13章 村人Aは女神と対峙する

1:王女奪還へ その1

「……なんとか、まいたな」

「もう大丈夫だぜ」


 レンディンのおっさんとラウルのガキが合図を送ってきた。

 教兵に追われて、レンディンの先導で走り通し、追手の気配がないところまでやってきたところだ。

 ええと、ひいふうみいっと、全員無事らしい。何か忘れているような気もするが……まあいいか。

 しかし、ここがどこだか、すでに俺には皆目見当がつかない。

 ソーコちゃんは魔王城の見取り図を取りに戻ったまま、戻ってくる気配もないし。まさか自分の中で迷っているワケじゃないよな。

 そう言うと、魔王は少し考えた。


「街中はそうでもなかったが、魔王城内にはかなり神気が強い結界を張ってある。倉庫も影響を受けているのかもしれんな。ニャオウは入るのも無理だろう」


 あ、なんか忘れてると思ったらニャオウだったか。


「まったく、あの女神はいつも面倒を起こしやがる」


 しょうがない女だと知り合いを評するようにセイルいや勇者が吐き捨てた。

 それに対してゴウトは顔を真っ赤にして声を荒らげる。


「メディア様ではない! あの女が女神様を騙っているだけだ!」

「メディアじゃない? その証拠は?」

「1000年間女神様が降臨したという記録はないのだ!」

「本当か?」


 ファミいや魔王が思わず聞き返してから、思い直したようにうなずいた。


「いや、ヤツのことだ。自分が降臨したら詳細な記録をつけさせておるな。それこそ発した言葉から起こした奇蹟まで残らずな」

「む……。そうなのだが、言い方が不敬過ぎるぞ。とにかく降臨は1000年前を最後に途切れている。今も降臨なされていない」

「それじゃ、このゴタゴタは全部第2王女の仕業ってことか」

「だから勝手なことをさせられないのだ!」

「で、なにをやるつもりなんだ? ローネを拉致して?」

「それはわからないが、第1王女は祝福を受けたと聞いている」

「祝福? メディアの?」

「そうだ」

「メディーナ教の信者の第2王女と王妃にとっちゃ羨ましいやら憎らしいやらってことか」

「だから政略結婚させて放り出そうとしたわけだな。それが急に拉致して連れてくるなんて、なにかあったのか?」

「わからん」

「それとも、最初からそのつもりだったか」

「じゃあなんで結婚なんてさせようとしたんだ?」

「蹴って逃げると思ったのかもな」

「ああ……ローネは素直だから従っちゃったから」

「それじゃ、俺たちがやったのは――」

「第2王女にとっちゃ都合がよかったってことだな」

「くそう……」

「それにしても第2王女が何を企んでるのかはわからんな」

「どうせメディアがらみだろうな」

「それは確かだ」


 魔王と勇者が当然のようにうなずくと、レンディンが興味深そうにその様子を見ていた。


「それにしても、おまえらメディア様のことを見てきたみたいに言うな」

「そりゃそうだ。オレは散々やりあったからな」

「我も嫌というほど邪魔をされたな」

「まあな! 色々と調べてきたからな! な!?」


 勇者と魔王の正体をさらすわけにもいかない。


「まあ、知らずに総本山に攻め入るバカはいねぇか」

「そうだろ! な? なぁ?」


 返答に困って魔王と勇者に同意を求める。


「ん? どうしたの、ジェイくん?」

「ジェイト、ボクをそんなに熱い目で見ないで」


 ファミとセイルがん~と首を傾げて俺を見つめ返していた。

 逃げやがった。魔王と勇者のくせに逃げ足の速い連中だ。


「どうした?」


 レンディンが急に様子の変わったファミとセイルをまじまじと見る。


「おまえら、なんかさっきと雰囲気が――」

「な、なあ! これからどうすんだよ!?」


 慌てて話題を変える。自分でも情けないほどおたおたしていたが、他に手もなかった。

 レンディンだけじゃなく、ラウルや他のおっさんたちもうさん臭そうに俺を見た。


「ジェイト、おたおたしすぎ」

「ジェイくん、あたたたしすぎだよー」

「ひぶっ! おまえらに言われたくねぇ!」


 怪しすぎるが今は詰問する場じゃないと思ってくれたのか、全員スルーすることにしたらしい。物わかりがよくて素晴らしい。


「エリザベートを誘拐する」

「おー。強硬な策に出るのか」

「一刻の猶予もない。このままでは仲間たちが犠牲になるだけだからな」

「方法は考えてるんだろな?」

「エリザベートの部屋は確認済みだ。後は押し入って拉致するだけだ」

「……何も考えてないだろ?」

「ジェイくんと一緒だよー」

「ジェイトと同じ」

「どこがだ!?」

「ジェイくんも押し入ってローネちゃん掠ったよ?」

「俺は色々考えた上で押し入ったんだよ!」

「もちろん我々も考えてるぞ。任せておけ」


 自信たっぷりに言うレンディンに、年配のゴウトが賛意を示し、フンと吐き捨てる。


「教兵ごときに後れを取る我々ではない」

「そういう自信たっぷりなのが危ないんだけどな」


 小声でつぶやき、ファミとセイルに囁く。


「なんかあったら頼むぞ」

「わかった~」

「任せて」

「いや、おまえらだけじゃなくて」

「ローネちゃんのためだもんね」

「うん、ローネ助ける」

「……まあ、いいけどな」


 不安もあるが、女神の力のおかげで魔王が魔法を使えない以上、手がかりになりそうなのはこの無謀な作戦しかないのも確かなんだけどな。

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