第3話 春風ひとつ、想いを揺らして

 春風がひとつふく。いろんな想いを揺らして、彼女たちは出会う。



「ねねちゃん!?」


 春色のワンピース、首からぶら下げたカメラとポーチが可愛い。明るい声で前にいる子を呼び止めた。短髪が強風で揺れている。


「学校以外で会うの初めて!」


 重たい長い髪をゴムで結わえてスポーティーな印象の子だ。ふりかえるが気まずそうに下を向いて話さない。


「え、ねねちゃん走ってたの?」


「さっきもこの辺走ってたよ、見つかんないから大丈夫だと思ってまた戻ってきたんだけど」


「だって制服じゃないし、全然わかんなかったよ!」


 びっくりしている彼女に、ポニーテールの子も声をかけた。



「ポンさんも、それ」


「これ?カメラ!最近はまってるんだけどね、散歩するのが好きなんだわ実は!」


「友だちと?」


「ううん、ひとりで。ねねちゃんは?」


「ひとりにきまってるじゃん」


「じゃ一緒に歩こうよ!」



 小さくため息をつく。



「いいよ」


「意外だったなあ、走ってるの」


「クラスでは言わないでね、ああ、そっかもう」


「違うクラスだもんね…いつも走ってるの?」


「時々、たまたま、気分転換。だから見かけた時びっくりした。初めてクラスの人に会ったから」



 お花見会場から遠く、海岸沿いの道。海風が強く交通量も多い。さらに工場からの排煙もあってこの辺を歩く人は少ない。


「ここだと誰にも会わないから」


「ポンさんも誰にも会いたくないときあるんだ」


「いや、時々?気分転換?で疲れるまで歩いたりする」

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