4:王女たちの逆転 その1

「で、結局、どうなったんだ?」


 俺はファミこと魔王、セイルこと勇者、ローネを見渡して尋ねた。


「メディアがローネに入って」

「ローネがおまえにキスして」

「私がジェイトにキスした!?」


 また狼狽してわななくローネが口を挟んで議論は振り出しに戻った。ローネが我に返ってから何回同じことを繰り返してるんだろう。そろそろ前に進みたい。


「ローネ、頼むから口を閉じていてくれ」

「姫様に向かってなんと無礼な口の利き方を!」


 今度は別の方向から口を挟まれた。レジスタンスのおっさんたちだ。彼らにして見ればローネを救いに来たのだから当然と言えば当然なんだけど。うざい。


「い、いや、いいのだ。私がキキキキスくらいで動揺して話が進まないのだから。鍛錬が足りていない証左なのだ。たかがキ……キスくらいでっ!」


 顔を真っ赤にして狼狽えまくった声でローネは俺を庇ってくれた。うん、かわいいんだけど、そこでいきなり剣の代わりに火かき棒みたいな物を振り回さないで欲しい。


「……ああ、女神様はなぜ、私をお選びにならなかったのですか……」


 妹の方はいまだにショックから立ち直れずに打ちひしがれている。いいかげんうざいぞ。

 話を続けようと魔王と勇者に促す。


「メディアは昔から巫女という依り代に乗り移って信者に信託を与えていたのだ」

「巫女って神聖魔法が得意とかそんな女の子か?」

「いや、メディアの好みだ」

「は?」

「ヤツは面食いでな」

「ちなみにどんな感じの?」

「身長は高く、すらりとした体躯。胸は大きからず小さからず。腰はキュッと締まり、尻は小さめ。髪は長くて、面長。目力が強くて鼻筋が通った美女」

「はああ……」


 ローネを見てからエリザベートに目を移して納得した。ローネはドンピシャで、エリザベートは身長や体格で外れている。顔立ちも可愛い系だからローネとは違う。今は女神から拒絶されたショックで可愛いどころかゾンビのような顔だけどな。


「ところで、そのメディアがお近づきの印をやるとかいってたけど、あれはなんだ?」

「女神の祝福だな」

「祝福って?」

「まあ、メディアの加護が得られるってことだな」

「えー、いらねーよ」


 思わずペッペッと唾を吐くと、狼狽したままのローネがさらにショックを受けた顔で俺を見た。


「私の……キス……」

「い、いや! ローネじゃなくてメディアの祝福だ」

「私の初キッス……」

「あー、わかった! ごめん!」


 ローネを取りなしてる間に、おっさんたちとエリザベートが俺の吐いた唾に群がっていた。


「女神の祝福をなんともったいない!」

「メディア様の祝福!」

「いや、直接奪った方が――」


 おっさんたちとエリザベートが何かに気づいたように俺を振り返った。


「え? なに?」

「女神様の祝福は私のものよ!」


 俺の唇目がけて血迷ったエリザベートが飛びついてくる。


「祝福ってそう言うもんじゃねーだろ! 直接女神の口から取りゃいいだろ!」

「お姉さまにキスなんて出来ないわ!」

「そんな不敬なことが出来るか!」

「俺ならいいのかよ! ええい、装着!」


 とっさに勇者の鎧を呼び出す。ガシャンッと鋼鉄の鎧が俺とエリザベートの間を間一髪で遮った。

 一瞬遅れてエリザベートがガツンと兜に激突する。


「おっ!? 魔法が使えるようになったのか」


 メディアの結界とかでこれまで魔法が使えなかったのだ。これで魔王も元のように――。


「いや、メディアの結界ではなく、教会の建物全体に魔法阻害の結界が張られておるな」

「じゃあ、まだ使えないのか?」

「全体を破壊する気でやれば問題ない」

「いや、問題ありすぎるだろ」


 久々に魔王らしいことを言ったが却下だ。


「第2王女たる私を甲冑で殴るとは無礼者め!」


 その一方で、ひっくり返っていたエリザベートは顔を真っ赤にして俺に指を突きつけていた。女神に選ばれなかったショックが吹っ飛んでしまったようだ。それに甲冑じゃなくて兜だし、殴ったんじゃなくて自分で体当たりしてきただけだし。


「誰かこの者を捕らえよ!」

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