第二章『色欲は××を愛している』

第19話 『プロローグ 2』

 極東第参支部。かつては宮城と呼ばれたそこ。


 今では敷地面積が三分の一以下にまで縮小されてしまい、大凡、人の住処とできる場所は街二つ分。第壱支部に比べれば面積こそは大きいが、人並みの生活を送れているとは到底言い難い。


 崩れたままの家屋かおくや、閑散とした商店街。平和と呼べるものはこの街にはほとんど存在しなかった。


 人々のほとんどが地下シェルターに押し込まれ、道端にはシェルターに入りきれない、ボロボロの衣服を身に纏った老人や青年。その全てがひとりの例外もなく、何処か遠いところを諦めきった表情で見つめている。


 というのも、第壱支部の部隊長である空翔あきと────いや、その先代の幸音ゆきねと、第参支部の部隊長の方針に、決定的な違いがあるからである。


 前者は平和の重視。街に住まう人々の平穏、平和を一番に考え、天使の出現前と変わらない生活を送れるように配慮していた。結果人々の間では笑みも絶えず、不安や不満が表面に現れることは────全くなかった、とは言い難いが────多くなかった。

 対し、後者は天使の殺戮を重視している。天使等を倒さなければ本物の平和は訪れず、仮初めの平和に染まり切るなんてことを『馬鹿らしい』と吐き捨てたのだ。


 使える資材は兵器の開発に全て使う。天使を全て殺すまでは平和なんてものは訪れない。


 犠牲も付きもので、町で暮らす人々は戦う自分たち以下だと。


 さすれば、その〝自分以下たち〟に使う金や、交渉の為の手間など有りはしない、と。


 そんな街を歩く、ひとりの影。黒い髪を逆立てた、三白眼の少年だった。

 見た目、年齢は十七〜十八程。身に纏っている服といえば、機動部隊の制服で、その右手には何やら血が滲んだ布袋が握られている。


 この少年こそ、くだんの第参支部の部隊長である。


 今しがた街の防衛を終えて本部に帰る途中ではあるが、そこかしこから向けられる視線の中に、羨望や感謝などと言ったモノは含まれていない。

 どれも冷たい感情。突き刺さるような視線を受けながら、少年は平然と道を進んでいく。


 途中、ゴミ捨て場へ乱雑に布袋を投げ捨て、大きなため息を吐き出しては。その袋には大した興味もないらしく、すぐに背中を向けて歩き出す。


 これが、この街の変わらぬ日常。

 ずっと続いてきた『いつも』の風景。


 この街の行く末は────まだ、見えない。

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