3:神に逆らうもの その1

「おい、こっちだ」


 手招いているのは、牢屋にいたおっさんだ。


「どこか当てがあるのか?」

「説明しているヒマはねぇぞ。来るのか来ないのかはっきりしろ」

「わかった。行く」


 俺は二人と目配せしてうなずいた。


「で、あんたは何者なんだ、おっさん?」

「無事に脱出できたら教えてやるよ」

「まあ、反乱軍の関係者的な感じなんだろうけどな」

「そんな簡単にバラすなよ~」


 おっさんが情けない顔をして、オレを恨みがましい目で見た。


「いや、バレバレだろ。だいたい牢屋に入れられてあんなに余裕たっぷりなヤツがいるか」

「おいおい、俺以上に余裕かましてたヤツが言うかよ」

「俺が余裕?」

「ジェイくん余裕かましてたよね~」

「ジェイト余裕綽々」

「ほら見ろ仲間もそう思ってるんだ」

「いや、おまえらこそ余裕だろ――」

「こっちです! いそいで!」


 いきなり通路の影から子供の顔がひょいっと出てきた。


「なんだ、ガキ?」

「おまえだってガキだろうが! 背丈だって変わんねーだろ」

「ああ、そう言えばそうだった」

「ジェイくん、ませガキだから~」

「ジェイトは中身おじさん」

「ファミ、それ褒めてねぇ! セイル、幼馴染みに言うセリフか!」

「んなこたぁどうでもいいから行くぞ」


 おっさんの呆れ声に促されて、俺たちはガキの後を追って薄暗がりの中を走った。

 闘技場の下に潜って、モンスターの檻の脇をすり抜け、さらに下に降りていく。

 その間中、上の方からはドタドタと何かが走り回るような音や破壊音が響いていた。


「上でなにやってんだ?」

「さっき放り投げたミノタウロスが暴れてるんだろ!」

「あ、そっか」

「おまえら、自分のしたことを忘れてんなよ!」


 呆れ声のガキに指摘されて、さすがに俺も後悔した。


「うむ、もっと徹底的に破壊しとくべきだったな。記憶に残るように」

「そうだな。魔法が封じられてさえいなければ完膚なきまで叩き潰してやったものを」

「魔王と勇者の破壊衝動がひどい……」

「なんだ、こいつら、マオーとユシャってのか? ちゃんと言い聞かせとけよ!」


 先を走るガキが肩越しに生意気を言う。しかし、大事なことを指摘された。


「そうだな、後で拳骨で眉間をグリグリの刑に処しとくわ」

「ジェイくん、やめて~」

「ジェイト、パワハラ反対」

「おまえらのせいだろ。ちゃんと常識の範囲内に納めるように言い聞かせとけ」

「ジェイくんに常識言われたくないよ~」

「ジェイトと常識は相反する概念」

「無茶苦茶な言われようだな! 俺のどこが非常識だと――」


 反論しようとしたところで、ガキが唇の前に人差し指を立てて合図を送ってきた。敵がいるのか。

 代わりにおっさんが説明役を買って出た。


「この先は声が響くからな。音を立てるなよ」

「なるほど。おまえらわかったな?」


 ファミとセイルはよほどグリグリが嫌なのか眉間にシワを寄せると黙ってうなずいた。

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