第16話 『救恤の大天使』

 所詮相手は人間だ。天使の力を得たとしても、人間の枠は超えきれない・・・・・・・・・・・

 我ら天使は人間の歴史に終止符を打つ。奴らは全て滅び、迎えるのは神代。我らは、人間コイツらのような失敗は起こさない。


 我らは人間の上位互換。

 我らには到底届かない。


 やいばも小癪な弾丸も、その全てが我らの前には無力。届かない────その、はずだったのに。


 眼前に迫る刃。轟音を纏い、私の首を叩き落とさんと吸い込まれていく。

 視認できない速度ではない。対処できないモノではない。しかし、


「────、────」


 今、この瞬間。

 自分の中から、天使たちの支配権が剥奪されたことを察した。

 自分の横に飛んでいる天使は何も手を出すことはなく。

 よもや、背後の『救恤の天獄』から肉達磨下級天使の気配すらも消失した。

 見捨てられたのだ。私は。

 諦められた。何もかもを。

 私はもう、最早どうでもいいと。


 ────ミカエル様、何故。


 何故です。何故ですか。この身は全て、ミカエル様の為に費やしてきました。この生は全て、ミカエル様の為に燃やしてきました。

 だというのに。何故、何故です。何故私は……何故こんな仕打ちを、受けなければならないのですか。


 湧き上がるのは恐怖だ。今、この瞬間、殺されるかもしれないという恐怖よりも。


 大好きな天使ヒトに捨てられたという事実が、怖くて仕方がなかった。


 咄嗟に天使の背骨を引き抜く。それでも間に合わない。判断が遅かった。

 どうしようもない死の暴力を目の前に、死ぬしかない未来を叩きつけられ、骨の髄から恐怖に震え上がる。


 神々しい翼。恐怖を感じるほどのソレ。到底人間とは形容できないまでものソレが、目の前で輝いている。


 ────おまえは。おまえたちは、なんなのだ。


 疑問は吐き出されることはない。刃が首の皮を破り、骨を断ち、視界が白んで行く。

 ずっと無力だと見下ろしてきた人間の手によって。私の、命は。


 走馬灯を見る。


 白い部屋。何もかもを与えられ、不自由なく暮らしていたジブん¿と。

 部屋の隅で、汚れたままの衣服を身に纏うナ¿ニか


 これは、この記憶は。

 わたしは、ワタシは、私は、なんなのだ?


 彼女に与えられたものが全てで。彼女の力だけが自分の全てで。私は、彼女のために全てを費やしてきた。


 一体、私の何処に────私が存在したのだろう。

 走馬灯までも、誰かもわからない誰かの記憶を見るなんて。


 私は、何処にいたのだろう。

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