Chapter 3 どうかな?これが魔法少女
頭上に置かれた携帯電話のアラームがけたたましく鳴る、あかりは手を伸ばしそれを止めた。
「ふあぁ……よく寝たぁ」
眠い目をこすりながらベッドを降りる、まだ寝ぼけているようだった。
『――おはようアカリ、よく眠れたか?』
不意に聞こえた低い声にあかりは周りを見た、部屋においてあるプレイヤーの電源はついていない。
「ふえ……?」
『――忘れたか? 紅き炎の
声と同時に携帯の隣に置いてあったビー玉が瞬いた。
「わ、わっ、わぁーっ!」
あかりは内心パニックを起こしながら昨日のことを思い出す、紅き輝石に選ばれし神であることを。
「ごめんごめん。おはよう、ヴェルガ」
『――まったく……これが本当に選ばれし神なのか』
ヴェルガは一つため息をついた。
「――あかりぃ、ご飯出来たわよ~っ」
下の階から母親が呼んでいる、あかりはクローゼットから制服を取り出すとパジャマから着替えた。
着替え終えると階段を降りて洗面所で顔を洗い、歯を磨く。
「昨日はいろいろあったな……」
あかりは朝食のパンを食べながら、改めて昨日のことを思い返した。
謎の声に導かれて物言う輝石であるヴェルガと出会い、異世界から来た敵と戦ってほしいというまるで自分は魔法少女アニメの主人公の気分である。
転生から神術まで何をしたらいいのかわからず、全てヴェルガに任せている自分がいた。
「ごちそうさまっ!」
朝食を食べ終えたあかりは玄関を出て、学校へ向かう。
その途中考え事を始めた。
「私が持ってるのは紅き輝石、確かヴェルガは四色の輝石って言ってたっけ……?」
輝石は他に三つ、異世界からこちらへ転移したのであればどこかにそれはあるはずと思った。
「あれ……?」
校門を抜けると何やら一部で人だかりが出来ている、何事かと思ったあかりは人の波を掻い潜り輪の中心へやってきた。
「これはひどい……」
「誰がこんな……」
あかりは思い返す、昨日アディートとの戦いによるものだと。
「あっ、
「おぅ、あかり。見てくれよこれ!」
浩平が指差したのは、剣道部の部室になっている部室の壁が何者かによって壊されている部分である。
「何これ!?」
「学校来たらこんなことになってたんだよ!」
これを見てあかりは昨日のことが現実なのだと改めて思い知る。
「こんなことするやつは許さねぇ!」
「こ、浩平。私、教室行くね」
真相を知っているものの、今彼に教えたらどうなるものか想像するだけでゾッとした。
「おはよ~」
教室のドアを開けると一部の席で賑やかな様子を見せている、なんだろうとあかりは思った。
「すごぉい、これみんな
「へっへぇん、あたしの手にかかりゃこんなもんよ」
中心には
「おはよー
「え、うん。見る!」
この時あかりは初めて千里の趣味を知った、それは写真を撮ることである。
街の風景や空を飛んでいく鳥など一枚一枚どれもきれいなものだった。
「へぇー……ん?」
一番最後の写真にあかりはあれと思う。
それは紅い髪の少女が炎に包まれた弓を左手に、右手に炎の矢を引いている姿だった。
思わず表情がニヤつく、昨日
「……すごぉい、こんな風になってたんだ。思ったよりカッコいいかも」
「遠城さん?」
声をかけられたあかりは慌てて写真を床に落とした。
「どうしたの? 急にニヤニヤして……」
「ごめんごめん。これ、カッコいいなぁって」
適当にごまかして写真を拾うと、千里に渡した。
「あぁ、これね。昨夜学校行ったらこういうことやってて、あたし夢中で写真撮ってたんだ!」
千里の答えにあかりは変に思う、写真の女の子が自分だということに気付いていないようだった。
「これ、何かのショーだったのかな?」
「えっ……う、うん。きっとそうだよ!」
「そっか。またやってるといいな……今後あたしこの赤毛の女の子の行方追っていくんだ。なんだかすっごい特ダネを見つけたみたいで興味深いもん!」
今の千里の目はまるでヒーローの正体を追う少年のようである、目の前に当事者がいることに気付きもしていなかった。
