3:村を出ることにする その1
いつの間にか集まってきた村人たちのファミとセイルを見る目つきが違っていた。
無理もない。魔法を唱えて魔物を破壊するとか、剣で軽々と魔物を倒すとか、村人ならありえないんだから。それを16の娘がやっちゃってる。
「おまえ、ファミ……なんだよね?」
「セイル、恐ろしいもの振り回して……」
ふたりの母親がバケモノでも見る目で問いかける。近づきたいが足は動かない。まあ、しょうがないよな、あれじゃ。相手がスケルトンだから血まみれじゃないのがまだマシだった。
「ジェイト、おまえは……全然変わらんな」
俺の父親はガハハとバカ笑いをすると、俺に歩み寄って背中をドンッと平手で叩く。
「で、なんだ? やっちまったら目覚めたって感じか? 隣のお嬢さんたちは?」
「は?」
やっちまったってなんだ?
「ま、まさか、ふたりともジェイトに襲われたのかい?」
「てめえ、いつもファミに色目使ってると思ったら!」
「二股かけてやがったのかい!」
「勘弁ならねえ!」
「ちょっと待てーっ!」
ふたりの親父が血走った目で俺をにらむ。
「おい、ファミ、セイル、なんとか言ってやれ!」
「ファミはジェイくんのものだよー?」
「ボクはジェイトしか見てない」
「お、おい?」
家族ふたつ分の殺気が俺に向かって叩きつけられてきた。どっちも木こりと大工だから腕力はあるんだよな。ナタとかノミとか得物になる物もたっぷりあるし、敵に回したくないよな。
「うちのファミが、おまえのものだと?」
「身持ちの堅いセイルをどうやってたぶらかした?」
二家族の親が俺に迫って来る。
その時、上手い具合に悲鳴が聞こえた。
「ふむ、攻撃を逃れたヤツがいたようだな」
ファミが、いや、魔王が毒づき、チッと舌を打つ。
あ、ダメだ。一旦俺に集まっていた非難の目がまたファミに向けられた。おかしな声音でしゃべるからますます怪しいだろ。とどめに呪文詠唱。スケルトン爆発。もうダメだ。
「……ファミ?」
ファミの母親が泣きそうな顔で娘の名を呼ぶ。そこに判別不能の呪文を唱えたもんだからもうダメだ。弁解の余地はない。母親は真っ青になって卒倒してしまった。父親の方はなんとか理解しようと問いかける。
「ファミ、何が起こったんだ? 呪いか?」
「えー、わたし、呪われてないよー。ちょっと魔王になっちゃっただけだからー」
「ま、魔王!? ファミル、おまえ……」
「大丈夫。ボクは勇者だから、なにかあったら刺し違える」
「セイル!? なんてこと――」
一声悲鳴を上げるとセイルの母親も卒倒してしまった。娘たちが殺しあう図が脳裏に浮かべば仕方がない。
「だから、ジェイトみたいな悪ガキと付き合うなと」
「俺のせいかよ!? なに、俺? 悪の魔導士かなんかなの?」
「うむ、聖職者じゃないのは確かだな」
「親父……それはわかってるから」
こんな煩悩まみれの聖職者はいねーよ。ファミの豊満な胸に顔を埋めたいとか、セイルの綺麗な足にすりすりしたいとか、聖職者なら考えたりしねーだろ。
「魔王の生まれ変わり……」
「それに勇者だって?」
他の村人は遠巻きになってヒソヒソ話をしている。
「まさか、そのせいで魔物が攻めてきたんじゃ……」
誰かのささやきが大きく聞こえたのが合図だった。ヒソヒソ話が憎悪の叫びに変わった。
「……おまえたちのせいだ!」
「その、魔王ってのが魔物を呼んだに違いない!」
「勇者だって怪しいもんだ」
「そうだ! おおかたグルになってんだろ!?」
村人たちが口々に叫びだした。
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