第2話🕍タイムスリップなのか?
もちろん俺たちは本格的なフランス料理は食べたことがない、本来ならば1品づつ提供されることは知っているが、テーブルには前菜、スープ、魚料理、肉料理、と広いテーブルいっぱいに並べられているし、焼きたてのパンはカゴにたくさん盛られている。
確かにランチ用に作られたものかもしれないが、そのどれもが美味しくて俺たちは無言にならざるを得なかった。
キャビアなんて生まれて初めて食べたしな。
監視カメラでもあるのかと思うほど、食べ終えた頃にドアを叩く音がした。
シェフと一緒に来た2人の女性は、素早くテーブルを片付けてデミタスコーヒーと綺麗に彩られたフルーツ、チーズのタルトと生クリームの乗せられたデザートを僕たちの目の前にそっと置いた。
夢のように美味しいデザートを綺麗に平らげた。
ルームサービスで食べるなんて、初めてだったしそれだけでこの旅にきた甲斐があったと思ってしまう。
「これからどうするよ」
タダシはふかふかのソファーに寝転びながら言った。
「自由行動だろうから、せっかくだし久しぶりに梅田を満喫してみるか?」
ヒロトはテレビの大きな画面を見ながら笑っている、1人暮らしの部屋では16インチの小さな画面をいつも観ているし夢中になるのは仕方ない。
「でもさ~どうしてか再放送ばっかりやな、この芸人いつもMCとかやってんのに、若手みたいにリアクション芸やってるし」
俺たちは暫くはその番組を見ながら笑い転げていた。
でもニュース画面に切り替わった時には3人揃って声をなくした。
━━━2020年の今年は波乱の年になりました、東京や大阪では毎日のようにコロナの感染者が増え続けています。
安倍首相は明日にも緊急事態宣言を発表されると思われます。━━
僕たちが小学生の頃、世界的に蔓延したのが新型コロナウィルス肺炎だった、学校は休校されたし子どもだった僕らはその突然の休みに喜んでいた、親から外出は制限されていたけど、その頃ハマっていた『どうぶつの森』を毎日のようにやっていたのを思い出す。結局その休みはゴールデンウィーク過ぎまで続いたんだ。
もちろん忘れることのできない年だった、その年はオリンピックが東京で行われるはずだった。だけど実現したのは2022年、参加国も少なくて「不運のオリンピック」と言われるまでとなった。
計画通りに開催されたらメダルを確実に貰えるはずの選手の中には、開催前に怪我をして出場を断念せざるを得ない人さえいた。
タイムスリップしたのだろうか?
慌てて皆でスマホの画面を見たけれどはっきりと2020年と表示されている。
ラノベ系の本を良く読んでいるタダシは何故か大笑いしながら、「召喚されちゃった系?俺ら勇者?でもたったの10年前だしな、微妙すぎやん」
「そんな~訳のわからないこと僕は信じたくないし信じない!」と言うヒロトの気持ちも分かるけれど。
でも合点の行くことばかりだった、何度も来たこともあるはずの大阪駅が自分が知ってるものより少し新しい感じもしたし、このホテルに来る時に歩いた地下道で見かけた人たちはほとんどすべてマスクを付けていた、手作りと思われるマスクを付けたオバサンやおばあさんもたくさん見かけた。
それに大都市なのに歩いている人の数はかなり少なかったし、そう言えば、このホテルの従業員ももれなくマスクを付けている。
━━━━あの電車は特別なものだったのだろうか?
ニュースから切り替わったテレビの中では「ミルクボーイ」が鉄板のネタを披露しているが、僕が知ってるこの芸人さんの姿はかなり若く見える
どうやら番組の再放送などではないらしい。
その時メッセージを受け取ったとスマホは知らせてきた。
2度目のメッセージを食い入るようにみた
【ミステリートレインを選んでくれた3人の勇者へ】
◆ホテルのお部屋は気に入って頂きましたでしょうか?
2020年の日本は破滅の道に向かおうとしています。
どうか救ってはくれないでしょうか?
未来に生きているあなた達はよく知ってると思いますが、この年に突然現れた『新型コロナウィルス』は多くの人の命を奪いました。
それは若い人たちがそのウィルスを軽く見ていたからです。
夜間の外出や、海外への渡航、体調が悪くても街へと繰り出すその行為が日本人の4分の1の人たちの命を奪ったのです。その中には幼い子どももいました。
その行動が尊い命を奪ったのです。
その事をどうか伝えて欲しいのです。
もちろん拒否することも可能です、拒否したとしても追加で料金を頂くことはありませんし、どんなに贅沢しても大丈夫です。
ですが願わくば今を生きている人たちに伝えて欲しいのです。
ご返事は明日の朝伺います。
どうぞ今夜はゆっくりお休み下さい。
━━━━━
要するに僕たちが未来から呼び出されたのは。
僕らが生きている世界がどうなっているのかを伝えることだと言うことだった。
10年後に生きている僕たちにしか伝えることが出来ないことをこの3日間の間に伝えることなのだ。
「何か、責任重大だね、そんなこと俺らに出来るのか?」
心配そうに呟くヒロト
「だよな~どうやって伝えるか?もだけど、人々に信じて貰えるのかもわからへんしな、とりあえず元いた世界には戻れることは約束されてるし、勇者らしいことやってみるか?」
さすがタダシはポジティブシンキング野郎だと感心してしまった。
「どうして俺たちが選ばれたのかは分からへんけど、出来ることをやってみるか?考えてみたら今まで大学の単位を取るために行ったボランティア活動だっていつも単位以上に現場にいる人たちからの感謝の言葉や達成感ももらっていたもんなぁ~」
ラノベなんて知らないけれど、俺は勇者になろうとしているし、きっとこの二人も力を貸してくれるだろう。
さあ!作戦会議を始めるぞ!
明日の朝まではたっぷり時間がある、俺たち3人が出来ることを考えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます