3:村を出ることにする その2

 村人たちが口々にファミとセイルを糾弾し始めた。




「んなワケあるか! ファミもセイルもずっとこの村で育ったのに、今まで魔物なんていなかっただろ!」




 俺は我慢出来ずに村人たちに言い返すと、ファミに尋ねる。




「ファミが魔王の生まれ変わりだって気づいたのはいつだ?」


「昨日の夜だよ~」


「ボクも同じ」


「セイルも同時?」


「そう。気づいてすぐにジェイトに相談しに行った」


「ファミは?」


「一日考えてからジェイくんに告白したの~」




 ざわざわと村人たち。




「やっぱり、おまえたちのせいだろ!」


「なんでそうなるんだ? だいたい、魔王を魔物が襲う理由がないだろ!? しかも、こんなちっぽけな村だぞ?」


「それはそうだが……」


「だいたい、魔王が復活したって話を持って国王からの知らせが来たのが昨日だろ? ってことは、その前から魔王がいるってことだよな?」


「それじゃ、別の魔王がいるのか?」


「何人かいるんじゃねーの? 知らんけど」




 村人たちも少しは冷静になってきたようだ。


 よし、いい展開になってきた。このままファミのせいじゃないと言いくるめてしまおうと思った時、ファミが魔王の声音で応じた。




「そうじゃな。ワレのせいもあるかもしれぬな」」


「お、おい!?」




 せっかくごまかせそうな流れになってきたってのに! いらねーこと言うな!




「この500年で世界がどう変わったかわからぬからな。新興の魔王もどきが現れたかもしれん。そいつがワレを倒そうとしたのか、領土を奪おうとしただけか」


「まあ、新興魔王など俺がサクッと倒すだけだ」


「サクッとだと? ワレの時はずいぶん苦労したではないか」


「最終的に勝てば問題などない」


「勝っただと? ワレには負けた記憶はないが」


「なにを言う! 俺が勝っていなければ、この世界が500年間無事に続いたワケがないだろう」


「いや、おまえら同時討ちってことになってるから」




 俺が割って入ると、魔王と勇者は同時に叫んだ。




「なんだと!?」


「バカな!!」


「伝承じゃそうなってんだから文句は昔の偉い人に言ってくれ。どこにいるのか知らんけど」


「むう、ワレらの死闘を適当にお茶を濁しおって。許せぬわ」


「ああ、そうだな。俺の勝利だと書き直さんといかんな」




 ファミとセイルがにらみ合う。ある意味、滅多にない光景だ。


 魔王と勇者が言い争いをしている間に、村人たちの間で話の結論が出たようだ。村長が進み出ると、何か言いたげにファミとセイルを見る。


 あー、まあ、そういうことになるだろうなと思うが、言い出しにくいんだろうな。長年すくすくと育つのを見てきたカワイイ娘たちなんだから。


 仕方ないかと、村長が口を開く前に親父に尋ねる。




「ところで、王国から兵士を出せって言われたんだろ? 誰が行くか決まったのか?」


「いや、決まる前に襲撃されたからな」


「じゃあ、それ、俺が行くわ」


「おまえじゃ役に立たんだろ。戦えるのか?」


「まあそうだけど、こいつら連れていけば丸く収まるんじゃね?」




 村長と親父、ファミとセイルの両親が顔を見合わせる。




「いや、しかし、王様に仕えるのに魔王というのは。勇者はともかくなあ」


「そんなこと誰も知らねーんだから問題ないだろ?」


「知らないわけじゃ――」


「そうじゃ! ワシらは知らん! 何も知らん! そうじゃな、皆の衆?」




 村長が俺の意図に気づいて村の衆を見渡し、同意を求める。意を汲んだ村人たちが戸惑いながらもうなずき、最終的には全員が何も知らないということになり、俺たちを兵に送る事に同意した。




「というわけで、俺はおまえらと一緒に村を出るからな」


「えっと、ジェイくんが行かなくったって、ファミたちが出ていけばいいんだよ?」


「そうだ。ジェイトは出なくていい」


「っていうか、おまえら、料理も狩りも出来ないくせに、どうやって生活する気だよ?」


「大丈夫だよー。だって、魔王だしー」


「勇者だから問題ない」


「おい、魔王と勇者。おまえら生活能力はあるのか?」


「些事はすべて部下に一任しておったわ!」


「肉食ってれば問題ない!」




 どう考えてもダメなヤツだ、こいつら。


 俺は額を押さえて深いため息をついた。




「やっぱり、俺が出ていくから、王の使いってヤツにそう伝えといて」




 俺は親父と村長にそう言うと、ファミとセイルに向き直った。




「じゃあ、そういうことで、行くぞ、魔王? 勇者? まさか、イヤだって言わないよな?」


「キサマのような凡俗に――」


「おまえごとき無力な輩に――」


「なあ、一緒に行くよな?」




 俺はにこやかにファミとセイルの肩にポンと手を置いた。




「いいよー」


「わかった」




 ファミとセイルが返事をするのを確認して、俺は拳を振り上げた。




「よし、行くぞ!」


「おー」


「うん」




 こうして、俺は幼馴染みのふたりこと魔王と勇者と共に魔王退治の軍へ向かう事になったのだった。

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