Chapter 7 嘘だろ!?初めて知った
あの後城へ戻ったフィリア・ロッサは、自分が放った
「コロっちったらぁ、負けちゃったのねぇ……つまんなぁい」
そう言ってその場でため息を一つつくと、何をしようか考え始めた。
アディートととも戦った
紅き神だけでなく、蒼き神も生まれたことで力が増したようにも思えた。
「コロっちがダメならぁ、
フィリア・ロッサはリーヴェッドの指示なしで、影となって消えた。
場は変わって、あかりたちが通う学校では昼休みに入ったところである。
「そういえばあかり」
「何?
「あかりや
思わぬ質問にあかりは答えに詰まった。
『――我々
そうヴェルガが言った直後に千里は信じられなかった。
だけどもあかりがその輝石に選ばれ、何度も戦う姿を見てきただけに真実なのだと思い直した。
「お二人さーんっ」
そこへ割って入るように
昼休みの教室でこの話をしていたため、もしかして聞き耳をたてられたのではないかと思った。
「何の話? キセキだとかヤミだとか聞いたけど」
興味心身な表情を見せる浩平にあかりは言葉に詰まる。
「あかりがハマってるアニメの話だよ、この前どうなったかって盛り上がっててさ」
すぐさま千里はごまかす、これを聞いて浩平は吹き出した。
「ぷぷっ、あかりの子供っぽさは相変わらずってことか。じゃあなっ」
「むーっ、浩平うるさーい!」
あかりが怒鳴った直後に昼休み終了を告げるチャイムが鳴る、各自席に着き午後の授業が始まった。
「――年、――は」
授業が進む中、あかりの怒りは収まっていなかった。
(むーっ、浩平ったら……私は今十三歳だもん)
『――やけにご立腹ではないか、アカリ』
そんな中でヴェルガはあかりの心に話しかけてきた。
(ヴェルガ、私ってそんなに子供っぽいかな?)
『――何を言っている。アカリのような存在は誰が見ても幼き少女ではないか』
(ヴェルガまでひどぉい……ひうぅん)
あかりは今にも泣き出しそうな表情を浮かべながら授業を受けた。
しばらく経って授業が終わりチャイムが鳴る、生徒は皆部活動へ向かった。
「あかり」
下校しようと鞄に荷物を詰めこんでいるあかりに千里が声をかけてきた。
「何? 千里ちゃん」
「もしよかったらさ、この後同好会の一環で写真撮りに行かない?」
「え、何だっけそれ」
あかりはすっかり忘れていた、千里の誘いで彼女の趣味である写真の同好会に参加したことを。
「まったくもうあかりは……んじゃ早速行くよ!」
千里はあかりが荷物を積み終わったタイミングで彼女の手を引く、あかりの体はすぐに引っ張られた。
「ちょっ、千里ちゃん。私カメラ持ってないよ?」
「いいのいいの、携帯持ってるっしょ? それで写真撮れるから」
千里の一言に納得したあかりは彼女について行った。
下校の途中に二人は閑静な住宅街へやってきた。
こういった場所でまず慣れた方がいいだろう、そう千里が教える。
「じゃまず軽くでいいから、携帯で撮ってみて?」
「う、うん」
今までは家の中や窓の外しか撮ったことがなかったあかりだけに、何をどうしたらいいかわからなかった。
見よう見まねで一つ一つに携帯を向ける、電柱や街灯など適当な物を撮っていった。
「千里ちゃん、どうかな?」
数枚撮り終えたところであかりは携帯の画面を見せた。
「うーん……悪くないけど、ズームするだけじゃなくてもう少し調整して撮ってみるといいかも!」
「そ、そう? じゃあどうしたらいいの?」
「これをこうして、こうすると……」
千里の説明にあかりは何を言っているのかわからず、頭が混乱していた。
その頃、街中を歩くフィリア・ロッサはすっかりこの場に馴染んでいた。
「この世界の買い物って楽しいわぁ、何でも揃ってるんですものぉ。うふふっ」
服屋の店員を下級術で操り、お気に入りの服を買っていった。