場は変わり、闇の城ではアディートがリーヴェッドに昨日のことを報告していた。
「紅き輝石を発見致しました」
「おぉ、誠か。アディートよ」
リーヴェッドは仮面越しに笑みを浮かべた。
「しかしそれはこの異世界にて存在し神に渡り、手にすることは出来ませんでした。神が持つ術も使われ、闇の力は砕かれてしまいました」
「なんと、いうことか……」
これを聞いてリーヴェッドの表情は怒りに変わる、この異世界に転移した輝石が見つかれば良い物が輝石の神まで見つかったことに苛立ち始めた。
「申し訳ございません、リーヴェッド様……」
「まぁよい、一つ輝石があちらに渡ったのであれば残りの三つを探ればよいではないか。それを探りつつ、その神とやらから輝石を奪ってまいれ」
「――御意」
アディートは影となって消えた。
再び学校。校内は昼休み、昼食を食べ終えたあかりは屋上にいた。
屋上の四つ角にはベンチが置かれていて、彼女はそこで腰を下ろしている。
「ねぇ、ヴェルガ。輝石って他に三つあるんでしょ?」
『――そうだ』
「私が紅き炎なら、他に何があるの?」
『――我以外に“
「ふーん……じゃあさ、昨日やった転生はヴェルガが私の意識借りてやったんでしょ? あれって、私にも出来るの?」
『――詠唱を覚えたのであれば、たやすいことだ』
「そっか! よーし、私やってみる!」
そう言ってあかりは昨日やった変身ポーズを構える、今は屋上に誰もいないため思い切って出来ると思った。
「――ヴァイス・ファ――!」
『――待つのだアカリ! むやみに転生するものではない。神術がそなたに渡り、やがては傷を負うこととなるであろう』
それを聞いてあかりは詠唱と構えをやめる、自分がケガをする姿を想像して思わずゾッとした。
「あー、ビックリした……」
『――以後も心を配るのだ。転生は闇の力が現れし時だけでよい』
「はぁい……」
魔法少女というのはこうも辛いものなのか、あかりは改めてそう思った。
「こら遠城! ここで何をしている!」
突然影からの声にあかりはビクッとした、先生がここに来たのかと思う。
「なぁんてねっ」
影から顔を出したのは千里だった、あかりはホッと胸を撫で下ろす。
「あれ? 今、遠城さん一人?」
「えっ?」
「いやなんか遠城さん、誰かと話してるみたいだったから」
「あぁ、ヴェルガだよ。このビー玉みたいのが――」
『――言い忘れていたがアカリ、輝石の声は輝石を持つ者と持つ者に触れし者にしか聞こえぬ』
「えっ、そんなぁ……」
このやり取りに千里は目を白黒させる、ヴェルガの声が聞こえていないだけにビー玉に名前をつけて話しかけているようにしか見えなかった。
「え、遠城さん……遠城さんってそんな趣味あったんだ」
「龍丘さん、これは違うよ!」
「じゃ、じゃあね。あたし教室戻るからっ」
千里はそそくさと屋上を降りた。
「ひうぅん。私、そんなんじゃないのに……」
『――あの少女へ我を教えるからこうなるのだ』
あかりは涙目になりながらも教室へ戻った。
「――であるからして、ここをこうすると……」
教室に戻ったあかりは授業を受けている、といっても黒板を見て数秒後には飽きてしまい窓の外を眺め始めた。
「……私が紅き神・
今の自分はいたずらを仕掛ける前のようで、正体を明かした時の反応を考え始めた。
『――アカリよ、聞こえるか?』
「!?」
ふと心の中でヴェルガの声が響く、驚いたあかりは手に持っていたシャープペンシルを床に落とした。
「あかり、落としたぞ」
「あ、ありがとう。浩平……」
隣の席に座っている浩平からシャープペンシルを受け取るとあかりは再び席についた。
『――すまぬ、今アカリの心に呼びかけてみたのだが驚かせてしまったようだな』
「そんなこと出来るなんて知らなかったからビックリしたじゃん、いきなり何……?」
『――アカリよ、真の声ではなく心の声で我に語り掛けてみよ。実はだな、昼時にアカリと話をしていた少女のことなのだが』
(こうかな? それって、龍丘さんのこと?)
