《2》リル、世話を焼く
「ん? あっちの人はどこかで見たことあるような……? オ……ル……なんだっけ」
オウルを見てノイエスが名前を思い出そうと首を傾げた。
「え、オウルだけど。知り合いなの?」
リルが意外そうに二人を交互に見た。
「うん? そうだったかな。もっと大人数の任務で一緒になったのかもね」
「んーオウルさん? そんな名前だったかな? まあいっか」
オウルはあまり覚えてないらしく、ノイエスもまた曖昧な様子だ。
「まあ、合同任務で一緒になってもあまり覚えないわよね。何か印象があったら別だけど……」
大量に<虚獣>が発生した時などは大規模な掃討任務となり、それにあたる人数も多くなるのだ。
「それにしても、リュウキみたいな人もいるんですね」
「え?」
「は?」
ラナイの言葉の意味が分からず、リルとリュウキは同時にそう返した。
「リュウキも本を読むのに夢中でよくご飯食べ忘れるんですよ」
「なに、リュウキまで……」
「…………」
リルが呆れ顔で見るとリュウキはきまり悪そうにそっぽを向いた。そんな三人をノイエスは瞬きしながら眺めている。彼にくっついているワタロウたちの数がまた微妙に増えているような気がしなくもない。
「ところで、約束の時間まであと十分くらいだけど」
食堂の時計を見てオウルが言った。
「あれ、本当だわ……ノイエスのせいで全然予定が……」
街歩きするつもりだったのに……とリルは項垂れる。
食堂へはすぐだったが、料理が出るまでに五分、食べる時間で十五分程が経過していた。もちろん食べているのはノイエスだけで、リルたちは飲み物だが。
「十分前ですか、そろそろ戻っておいた方がいいかと」
「そうね。んじゃ、ノイエス私たちは行くわね」
リルたちは荷物を持って席を立った。もちろんノイエスと勘定は別である。
ノイエスはスプーン片手にひらひらと手を振った。
「はぐはぐ……むぐむぐ」
「マスターは『わかった、またねぇ』と申しています(..)」
「…………」
食べ物が口にあるせいで声が出せないノイエスに変わってワタロウが代弁した。
「むぁ!?」
手を振っていたノイエスの腕が水の入ったコップに当たり中身がこぼれてしまう。ノイエスは倒れたコップを慌てて起こした。
「ああーちょっと何やってるのよ……」
勘定をしようとしていたリルはそれに気づきノイエスの方に戻ってきた。そしてテーブルにこぼれた水を適当なおしぼりで拭いてあげようとすると、
「むぐ……!?」
何か詰まらせたような呻き声が近くから聞こえてきた。もちろんノイエスしかいない。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
びっくりしたリルは店員から新しいお水を貰って手渡した。
ノイエスはぐびーっと水を流し込んで一息つく。リルも同時に息を吐いた。
「気をつけなさいよね……」
「えへへ……ごめんごめん」
ノイエスはワタロウなどいろいろ発明するほど頭はいいのだが、反面どこか抜けている部分があるのだ。
ローラと同じくアカデミー時代からの付き合いだが、リルはいつもそんなノイエスの世話? を焼く感じだった。ちなみにノイエスは飛び級なので年は二つ下だったりする。
「あ! リルたちの分僕が払っておくよ」
リルが手にしている勘定書を見てノイエスはそう言った。
「そう? ありがと」
「リルたち急いでるんでしょ? 仲間の人もう行っちゃってるし」
「うわ、本当だ」
店の中にも硝子張りの外にもリュウキたちの姿が見えないことにリルは気づく。ノイエスに付き合っているうちに置いてきぼりになっていたらしい。
「それじゃーね!」
「うん、またねぇ」
リルは今度こそノイエスと別れたのだった。
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