フリフリの格好で大量の服が入った紙袋を両手に持つ姿は街中の人から見ると異様な光景だった。
「城に戻ったら早速着替えてみないとね」
フィリア・ロッサは城へ転移することなく歩を進めていると、街中を抜け住宅街へやってきた。
「あらぁ、ここも静かなのぉ? 私がこういう雰囲気大っ嫌いってことを思い知らせてあげる……」
両手に持っていた紙袋を転移術で城に送ると、中級術の構えに入った。
「さぁ、あなたの出番よ……コロル・アウズトロルズ!」
下級術と同じように地面へ投げキッスする、以前より大きな光が現れた。
その光の影から何かが静かに現れた。
「よっし。ひとまずここまでにしとくか」
同じ頃あかりと千里は撮影がおわったところである、千里が持つデジタルカメラにはいろんな風景が残っていた。
「千里ちゃん、いろいろありがとう」
「いいのいいの、これくらい全然余裕だから!」
千里は胸を張る、この街に来て初めて写真の楽しさを伝えられただけに嬉しい思いだった。
「そろそろ帰ろっか」
「そうだ……あっ!」
肯定の返事を言いかけた途中に千里の目に何かが飛び込んだ、その目では黒い影が横切ったように見えた一瞬だったため猫か何かかと思ったが自分の中の勘が違うと教えていた。
「待って!」
千里は黒い影を追う、何が起きたのかあかりはわからなかった。
「あれ? あかりじゃん!」
背後から声をかけられ振り向く、それは部活から帰りの途中である浩平だった。
「何してんの? こんなところで」
「浩平こそ今帰り?」
「キャーッ!!」
二人が雑談をしていると千里の悲鳴が耳に届く、何事かと声がした場所へ走った。
「!?」
角を曲がるとその理由がわかる、千里が黒い鳥カゴに閉じ込められていた。
「千里ちゃん!?」
「あかり、さっきあたしが黒い影追っかけてたら突然上からこれが……」
「なんなんだよこれ……よーし、俺の竹刀でこんなもん!」
浩平は手に持っていた竹刀を掲げ、構えた。
『――アカリ、このカゴから黒い気配がするぞ!』
(えぇっ!? じゃあ千里ちゃんは……)
『――心配するな。チサトに害はない、闇のカゴに閉じこめられているだけだ』
それを聞いてあかりはひとまずホッとした。
「龍丘、少し離れてろ……オラァッ!!」
浩平は岩をも割ってしまいそうな勢いで、竹刀を大きく縦に振った。
しかし鳥カゴはビクともせず、反撃に出た。
先ほど浩平が行なった竹刀の攻撃より強い衝撃が波打つ。
「うわあっ!」
「――ファレイム・セレイデ!」
衝撃により浩平は後ろに飛ばされると、仰向けに倒れた。
同時にあかりは炎の盾で間一髪免れる。
「浩平、大丈夫!?」
『――アカリよ、この者は今の衝撃で少しばかり気を失っているだけだ』
「そっか、なら今のうちに
あかりは転生の構えに入った。
「――ヴァイス・ファレイム!」
鳥カゴ越しに千里はこの時を待っていたかのように、カゴをつかんで転生を見守った。
「待ってました、レッドフォース!」
そう言って千里は今起きている状況を忘れ、デジタルカメラ越しに転生した紅き神を見つめる。
「ちょっ、何やってるの? 今から神術を……」
「あーいいのいいの、はい笑ってぇ」
言われて紅き女神は引きつった笑顔を浮かべる。
「いいねっ! はい次、ポーズ撮ってみよっかぁ? 頭に手ぇ置いてー」
今の千里はモデルを相手に撮影しているカメラマンの気分だろうか、一方紅き神は訳もわからず写真を撮られているだけだった。
『――あーいら立たしい、輝石の神は闇との戦いだけに専念すればよいのだ!』
ヴェルガは激しく怒る、その表しとして紅き輝石が強く瞬いた。
「うわ、まぶしっ!」
その光に紅き神と千里は目を覆う。
「ヴェルガ、怒らないで! 千里ちゃんに悪気はないよ!」
『――何を言う! この者は神を軽んじているではないか!』