『――うむ。あの少女は紅き神のことを知りたがっているようだが』
(そうみたい。そういえば転生した後の姿を私だって気付いてなかったけど、あれはなんで?)
『――それは転生する前とその後ではアカリのようでアカリではなく、紅き神のようで紅き神ではない存在となるからだ』
それを聞いて何も書かれていないノートに書いていく、自分がいて紅き神がいて姿は似ているが違うところもあるのだと思った。
だがそれを千里や第三者が見たらあかりだと思われず、赤の他人に見られているのだろうかと結論付ける。
やがて終礼のチャイムが鳴る、クラス委員の挨拶が終わると教室に賑やかさが戻った。
どこの部にも属していないあかりは教科書やノートをカバンに入れるとすぐさま教室を出た。
真っ直ぐ家へ帰るところを途中寄り道する、馴染みの本屋へも行かずに向かった先は公園だった。
「ヴェルガ、ここ覚えてる?」
人一人もいない場所で声をかける、目の前の噴水にヴェルガは思い出した。
『――ここは我が時の空を越え、降った所ではないか?』
「うん、そう! ヴェルガがここにいたってことは、他の輝石もいるかもしれないでしょ? 探してみよ!」
公園に入るとあかりは早速探し始めた。
ヴェルガがいた噴水の中や園内でそびえる樹、ベンチの下やゴミ箱の中まで見て回った。
「……はぁ、そんなすぐ見つかる訳ないか」
しかし輝石らしきものはどこにも見つからなかった。
疲れたあかりはベンチに座って空を見上げる、青い画用紙に白い太線が描かれていた。
『――思えば、我々の世界の空もこんな色をしていたな』
「エステラ・トゥエ……だっけ?」
『――エステラ・トゥエ・ルーヴだ。城から見た空は透き通っているかのようだった、時が経つと空は燃えるように染まり、のちに暗く染まり月が昇る』
「ふふっ、こことおんなじだね。ヴェルガがいた世界、いつか行ってみたいな……」
あかりは遠い空の向こうにあると思われる異世界に想いを馳せながら目を閉じた。
同じ頃、アディートはどこにでもある黒のスーツに着替えて街を歩いていた。
周りから見て今の彼はまるで退社したばかりのサラリーマンである。
「紅き輝石に選ばれし者は見たところだと女だった、これはさらに迫る必要がある」
歩き進めていくうちに街中を抜けたアディートは何気なく公園に入った、すぐさまあかりが座っているベンチの隣のベンチに座る。
周りをキョロキョロしていると空を見上げながら目を閉じているあかりが目に留まった。
「この世界の少女か? この場で眠るとは……異世界の者はよくわからない」
それを見たアディートは鼻で笑うと再び輝石探しを始めようと思い立ち上がった時である。
「……ふえっ!? 寝ちゃってた……帰ろ」
突然あかりは立ち上がると急ぐように紅き輝石をポケットに入れた。
「あれは――!」
これを見ていたアディートはあかりがポケットに入れたものにもしやと思った、一瞬だが紅い石が見えたからである。
「そこの者よ!」
「えっ?」
公園を出ようとしたあかりは声をかけられ、すぐに振り向いた。
この時ヴェルガは何かを感じた、漆黒の闇に使えるものが持つあの気配である。
『――アカリよ、黒い気配だ』
「!」
「少女よ、我の問いに答えてもらおうか?」
「な、何ですか……?」
「その紅き石はそなたにとって何だ? いらぬ物であらばこちらへ渡してもらおうか」
アディートはその場であかりへ手を差し出した。
一方のあかりはヴェルガが感じたと言う黒い気配に後ずさってしまう、昨日どのようなものか聞いているだけになおさらだった。
「まあ知らなくとも良い、異世界の者にその石は元々いらぬ物だからな」
「そ、それじゃあ、あなたはこれが必要なんですか!?」
あかりは強気に出た、この輝石は彼女にとって変わらぬ日常を変えさせてくれた大切な物である。
それを容易く手放したくはなかった。
「これは、私の宝物なんです!」
「ほぉ……ならば力ずくで手にするまで!」
アディートは右手を空に掲げ、闇の力を集め始めた。
(ヴェルガ、あれって!?)
