第7話 祖父と孫
「伍です。あなたの孫に当たります」
伍は上ずった声でそう言うと、受話器を私に差し出す。ジェスチャーで喋るように促されたので、私も同じように自己紹介をした。
「もしかして未来からかけているのか」
「はい、あなたの論文をもとにして、ブルーボックスを完成させたのです」
「こんな奇跡があっていいのか」
祖父は未来から電話が来たということではなく、ブルーボックスが孫の手に渡っていることに驚愕したのだろう。
「この電話の正体は隠しておくはずだったが、まさか論文を説いたのか」
「正確に言うと未来の僕が論文を読み、間違えてブルーボックスを造ってしまい……」
伍がそう言うと、祖父は高笑いをする。
「そんな複雑に未来が捻じれているとはな。あの論文に隠した物を間違って造るとは……全くこんな偶然あるんだな、ところでそっちの俺はどうなっている」
祖父にそう言われ、伍の口は止まる。流石にまだ生きている人に「死んでいます」と告げるのは気が引ける。しかし、それがこの電話の目的である。伍は息を吸い、はっきりと伝えた。
「じいちゃんよく聞いて、そのために僕は電話をかけたんだ。結論から言うと、じいちゃはこの後に乗るアメリカ行きの飛行機が墜落して死ぬ」
「じゃあその未来には俺はもういないのか」
「まぁそうだね、でも僕の言う飛行機に乗らなければ助かる」
伍がそう言うと祖父は少し、沈黙した。
「分かった、ありがとう教えてくれて」
「七月三十日の便はやめた方がいい、ごめん詳しく分からなくて」
「それだけで十分だ。お前たちが俺を助けてくれた。並行世界で会った時にまた改めて礼を言うよ」
祖父はそう言って、電話を切ろうとした。
「ちょっと待って下さい」
私は最後にどうしても聞きたいことがあった。それは祖父の死と深く関係があるものではないが、どうしても知りたかったのだ。
「ばあちゃんとは会えたのですか」
私がそう言うと受話器越しに「えっ」という小さい声が聞こえる。祖父は少し間を置くと、清々しい声で答えてくれた。
「会えたよ、この天覧山で……」
その瞬間、いままで繋がっていたことが嘘のように、受話器からは何の音もしなくなった。
まるでブルーボックスがガラクタに変わったかのように何の反応も見せなくなってしまった。
「この電話は役目を終えたんだ。多分じいちゃんが論文からこのブルーボックスに至る工程を抜いたんだろう」
伍はそう言って、受話器を元に戻す。
「もうこれは鉄の塊でしかない」
「これで終わったんだね」
「じいちゃんは生きている、多分母さんも」
伍はブルーボックスをそっと、地面に置いた。受話器に夕日が差し込み、オレンジ色に輝く。
「おい、帰るぞ」
すると二人の背後から声がした。懐かしい声だった。私たちは勢いよく振り向いて声の主を確認する。
「母さんが待ってるぞ」
そこには男が二人立っていた。一人は父、そしてもう一人は知らない老人だ。
「懐かしいなここ」
老人はそう言って、展望台から町を見下ろす。その老人の声は先程まで受話器から聞こえていた声だった。
セカンドダイヤル マムシ @mamushi2001
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