「ヴェルガもしかして怒ってる? それならほんっとうにごめん!」
状況を察した千里は素直に謝った。
『――む。思っていたより素直ではないか、ならば光を静めよう』
ヴェルガは紅き光を止める、まぶしくて何も見えなかった周囲は元の様子に戻った。
「だけどこういう鳥カゴって、どこに神術すればいいんだろう……」
今までの闇の力では神術を使って、狙いを絞ることが出来た。
しかし今回は違う、鳥カゴの形をした闇の力だけにわからない。
『――鳥はカギがついた扉から外へと飛び出す。紅き神よ、それを探すのだ』
紅き神は頷くと鳥カゴをよく見てそれらしき物を探す。
「うーんと、カギ……あった!」
カギが付いた扉は千里の背後にあった。
紅き神は後ろへ回りこんだ、そこから神術を放とうという考えである。
「キャッ!」
それを見てか鳥カゴは同じように回りこむ、勢いよく回ったため千里はカゴ内で尻もちをついた。
どうやら千里を盾にしようという考えらしい。
「大丈夫?」
「うぅ、なんとか……」
千里は腰をおさえながら立ち上がった。
「ヴェルガ、これじゃ神術が出来ないよ……」
『――諦めるな!』
「う、うん……!」
紅き神は神術の構えに入る。
いつも通り左手の拳を前に出し、右手の拳を後ろに引くがものの手が震えて狙いが定まっていなかった。
「――!」
詠唱を唱え、矢を放つものの鳥カゴの一角に当たっただけだった。
すると反撃かのように衝撃が波打ち、紅き女神は盾を出す暇もなく数メートル後方に飛ばされる。
「レッドフォース!」
「あ痛たた……」
すぐさま立ち上がるが、これによりこれ以上は放てないのではないかと思った。
「ヴェルガ……私、ダメかも……」
『――何を言うか! 思いを強くし、矢を放て!』
「で、でもそれで千里ちゃんに当たったりでもしたら……」
確かにそうである、敵である鳥カゴの後ろと狙うカギの間に千里がいるため難しかった。
「レッドフォース!」
「えっ?」
「あたしは大丈夫だから。思いっきり、その矢ぶっ放してよ」
紅き神は
千里が闇の力に閉じこめられたことで震えていた手はだんだん収まっていったように思える。
気を集中し、千里の向こうにあるカギへ狙いを定めた。
「――我が名は“
今まで静かに唱えていたが、気を集中させようと強めに詠唱を唱える。
すると彼女の周囲には紅いオーラが表れ、まぶしく輝いていた。
「――ん、あ……なんだ、この光り……」
さっきまで気絶していた浩平が目を覚ます、紅きオーラに包まれる紅き女神の背中が目に飛び込んだ。
「なんだあれ? 赤い髪の、女……?」
ぼやけた目から見た紅き女神の背中は不思議なものだった、まだ気絶から覚めていないのではないかとも思う。
浩平は夢なのか現実なのかわからぬまま、再び目を閉じた。
「ファレイム・サジテリア!」
放った炎の矢は鳥カゴに向かって一直線で飛び出すと、千里と鳥カゴの間を縫うように扉に直撃した。
やがてカギは消え、脱出口が出来た。
これを見て千里はすぐに脱け出すと鳥カゴ全体が消えてなくなった。
『――よくやった、紅き神よ!』
「やったぁ!」
紅き神はガッツポーズした。
翌日、教室の一部が賑わっていた。
「昨日見たんだよ、紅い髪した女でさ! 燃えた矢をピュッと放って……」
「浩平、漫画の読みすぎじゃないの?」
「本当だって!」
浩平がクラスメイトを集め、昨日の話をしていた。
これを聞いてあかりと千里は顔を合わせるとすぐにクスリと笑った。
「……これはずっと内緒にしておいた方が良いかも」
「……そだね」
神という存在は知られたとしても、その正体まで明かしてはならない。
そのため今は輝石を持つあかりと葉子、それを唯一知っている千里だけの秘密なのだ。
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