『――闇の力を一つに集めているところだろう。アカリ、転生の構えだ!』
「我は“漆黒の闇”……集え、闇の力よ!」
昨日と同様に黒と紫が混じった煙が彼の右手に集まっていく。
「闇の使者となれ、ヴァルティウル!」
詠唱の後に右手を空へ掲げると煙は一羽の鳥に当たった、闇の力を得た鳥は全体や翼が大きくなりカラスのようにどす黒く染まった。
「え! え? えーっ!?」
その一部始終を見ていたあかりは構えるのを止め、思わず見入っていた。
闇の力を得た鳥は大声で鳴きながら、ゆっくりと地面を降りていく。
「闇の力よ、あの少女が持つ紅い石を奪ってまいるのだ!」
肯定的な態度で鳴いた闇の鳥はまるでカワセミのようにあかりに向かって急降下した。
「え、い、いやあああっ!」
あかりはその場から走って逃げる、これにより転生する機会を逃した。
『――アカリ、転生を!』
「む、無理だよぉ。あの鳥さん、怖い!」
いつ襲ってくるかわからない、そう思って頭を両手で覆っていた。
「あっ!」
途中何かにつまづく、その直後に鳥が自分の真上を降下していた。
すぐさま立ち上がったあかりは遊具の中に隠れた、鳥に襲われないようにするためだ。
「こ、ここならなんとか出来そうだね」
『――アカリよ、転生だ!』
「うんっ!」
力強く頷いた後にあかりは自分なりの構えを見せる、いつも見ている魔法少女アニメと同じものだった。
「――ヴァイス・ファレイム!」
自分の口で初めて詠唱を唱え、あかりが紅い光に包まれていく。
「少女よ、どこへ行った? 大人しく輝石をこちらへ――っ!?」
アディートはあかりが隠れた遊具の近くまで歩くと、そこでまばゆい光に思わず目を覆った。
「この光りは!?」
その光りこそ一人の少女が一人の神へ転生していく様子を表していた。
「――言えた! 私、魔法少女なんだ!」
喜びを抑えつつ、転生していく自分の姿に胸がドキドキしている。
「よーし、行くよ!」
ヴェルガの力を借りないで転生したことで彼女は昨日以上に張り切るため、両手で自分の頬を叩く。
「あーぁ、写真部ないのか……」
公園の外では下校途中の千里がボヤキながら歩いていた。
「あたし一人でやるのもちょっとな……ん?」
公園の一角が紅く光っているのが見える、その色と光り具合に見覚えがあった。
「もしかして……今日はここで!?」
特ダネを嗅ぎつけた記者のような気分で千里は公園へ入った。
まばゆい光りはやみ、アディートは目を開けた。
「今の光りはいったい何なのだ……まさかあの少女が輝石の力を使ったというのか? いや、我をあざむくためであろう。さあ、闇の力よ。紅き輝石を持つ少女を探すのだ!」
「お待ちなさい!」
突然呼び止められたアディートは遊具の頂上で立つ人影を見つける、西日の逆光が照らすそれに誰なのかわからなかった。
「お、お前はいったい!?」
そこからジャンプして現れたのは、すっかりヒロイン気分の紅き神だった。
「“紅き神”真紅の烈火、真っ暗い闇なんてさっさとこの世から消えちゃいなさい!」
今の彼女の強き想いが全体に伝わってくる、それはアディートには見えていないが紅いオーラのようなものが揺れ動いていた。
「現れたか神よ、昨日は敗れたが今宵はどうかな? 行け、闇の力よ!」
さっきまで様子見とばかりに上空を飛んでいた闇の鳥は、いつもと変わらぬ鳴き声をあげて再び急降下を始める。
『――紅き神よ、神術を使うのだ!』
「うんっ!」
紅き神は昨日と同じように左手の拳を前に出すと、右手の拳を後ろに引く。
「我が名は“真紅の烈火”。闇へ射る――」
「ねぇ!」
「!?」
突然紅き神の目の前に何かが立ちふさがると、すぐに神術の構えを止めた。
それは千里で、闇の鳥が近づいていることに気付きもしていなかった。
「このショーってさ、適当に場所決めてやってるの?」
