3:女神降臨 その1

 同時に光が消え去った。


「キャンセルキャンセル!」


 意識が戻った時、誰かが慌てたように叫んでいるのが聞こえた。

 それに対してエリザベートが甲高い声で抗議している。


「ど……どうなったのですの!?」

「だって苦しそうじゃない」

「神器の力を、どうたって打ち消したの!?」

「だって、私、女神だから」

「え……ええっ!?」


 女神だという女性は確かに神々しいというほどの雰囲気はない。が、いきなり背後に四枚の翼を広げて見せた。

 エリザベートは息を飲むと平伏してしまった。反対に顔を上げたのはファミとセイル。


「メディアか……」


 ファミアいや魔王が顔をしかめて吐き捨てる。こらこら、そんな顔しちゃ嫁の貰い手がなくなるぞ。女神がキャンセルと叫んだせいか、神器は動きを止めて動けるようになったようだ。


「あら? あなたたち、ずいぶん可愛い入れ物に入っているのね。趣味が変わったのかしら?」

「……我が選んだわけではない」

「いや、オレは気に入ってるぞ」


 魔王はふてくされた声で応え、勇者は満足げに笑う。


「ふ~ん。まあ、悪くはないわね。その姿なら私の側に置いて上げてもいいわよ」

「誰が貴様の側にはべるか! 今度こそ貴様を踏み潰してくれるわ!」

「ローネちゃん潰したらダメだよー」


 ファミがあんまり変わらないが、ふたつの声音で話すのを聞いてメディアは驚いたように目を丸くする。


「あら? 入れ物に自我が残っているの?」

「ファミ、入れ物じゃないよ?」

「ボクも入れ物と違う」

「これは転生ね。誰が……そういうことね」


 メディアが俺を見る。

 なんだろう、鼓動が妙に速くなる。これって……恋? いや、違うな。なんかヤバいものに近づいてしまった警告のような気が……。


「ダーリンもずいぶんこまっしゃくれちゃったのね。でも大丈夫。私は入れ物にはこだわらないから」

「ウソつけ!」と勇者の全力の突っ込みが入った。

「あら、神相手にウソつき呼ばわり?」

「貴様ほど外見にこだわるヤツはいないだろうが!」と魔王まで突っ込む。

「あー、そんな時代もあったかも。1000年もたってるんだから、私だって趣味が変わるわよ」

「その間、ずっと地上にいたワケでもあるまいに」

「ま、寝てたけどね」


 メディアはペロッと舌を出した。なんか、女神というものに対するイメージが大きく書き換えられていくな。


「でも、外見より中身よね。悟っちゃった。あんなことがあったし」


 そう言うと、メディアは翼を畳んだ。いや、どこかに消してしまった。これも俺の勇者の鎧と一緒で別次元に隠してるんだろうか。

 そんなことを考えていると、メディアは軽々と俺を抱え上げた。


「へっ!?」


 確かにまだガキだし、女神と比べりゃ背は低いけど、そんなに軽々と持ち上げられるほど軽くない。あまりの驚きに抵抗も出来ない。

 しかも、ベッドに降ろすと、メディアは隣に腰を下ろした。


「だから、今度は尽くすことにしたの」

「ジェイくん、いつの間に女神様をコマしちゃったの?」

「ジェイトのすけこまし」

「ちょっと待て! 俺がいつ誰をコマしたって?」

「1000年ほど前にコマされたのよ」

「ジェイト、コマすためなら時間も遡れる?」

「できるか!」


「仲いいんだね。妬けちゃうな」


 メディアは俺たちのやりとりを見て微笑んだ。女神ってイメージじゃない。これじゃただの女の子だ。かなり眩しいけど。


「うん、このままだと私の神々しさに耐えられないでしょうし、私も疲れるから体借りるね」


 そう言うと、メディアは茫然としたままのローネに歩み寄り、頬を両手で挟み込む。そして、顔を近づけると唇を重ねようとした。


「おい! ちょっと待て!」

「チュウしてるよ、ジェイくん!」


 俺が止めるのは間に合わず、メディアとローネはチュウしてしまった。ファミの表現が移ってしまったじゃないか! キスだ、キス!

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