3:神に逆らうもの その2

 危険地帯と言われた通路を通り抜けると、そこからさらに下に降りるハシゴがあり、そこには2人の男がいた。どっちも帯剣して簡易な鎧を身につけている。体つきからしても戦士だろう。


「言っとくけど、ここも大きな音禁止だからな」


 俺が口を開く前にガキが釘を差す。


「なるほど。上の階に追手が来たら物音でわかる仕組みか」

「兄ちゃん、バカじゃねぇんだな」

「失礼なガキだな」

「おいおい、おまえに失礼なんて言う資格があるのか?」


 最後に入ってきたおっさんが俺の方を見て呆れた顔をする。


「ん? なんでだ?」

「俺のことを散々おっさんおっさん呼びやがって。俺はまだ24だっての」

「充分おっさんだろ。そのヒゲ面がおっさん効果を生んでるんだな」

「なんだよ、おっさん効果って」

「仲良くしてるところ悪いが、話を進めよう。その3人が例の?」


 いらだったように口を開いたのは戦士ふたりのうち、年長の方だ。


「ああ。一緒に牢にぶち込まれてた。ミノタウロスを客席にぶん投げやがった」

「上の騒ぎはおまえがミノタウロスを壁に頭突きさせたんじゃなかったのか?」

「そのつもりだったんだが、そっちの女の子が一発かました」

「なんだと?」


 信じられんと言うようにセイルを見るおっさんズ。まあ、そりゃそうだろうな。


「で、まあ、最初の打合せとは違うが連れてきた」

「連れてきたのはいいけど、おっさんたちは女神を倒す気か?」

「メッ、メディア様を倒すだぉと!?」

「シー!」


 おっさんが激高した声を上げると、全員一斉に唇に指を当てる。


「……うむ、すまない」


 申し訳なさそうな顔で頭を下げるおっさん。面倒なので最初に会ったおっさんをおっさんアルファと呼んで、年配をおっさんオメガと――なんでそんな面倒なことをせにゃならんのだ。名を名乗れ、おっさんズ。


 というわけで、ヒゲ面のおっさんアルファはレンディン、戦士らしい二人はゴウト&シュート、ガキはラウルというらしい。

 年配のゴウトの方が身分が上だとにらんで尋ねる。


「で、女神を倒さないならなんのための反乱軍だ?」

「我々が倒すべきなのは第2王女エリザベート・ル・ロンド=レンディアンだ」

「問題のローネの妹か」

「ロンゾン殿下だな」

「誰だそれ?」

「ロンゾン第1王女殿下だ」

「あー、そういやそんな名前だったな」

「ジェイくん、ひどーい!」

「ジェイト、薄情者」

「おまえら覚えてたのか?」

「あ、当たり前だよー。ねえ?」

「うん、当たり前。そう」

「怪しいな」


 ふたりの目が不自然にきょろきょろ動いて怪しさ爆発だ。


「おまえらの記憶力などどうでもいいんだよ。第2王女が女神を騙って好き放題していると俺たちは考えている」


 レンディンがいらだった声を上げかけたが、危ういところで声を小さくする。といっても、俺たちが普通にしゃべるレベルだけど。


「おまえたちにも手を貸して欲しい」

「なんで俺たちに声をかけたんだ?」

「ロンゾン殿下を助けたのはおまえたちだろう? もう一度助けて欲しい」

「ローネちゃん助けるならいいよ~」

「ローネは助ける」

「おまえらなぁ……」


 俺の意向も聞かないでファミとセイルは安請け合いをしやがった。


「ジェイくんはローネちゃん好きなんでしょ?」

「ジェイトはやる時はやる男」

「……まあ、それはいいけど、ローネが生きてるってなんで当然のように知ってんだ?」

「殿下が魔王に殺されたって話は伝わってきたが、その後のエリザベート直属部隊の動きは掴んでいたからな。おまえたちのこともそれでわかった」

「あんな臭い芝居打って誤魔化したのに!」


 結婚式に乱入して魔王の芝居までしてローネを殺してかっさらったのに!


「温泉であれだけ派手にやらかしたらバレるだろうな」

「ローネも特に姿を隠していなかったからな」


 魔王と勇者がうんうんとうなずく。気づいてたんなら言ってよ~と泣きたくなったが、ローネを助けた時は第2王女がそこまでヤバいヤツだとは思ってなかったんだからしょうがない。姉妹喧嘩の派手なヤツくらいにしか思ってなかったし。


「で、どうするんだ? 第2王女を倒してローネを王位に就けるってんなら協力はできないぞ。ローネはそんなつもりはないし」

「ローネちゃんはジェイくんと一緒になるんだもんね」

「ジェイト、王様になる?」

「冗談じゃない!」

「ファミは愛人」

「ボクも愛人?」

「なんでそうなる?」

「え~、ジェイくん愛人にしてくれないの?」

「なんで愛人にこだわるの!?」

「おい、話が進まん。なんとかしろ」


 ゴウトが思いっきり不機嫌な顔で俺をにらむ。俺のせいじゃないだろ。


「つまり、あんたらはエリザベートを排除すればいいんだな?」

「メディアが王女ごときにいいようにさせているとは思えぬがな」

「ああ、あいつが人間に操られているなんてことはないだろうな」

「じゃあ、女神がエリザベートと組んでる?」

「あるいは操ってるか」

「おまえたち、女神様を愚弄するか!?」


 ゴウトとシュートが剣を俺たちに向ける。


「はあ、うんざりだな。教兵に不敬罪で捕まったと思ったら、反乱軍にも不敬罪で捕まるのか?」

「メディーナ教なら仕方あるまい」

「昔っから性根が腐った連中だし」

「き、きっ、貴様らぁっ! 女神メディア様をををっ!」

「あ、こいつらも狂信者か」


 レンディンが険悪な空気を気にする様子もなく割って入った。


「ここは一旦休戦だ。エリザベートが敵なのは同じなんだしな」

「……ぐ。仕方ない」


 ゴウトが唇を血が出るほど噛んでうなずいた。そこまで嫌か!?

 まあ、なんとか反乱軍に認められたってことで、魔王が魔法を使えないのを補えるかも知れないし、ローネの居場所を探ってもらえるかも知れない。

 そう考えて、質問しようとした時だった。


「む! 招かれざる物が来おったぞ」


 ファミが魔王の表情になって背後を振り向く。それに反応したセイルが一気に動き、壁に向かって拳を振るう。

 俺の目にはかろうじて小さな球が浮かんでいるのが見えただけだ。それがセイルの拳に粉砕されたと同時にバンッと爆発音が響いた。

 だけでなく、その爆発音がバァンッ……ドバァンッ……ドォン……ドォォン……ドォォォォーンン……と反響して広がっていく。


「……げ」

「だから言ったろ! 大きな音は出すなって!」と、ラウルが舌打ちする。

「いや、音を出したのは敵の方だろうが!」

「そういう問題じゃねぇ!」


 叫び交わす声と足音が次第に増えてきた。


「もう遅いっ! 逃げるぞ!」

「またかよっ!」


 おっさんの声に急かされて、俺たちはまたも逃亡するハメになった。

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