「え、あ……うぅ、その……」
「昨日の夜学校の外で見てて、あたしファンになっちゃった! もしよかったら写真かサインを――」
「危ない!」
紅き神が後ろを指差しながら言った、何事かと振り向くと闇の鳥は千里がいるところまであと少しの距離まで来ている。
「うわっ!」
どうすることも出来ずに千里は立ち尽くしていると寸止めで闇の鳥は上昇する、しかし彼女はその勢いに圧倒されその場に倒れた。
「大丈夫!? しっかりして、ねぇ!」
すぐさま紅き神は助け起こすが反応がない、どうやら気を失ったようだった。
「異世界の少女など非力だ! さあ紅き神よ、どうする?」
「許さない……関係ない人を巻きこむなんて、絶対に許さない!」
この時紅き神は強き想いと怒りが重なっていた、輝石ながらヴェルガはそれを感じ取る。
『――この力、昨日とはまったく異なる強さを誇っている!』
怒りの炎が燃え広がる、紅き神は千里を抱きかかえると遊具の中で横に転がした。
「――我が名は“真紅の烈火”。闇へ射る矢よ、紅き炎に燃え広がり放て!」
改めて神術を唱えた。
昨日と違うところを挙げるとするならば、炎の矢の勢いが強く燃えている。
今までの想いとこの場で無関係の人間を傷つけられたことで怒りの炎が合わさっていた。
闇の鳥は今上空にいる、紅き神は狙いを慎重に定めた。
「行け! 闇の力よ、炎の矢など通じぬことを教えてやるのだ!」
アディートの指示に三度目の急降下を始めた、同時に矢も下へおろされる。
すぐに紅き神が正面に見えるところまでやってきた。
(今だ!)
「ファレイム・サジテリア!」
タイミングを見計らって矢を放つ、闇の鳥に命中した炎の矢は瞬く間に燃えていった。
直後に昨日同様黒い煙が鳥から抜けていくと闇の力を与えられた前の姿に戻る、さっきまで人を襲っていたのが嘘のようにオレンジ色の空へと飛び立っていった。
「……くっ、またしても……次こそは輝石を闇の手に!」
下唇を噛みながらアディートは影となって消えた。
「――龍丘さん、龍丘さん!」
転生を解いたあかりは千里の体をゆすりながら呼びかける、ぼやけていた視界が一気に晴れた。
「あれ? あたし……あっ、赤毛の女の子は!?」
「えっ、何のこと?」
すぐさまあかりはとぼけ、はじめからいなかったように装う。
「さっきあたし、赤毛の女の子に会ったんだ! そしたらおっきなカラスがあたしの前にやってきてそれで……遠城さん、その後どうなったか知らない?」
「え、それはその……」
一瞬どのように答えたらいいのか、あかりは言葉を詰まらせた。
(ヴェルガ、助けて……!)
『――まったく、しょうがないやつだ』
この時ヴェルガはあかりの少しだけ意識を借りる、転生をしていなくても輝石の言葉が輝石を持つ者を通して喋ることが出来るためだ。
「――よくわからない、日が沈む前ここに来たら倒れていた」
「そっか。もっと話聞きたかったな……」
千里は残念そうな表情を浮かべる、自分の意識に戻ったあかりはホッと胸を撫で下ろした。
「そうだ! ねぇ、遠城さん! 写真に興味ない?」
「シャシン?」
「学校で写真同好会作ろうと思ったらさ、メンバーが足りないの。お願い、遠城さん! 入会して!」
突然の頼みごとにあかりは混乱していたが、真紅の烈火の正体がバレないかもしれないとも思った。
「うーん……そこまで言うなら」
「ほんとに!? ありがと! だったら今度の日曜、水族館行かない?」
「日曜? いいけど……なんで?」
「同好会のメンバー誕生記念にさ、出かけよ!」
千里は輝く笑顔を見せる、写真同好会と聞いて自分みたいな者が入ってもいいのかとあかりは思った。
「……龍丘さん、騙してごめんね。今の私、魔法少女だから!」
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