと? 言っちゃいけなかった……?)
案の定、ラナイが彼女の母メルファの事を知らせていなかったことにリュウキは怒っている様子だ。
「ラナイが言っていないのはきっと何か理由があるはずよ」
「何かってなんだよ」
「えっと……ラナイ自身落ち込んでたとか、今まで言う機会がなかったとか?」
「少なくともここに来るまでは変わりなかった。時間もたっぷりあったが?」
「…………」
「…………」
「と、とにかくちゃんとラナイに理由を聞いてから……」
ジェスナがそう言いかけたところで部屋の扉が開く音がした。誰か来たのかとリュウキとジェスナが振り返る。
扉から姿を現したのは。
「待たせちゃったわね……ってあれ、リュウキだけ?」
神殿の巫女に案内されてやってきたリルだった。案内の巫女はそのまま戻っていく。
「神殿側からの指定でラナイとオウルが今宝物殿に行ってる」
最初はラナイだけだったが、その辺は言わなかった。
「え、そうだったの? なんだ、急いできたのに……」
リュウキの言葉にリルはがっくりと肩を落とす。
「ごめんなさいね。上の決定なので」
「ああ、いえ! 別にいいですよ。遅れた私が悪いので」
ジェスナが申し訳なさそうに言うのでリルは慌てて首を振った。
「どっちにしろ遅れた時点でお前は留守番だったから変わらないがな」
「えー……ちょっとくらい待ってくれても……」
「そんな時間はない」
「……うぅ」
取り付く島もないとはまさにこのことだろう。
確かに本当は奪われた祭器の追跡をしていなくてはならないのだ。リュウキの言葉に言い返す部分もないのでリルは大人しくすることにした。
(……というか、なんかリュウキ機嫌悪いような……?)
いつもむすっとしているので何とも言えないが、リルは直感的にそう感じた。
「あ、留守番なら私ちょっと行っておきたい所があるんだけど」
「…………」
「え、あ、観光とかじゃないからね! 違う違う!」
リュウキが無言で睨んでくるので、リルは慌てて首を振った。嘘ではない。
「この子をノイエスのところに届けたいのよ」
そう言いながらリルは腰の小さい革鞄を開ける。すると少し前に見たワタロウが顔を出した。
綿毛は真っ白かったはずだか、少し汚れているように見える。
「なにそれ?」
ジェスナは目を丸くしてワタロウをしげしげと見た。
「あーこれは私の知り合いの発明品なんです。護身用みたいな感じかな」
リルは簡単に説明した。
「……? そいつ勝手に飛んでいくだろ?」
「そうなんだけど、なんかちょっと壊れてるみたいで飛ぶのをうまく制御できないんだって。木に引っ掛かってるのを見つけて助けたんだけど、その後が見てられなかったのよ……。悪ガキから逃げれなかったり、ちょっと強風が吹くと飛ばされたり、鳥に捕まったり……」
「マスターや兄たちのところへ戻る道は遠く険しいということがわかりまシタ」
「いや同じ町にいるんでしょ……」
「…………」
「…………」
ちなみにこのワタロウはさっきのワタロウではないらしい。ワタサブローと名乗った。兄たちというのはワタロウその他を指しているらしかった。
「えっと……そういう経緯だったのよ。送ってきていい?」
「…………」
もうリュウキは睨んでは来なかった。ということは。
「じゃあちょっと行ってくる」
リルが部屋から出ようとするとリュウキが言った。
「……俺も行く」
「え?」
「え?」
リルとジェスナは驚いてリュウキを見る。リルにとっては驚くことではあるが、なぜジェスナまで驚いたのかリルにはわからなかった。
「リュウキまだ話が」
「俺はもうない」
「ちょっと……」
ジェスナは引き留めようとするがリュウキは聞かずにさっさと部屋を出て行ってしまった。
「……えっと、連れ戻しましょうか?」
「ん、いいのよ。たぶんリュウキもわかってるとは思うから」
リルが扉とジェスナを交互に見ながら困惑気味にたずねると、彼女は苦笑しつつ首を振った。
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