4:王女たちの逆転 その2
「誰かこの者を捕らえよ!」
エリザベートが今さらながらまともな反応をするが、誰もやってこない。
「誰か! なにをしている!?」
いらだって癇癪を爆発させる様子は典型的なお嬢様だ。最初に登場した時の余裕も優雅さも欠片もなくなっていた。
「誰も来るわけはない。メディアがそう下知したのだから」
悪役っぽいセリフを吐いたのは魔王じゃなくて、ローネだった。
「お姉様……どういうことですの?」
「この街にいる教団関係者全員にエリザベートは教団幹部から追放すると通達したから」
「そ、そんな!?」
エリザベートは膝行してローネにすり寄る。
「私はメディア様のためを思っておりましたのに!」
「そう? そうは思えないのだけれど?」
ローネが言う。いや、これはメディアだ。口調も雰囲気も違う。
「ちっぽけな権力欲を私の教団で満たすなんて失礼だと思わないかしら?」
エリザベートはかろうじて悲鳴を飲み込んだ。あまりの威圧感に押されているのだ。神威とでも表現すればいいのか。
「わ、私は……」
言葉を続けようとしたエリザベートだが、唇が震えるだけで、それ以上の言葉は出てこない。ついに真っ青になってその場に崩れ落ちる。
「……私は……私は……」
つぶやきを繰り返すだけになったエリザベートに詰めたい視線を向けていたローネが我に返ったように息を飲む。床にうつ伏せになっているエリザベートに気づいたのだ。またメディアが消えたのだろう。
「エリザベート……」
「……お姉様」
立場を変えたふたりが哀れみと憎しみの視線を交わす。
と、俺の脇に漆黒の空間が口を開けた。闇を押し広げるようにして、ソーコちゃんが現れると、緊張した空気など存在しないようにファミに近づくとスッと紙の筒を差し出す。
「魔王様、魔王城の見取り図です」
「遅いわ! もういらぬ!」
「空気を読まぬ事ゾンビのごとしだな」
「そうですか。私は不要と……。では、在庫も処分します」
「ちょっと待て! 中身は我のものだぞ! 勝手に処分するな!」
「冗談です。では、失礼致します」
ソーコちゃんはそう言うと、すうっと闇の中に消えていった。
「ふむ、冗談まで言えるようになったか」
「凄ーい! 進化するんだー」
「進化違う。学習」
「そっかー。あの中でお勉強してるんだねー」
「あいつは寝てばかりだぞ。こっそりのぞいたことがあったが」
「のぞきなんだー」
「変態……」
「部下の仕事ぶりを監視するのは上司の権利だろうが!」
「せくはらだー!」
「最低……」
ふたりの非難に必死に抗戦する魔王を横目に、俺はソーコちゃんが置いていった魔王城の見取り図を広げて見てみた。
古びた紙は端の方が破れてるが、全体には綺麗な状態だ。
「これ、いつのだ?」
「我が転生する時だから1000年前だな」
「古っ! いや、その割に綺麗だな」
「我が魔法で時間を固定したからな。我にかかれば時間など取るに足らぬわ」
自慢っぽく言ったけど、転生して振り回されてるのは誰だよ? ちょっと呆れてしまったぞ。
とは言え、さすがに自慢するだけのことはある。当時のままの紙に描かれた魔王城の絵だ。現在、メディーナ教の本部になっているこの建物だ。
眺めていると、ふと妙なことに気づいた。
「なあ、この魔王城の見取り図なんだが、下手じゃないか?」
「なにがだ?」
「いや、城のくせに地面に浮いてるぞ」
「なんだと? そんなことは当たり前だ。この城は――」
その時だった、乱暴に扉が開けられると教兵が息せき切って駆け込んできた。
「たったっ大変ですっ!」
「どうしましたか?」
ローネの落ち着いた声音に立ち止まった教兵は息を整えると緊張した声で答える。
「兵が教会に侵攻してきました!」
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