13

 次に目を覚ました、いや意識が存在していたのはここにいるはずもない母と父の前であった。毎朝感じるこの感覚。あの夢に違いない。

 この感覚を俺が忘れられるはずがなかった。


 見るからに以来ついている母の口が一番最初に開く。


「うるさい、うるさい、黙れ」


 何故か今日は俺の心が母の暴言にざわつく。


「誰のおかげで生きていると思ってんのよ」

「私を世話しろ金稼いでやんってんだろ」

「うるっせぇな・・・子供は黙って親の言うこと聞けよ!」

―ドカッ ドカッ 


 痛いからやめてっ・・・

 いつもなら感じない感覚が俺を襲った。

 痛くはなかったがこの蹴りからは俺の体に穴を開けていくような感覚がした。その存在を消すかのように。


「殺すぞ」

「あなたなんかいなくなればいいのに」

「あなたがいるからあんなことにっ!」

「消えろよ・・・」

「死ねぇ!」


 蹴り同様に、次は言葉で俺の存在を否定する。

 存在そのものを否定する言葉は俺の心を抉った。

 

 誰か・・・


「何だと? 今何つった!」

「この金魚の糞ふぜいが!」

「捨てるぞ」

「ねぇ、あなた私に生かされてるってわかってんの」

「あなたがいなければ私はどんなに楽だったか」

「これ以上私に迷惑かけてどうすんの? 生きてるだけで迷惑なのに」

「俺にこれ以上迷惑かけんな」


 台本に書いてあるように、最後に出てくるのは決まっていた。


 やめて・・・


「おい、こっちこいよ・・・」

―バシャッ 


 息が苦しい。


「おい、俺は父親だぞ!」

―バシャッ


 やめろ、もうやめてくれっ。

 思い出させるなぁっ!


「俺を尊敬しろ! 俺に敬服しろよ!」

―バシャッ


 今日は夢がことごとく俺の心を抉る。同時になくなった感覚が蘇ってきた。いや、忘れているだけだったのだ。俺が逃げていただけだった。

 

「助けて、誰か・・・」

 そう呟いた時には背中のシャツがソファにくっついている感覚があった。

 果たしてこの言葉が現実のものとなったのかは俺にはわからなかった。

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