第3話⚔️勇者たちは考える
テレビではひっきりなしに感染者の情報が流れている。
特に大阪と東京での感染拡大は酷いものだ。
生まれて間もない小さな命まで奪おうとしている。
ヒロトとは大学生になってから仲良くなったけれど、実は子どもの頃コロナウィルスに感染して生死の淵をさまよったと聞いているし、看護師だった母親はその憎いウィルスで命を落とした。
ヒロトは時折、寂しそうにしていることがある、愛していた母親、愛されていた大切な母親の命をコロナウィルスは奪ったのだ。
俺たちが生きている
2021年に日本人がワクチンを発明して、たまに流行る年もあるけれど、感染している疑いがある人に投与すればウィルスは消滅する。
その日を待ってさえいれば、たくさんの人が命を落とすことはなかったのだ。
「若いから感染しても重症化しない」
「マスクをしているから大丈夫」
「僕が、私がそんな病気にかかるはずがない」
そんな過信や油断からウィルスを保菌したまま出歩き、お年寄りや小さな子どもたち、働き盛りのお父さんやお母さんにまで感染を広めていったのだ。
俺たちが良く観ていたペットの番組の志村園長さえこの感染症で惜しまれながら亡くなった。
スポーツ選手や芸能人もたくさん苦しんだ。
俺たちが知っていることと言えば2020年の後半にはたくさんの命が奪われてしまったことだ。
それを止めることが出来るのか?
どうやって?社会人にもなっていない俺たちに何が出来るのだろうか?
俺たちが戦うのはコロナウィルスという魔王かもしれないし、戦う気さえない若者たちなのかもしれない。
ヒロトが得意なものはパソコンだった、好きが高じて4月からはプログラマーとして仕事を始める。
俺たちが勇者だとするならば、ヒロトは魔法使いであり、盾を持ったパーティーの心臓部分だ
タダシは、本人が希望するようにイケメンの剣士だ、女子の心はきっと掴むだろうし、何よりヒーローに1番近い。
問題は俺だよな、何の取り柄もないしフツメン中のフツメンだし。
ただ曲がったことが嫌いで正義感だけがムダに強い、というか強すぎる、それでウザがられたりもすることが多かったりするわけだけど、そんな自分が満更嫌いでもない。武器を使うとするとそれはこの口だな。
人前で話すことは苦手ではないしむしろ得意だ。
この3人で出来ることはなんだろう?
部屋からは1歩も出ずに3人で色々と話し合った。
夕食はホテル内の中華レストランで、フカヒレとか超柔らかい角煮とかこれまた初めて食べたものばかりだった。中華といえばラーメンとチャーハンしか食べて来ていないから。
アワビの姿煮なんて見たらそりゃビックリするよな。
報酬も出るとは言われているけど、こんな豪華な食事だけで充分だと思ってしまっていた。
ヒロトがふと口にした。
「もしかしたら僕の母さんが死ぬことさえ止められるんじゃないのがな?」
確かにそうかもしれないと思った。でも俺たちが運命を変えてしまってもいいのだろうか?
「ヒロトのお母さんって亡くなったのはいつ?」
「うん、夏休みが終わってすぐだったから、9月に感染して亡くなったのは9月20日、お葬式の日はめちゃくちゃ雨が降ってたのをよく覚えてる、顔を見ることも出来なかったのが辛かったし夢を見ているみたいな気分だったのははっきりと覚えてる」
窓際で大阪の夜景を見ていたタダシが大きな声を出した。
「感染を防げば、ヒロトの母さんだって死ぬことはなかったってことやんな!……………んじゃ助けることも出来るってことちゃうの?」
コロナウィルスが感染してから症状が出る潜伏期間は約2週間だ、軽ければ助かったはずだけど、ヒロトの母さんは可愛い息子を残して死んだ。
俺はヒロトに聞いてみた。
「お前の母さんって何か持病とかあった?心臓とか糖尿病とか喘息とか?」
「僕が覚えている限りでは、酷い喘息だったと思う、家には吸入する機械もあったし、時々母さんはそれを使ってたな」
やっぱり持病を持ってたからなんだと思った。
そして確かヒロトの母さんは看護師だったと聞いている。
感染症が疑われた人を見ることもあったのだろう。
無性に腹が立ってきた、コロナウィルスにも、感染を広めた人たちにも
死ななくて良かった人を救いたい
俺は強く思い始めていた。
とりあえず、拡散されているウィルスを止めなければ。
「明日の朝、意思表示をしなアカンけど、やりますって言ってもいいか?そしてヒロトの母さんも絶対に守ろう」
「当たり前やんけ、ヒーローになれるかもしれへんのに、やらへんわけないやんけ!」
「母さんを守りたいし、日本人を、そして世界中の人達も守ろう、上手に出来るかはわからんけど」
俺はこの2人と勇者になることを決めた。
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