2022年9月6日(火) 晴れのち曇り

 救急車で緊急外来搬送されてしまった。幸い医療センターへ到着した頃には症状も治まっており、早々に一通りの必要な検査や処置を施されて会計済ませて帰宅がかなったのだが、人が外行きの装いで出歩いている中、冷や汗ダクダクで搬送された時の寝支度のままでタクシーを拾って自宅マンションへと帰る様は周囲からは少し異様に映ったかも知れない。

 一度帰宅して身支度をし、改めて専門医の元で診てもらい再発時の対処が確立した。大事に至らずで一旦は一安心といったところか、二度とこのような世話になることがあってはならないと思う。帰宅する際に妻から、上の子が授業に手が付かず保健室で休ませてもらっていたようだとメッセージで知らされ、改めて周囲にも心配をかけたと実感した。

 キャスターの上に載せられて高さを調整する際に、意外に大人の胸のした辺りまで高さの調節が効くようで、誤って倒れるか下へ落下でもしようものなら、マンション通路の手摺りを越えてそのまま十階の高さから地上へと落下してしまうのではないかと思ったが、流石の緊急隊員は小慣れた手付きでそんなことには至らず、寧ろエレベーターにそのままキャスターと隊員3名が乗れてしまうのかと虚ろながら冷静に思った。通路を搬送されながら、ランニング帰りらしい何年か前に理事会で一緒だった方と遭遇した気がした。


 上の子が帰宅して録画したNIGHT DOCTORというドラマを妻とリビングで観ており、医療センターの様子をこんな感じだったと伝えるとリアクションし辛そうな表情を返した。

 医療センターではカーテン越しに80歳代の男性がその先に横たえられているらしく、その彼についての会話が嫌でも耳に入る。

「先月末も3日連続で救急車で運ばれて来ている方なので、構ってちゃんのきらいがあるらしいです」

「えぇ、それは…」

「すみませんトイレ行きたいんですが…」

「ご自分歩いて行けますか?それとも尿瓶でここでされますか?」

「瓶の方が良いです」

「尿瓶で希望されてます…」

「そういうアピールやめてほしい…」

「救急車乗るときはどうやって乗られました?歩いて乗られました?」

「はい、歩いて行って乗りました」

「じゃぁトイレも自分で行けるね!」

「はい、行けます」


 尿瓶を要求された若いドクターは一見美容サロンのアシスタントでもしていそうな幼さの残る面持ちで、私への処置も彼女が対応してくれた。皮肉抜きに離れ気味の目元に良く似合う薄めのメイク可愛らしいのだが、現場を統率するそのギャップが勇ましくもあった。


「今日私たちめちゃくちゃ頑張りましたよね。夢を見るようですがインセンティブとか出ても良いくらいに」

「私もボーナス欲しいです」

 尿瓶を求められたその声も後に続いた。

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