第102話 魔導の進化へ

 ※この【エレナと不屈の魔導士たち】は没案として公開したままにすることにしました。

つまりは九十話からまた書き直すということです。

このお話は番外編などでまたリベンジするかもしれないし、しないかもしれません。

ひとまず削除も勿体ないので公開だけ。ややこしくなってしまい、申し訳ございません。




──翌日。


「魔力自身に魔力回路を開発させる?」


 リュカの興味深そうな声がボロ小屋に響く。エレナが頷くと、リュカは今にもキスをしそうなほどの距離まで顔を近づけてきた。サラマンダーがそんなリュカをエレナから引き離す。

 結局、エレナは昨晩テネブリスでドリアードやエルフ達から悪魔ベルフェゴールをおびき出す方法を聞き出すことはできなかった。そもそもそんな便利な方法があるはずがなかったのだ。一番ベルフェゴールを知っているベルゼブブにさえ、「あいつがそう簡単に尻尾を出すわけねーだろ」と一蹴されてしまった。


 しかしエレナはもう一つの疑問に対しての回答は得ることができていた。もう一つの疑問──それは「どうしてリュカのマナ鉱石による魔導の効果が弱いのか」ということだ。ドリアードはあっさりとその原因を教えてくれる。人間には魔力回路がない。故に正しい魔力の通り道を持っていないから魔力が無駄に体内で循環して、そこで消費してしまっている。だから魔法の効果が弱い。そこでドリアードは魔力と意志を通わせたリュカだからこその提案をした。エリザ自身にリュカの体を模索してもらい、自分たちの通りやすい魔力回路を植え付けてもらうのだ。勿論魔力量は勇者やエレナには及ばないだろうが、魔導の欠点を克服できるのは大きい。エレナは意気揚々とその提案を持ってエボルシオンへ戻った。もちろん、サラマンダーはエレナがベルフェゴールの対処法を持って帰らなかったことには苦い顔をしていたが。


「そう! エリザ自身にリュカの体内で魔力回路を構築してもらうの! そうしたらきっと今よりも強い魔法の効果を得られるはずだよ!」

「な、なるほど!」

「おい、大切なことを忘れてないか? それにはどれほどのリスクを伴うんだ」

「うん、そのことなんだけど、この方法はリュカにとって凄く辛くて苦しいだろうってドリアード先生も言ってた。エリザの魔力が体内に満ちることでリュカの体力が限界まで消耗してしまうとか」


 そう、魔力回路を新しく開発することは簡単なことではない。魔力という未知のエネルギーを体の隅々まで張り巡らせるということなのだから、リュカの体力の消耗はかなり激しいものになる。しかし魔力回路の構築さえ乗り越えることができれば、魔導の進化は確実なものになるだろう。

 リュカは俯いた。拳をぐっと握り締め、次に顔を上げた時には──溢れる興奮を隠せないと言いたげな熱っぽい表情を浮かべているではないか。エレナとサラマンダーは顔を見合わせ、苦笑をした。リュカが何故こんなに嬉しそうな表情を浮かべているのか、理解できたからだ。


「どんなに苦しくたって、どんなに辛くたって、僕とエリザが諦めない限り、魔導の進化への可能性があるわけだね?」


 リュカは懐からエリザを取り出した。エリザはリュカのやる気に答えるように赤く輝いている。そんなエリザを己の胸に押し当てると、リュカは呟いた。


「エリザ、お願い。僕の願いを叶えてほしい。僕の体内に君が効率的に巡るための魔力回路を構築してほしいんだ。どんな苦痛が伴っても僕は構わない。それがアンス先生の悲願に繋がるというのなら……神を、否定できると言うのなら……!!」

「────、」


 エリザがさらに輝きを増すと、その光がリュカの胸の中へ差し込んでいく。その次の瞬間には、リュカの膝が崩れ落ちた。リュカは胸を押さえ、呻きだす。


「う、うぁ、ああぁ…………っ」


 普通ではないリュカの反応にエレナもサラマンダーも戸惑う。すぐさまエリザからリュカを引き離そうとするが──リュカが、エリザを手放そうとはしなかった。


「だ、大丈夫。このくらいの苦しみで、痛みで、僕は諦めない……っ、このくらい……!!」

「リュカ……」


 まだエリザの魔力回路構築が開始してから数分も経っていないというのに、リュカの汗は尋常ではなかった。エレナはそんなリュカを見守ることしかできなかった。ついには床に横になり、うずくまりだす。それでも彼は己の意識が限界を迎えるその時まで、エリザを離すことはなかった……。

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