第2話 発明家の少年

《1》原因は……

 助けを求められて放っておくわけにもいかず、リルたちはふわふわ(仮)の案内で街の中を走っていた。前方を飛ぶ謎のふわふわを見ながらラナイがたずねる。


「この方は聖獣ですか?」

「違う違う! えーっと、知り合いになんかいろんなものを発明する人がいて、あれもその発明の一つなのよ」

『そうそう、ワタロウ? とか呼んでたっけ?』


 ヴァレルも知り合いらしくリルの言葉に頷きながら話した。

 先導していたワタロウは町の一角で止まる。目の前にはまばらに立ち並ぶ木々とそれを囲う青々とした茂み。そこは街の中のちょっとした広場のようだった。


「この先ですー><」


 そう言うや否やワタロウはその茂みに突っ込んでいった。リルたちも間をおかずに続けてその中に分け入る。

 茂みを抜けた先には亜麻色の髪の少年がうつ伏せに倒れていた。


「ノイエス!?」

「大丈夫……!?」


 リルと人型をとったヴァレルは驚いてその少年の方へ駆けていった。その近くをワタロウがおろおろと動き回っている。


「う……うー……ん……」


 ノイエスと呼ばれた神人は僅かに顔を動かし身じろぎした。歳はリルより二、三歳年下のようで、少し大きめの丸い眼鏡をかけている。


「いったい何があったの!? 誰かに襲われたの!?」


 リルは意識はあるらしいノイエスに問いかけるが、応える気力まではないようだ。やや長めの前髪から見える顔色はよくないように見える。


「特に外傷はないようですが……」


 ノイエスの傍で膝を折ったラナイも心配そうな顔で彼の様子を看る。


「なにか術でもかけられているとか……?」

「いや、その痕跡はないようだね」


 リルの言葉にノイエスの倒れている周囲を歩いたオウルがそう言った。<虚獣>かともリュウキは内心思ったが、同じくその気配はない。


「とりあえず私が治癒をしてみましょうか。外から見えないものかもしれませんし」

「その前にどこかに運んだ方がよくない?」

「もし頭打ったりしてるなら無理に動かさない方が……」


 などとみんなで話していると、ノイエスの口が小さく動く。


「……お……いた……」

「!! なに、ノイエス!?」


 何を伝えようとしているのかとリルたちはノイエスの消え入りそうな声に聞き耳を立てる。


「……おなか……すいた……」


 同時に、倒れ伏したノイエスの腹のあたりから盛大な音が鳴り響いた。


「「「「……………………」」」」





「うーん、生き返る――――」


 もぐもぐと皿に盛りつけられた料理を食べながらノイエスは言った。

 あれからリルたちは”お腹がすいて”死にそうなノイエスを連れて食堂に来ていた。


「まったく……人騒がせな……」


 ノイエスの向かいの席に座ったリルはテーブルに突っ伏していた。それを見て彼は首を傾げる。


「どうひたのイル。リウもお腹すいたの?」

「違うわ」


 目を据わらせて否定するリルである。


「でも、怪我もなくてよかったですね」

「ラナイちゃんでも、さすがに空腹は治せないもんねぇ」


 その隣でのんびりとラナイとオウルがそんな会話をした。


「…………」


 リュウキはリルと同じ心境だったが、ノイエスと知り合いではないので口には出さなかった。

 はた迷惑なことではあったが……


「んで、なんであそこで倒れてたのよ? というか、何で倒れるまで何も食べてないのよ!?」


 ノイエスもリルやオウルと同じく聖域騎士団に所属している。食べ物を買うお金がないなどということはない……はずである。


「うーんと、ここに来るまでは数日研究に集中してたんだけど……そういえばしばらく食べてなかったかなぁ」


 お金があっても使わなければ意味がない。


「かなぁ、じゃないでしょ……いつか餓死しても知らないわよ!?」


 呑気にデザートをつついているノイエスをリルはまくし立てる。そんな彼女にラナイが考えるような表情で声をかけた。


「まあまあリルさん。ノイエス君も一応何か食べようとはしてたんじゃないですかね?」

「む?」

「ほら、ノイエス君が倒れていた場所、食堂の近くだったじゃないですか」

「そういえばそうだったわ……」


 ラナイの言葉にリルは確かにと頷いた。

 本能的に食べ物を求めて食堂にいこうとしたが力及ばず……といったところだろうか。


「たまたま私がこの町にいたからよかったものの……いなかったらどうなってたか……」


 しかし、リルはまだ治まらない様子でぶつくさと愚痴をこぼす。


「いたんだからいいじゃん――」

「よくないから!!」

「大丈夫だよぉ。僕の生命的危機の時にはワタロウたちがさっきみたいに登録してある仲間の中で一番近い人に連絡しに行くからー」


 そう言うノイエスの頭や肩にはワタロウが二、三体? くっついていた。最初は一体だけだったがいつの間にか増えている。


「だから、たまたま近くにいたからよかったけど! これが隣町とかだったら……」


 まだまだリルはぶつくさぶつくさと言う。ノイエスはそんなリルを他所にラナイたちの方を見た。


「そっちの人たちはー?」

「あ、初めまして。今リルさんたちと任務でご一緒してます。天導協会のラナイと言います。こちらはリュウキです」

「どうもどうもー。僕はノイエスだよぉ。よろしくねぇ」


 微笑むラナイにノイエスもにこにこと笑顔で返した。リュウキはノイエスの方を一瞥しただけだったが。


「あれ、そっちの人なんか不機嫌そうだけどお腹でもすいてるの?」

「いえ、リュウキはいつもこんな顔なので。それにまだお腹はすいてないと思います」

「…………」


 確かに事実なのだが……ラナイも悪気はないのはわかっているが複雑な気分のリュウキである。

 とりあえず笑いを堪えているリルとオウルを一睨みしておいた。

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