第101話 歯がゆい現状
「──
リュカの声が森に響き渡る。しかしその後に起こったことと言えば、リュカの掌に火の玉がポッと出現し、十数秒燃え続けたことだけだった。マナ鉱石という新たな魔導の道を切り開いたのは大きな一歩だが、その効力はアンスの研究から進んではいなかった。リュカはたった十数秒魔法を使っただけで息切れしている。やはり何かが足りない。今のままではどう努力してもリュカの夢は叶わないかもしれない。
エレナとサラマンダーがリュカと出会ってもう二週間は経過している。その間、悪魔ベルフェゴールの件についても不気味なほどに進展はなかった。平和な学園生活が続いていくのみだ。まるで、これから起こる〝嵐〟を予感させるかのように。
「くそ、何が駄目なんだろう。試せることは全部試したのに……注入した魔力に対して出力される魔力が少なすぎるよ……!」
焦るリュカ。徹夜が続いているからか、目の下の隈はより一層はっきりと分かるようになっていた。リュカの身体は限界だ。ただで立っているだけでも辛そうである。エレナはそんなリュカを見ていられなかった。
「リュカ、流石に休まないと。身体がおかしくなっちゃう」
「っ、でも、このままじゃ僕は自分の夢を叶えることなんかできやしない!! 僕は
「?」
リュカの顔がハッとする。そして彼自身、己の言葉に戸惑っていた。大切な人を守れない。その言葉にリュカ自身も心当たりがないようだ。リュカは頭を抱える。
「ご、ごめん。なんでこんなことを言っているんだろう僕は。既におかしくなっているのかもね。今日はこれで休むことにするよ。このままじゃ二人に八つ当たりをしてしまうし、」
「リュカ……」
「…………、」
エレナとサラマンダーは顔を見合わせた。リュカはフラフラと「また明日」と言って二人の横を通り過ぎていく。……その時、エレナは確かに見た。リュカの瞳が濡れていたことに。ぐすっぐすっと微かな嗚咽が聞こえてくる。エレナは唇を噛みしめた。
「──変だな」
サラマンダーがボソリと呟く。
「リュカがあそこまで魔導に執着していること、まだ不思議に思ってるの?」
「それもあるが、俺が変だと思っているのはアンスの方だ。俺とお前は何のためにここに来た? 調査だろう! だというのにアンスはそれを俺達にさせない。『生徒の監視は我々教師の仕事ですので』と言うばっかりだ! おかしいに決まってる!」
サラマンダーの言っていることはエレナ自身感じていたことだった。悪魔ベルフェゴールがいつ顔を出すかも分からないこの状況で二人がリュカの研究にばかり付き合っていていいわけがない。エレナは俯く。そして拳を握りしめた。
「……今夜、魔法陣で一回テネブリスに帰ってみようと思う」
「!」
「ドリアードさんやテネブリスの皆に相談してみるよ。今のままじゃどうにもならないしね。それで悪魔ベルフェゴールを炙り出す方法を探ってみる!」
「……本音は?」
サラマンダーの言葉にエレナはギクリと顔が歪む。サラマンダーはため息を溢した。
「お前は、本当はリュカの研究をどうにかしてやりたいって気持ちが大きいんだろう。魔法のことはテネブリスで色々と聞きまわる方が手っ取り早い」
「な、なんでそれを……」
「顔に書いてあるっつーの。まぁ、お前がテネブリスに一旦帰るのは賛成だ。このままじゃ埒が明かない。頼んだぞ、エレナ」
サラマンダーの言葉にエレナはにっこり微笑んで頷いた。
──そしてその日の夜、エレナはさっそく魔王の魔法陣が描かれた紙を部屋の床に貼り付けた。魔法陣は紙から床へと移り、怪しく輝き出す。これでこの部屋とテネブリスが繋がったわけだ。ちなみにサラマンダーはエレナがテネブリスへ行っている間に何かあった場合を考慮し、エボルシオンに残る。
エレナは悪戯っぽく笑った。
「じゃあ。私がいなくて寂しいかもしれないけど、留守番よろしくね。もし身体の調子が悪くなったらこの魔法陣に〝早く帰ってこい〟って念じてね! すぐに戻ってくるから」
「無駄口叩いていないで、さっさといけ。馬鹿」
「もう! 私は本当に貴方を心配しているのに!」
そしてエレナはさっそく魔法陣に手を当て、心の中で魔王へ声をかける。すると魔法陣の光が点滅を始め、輝きを増した。刹那、視界から寝間着姿のサラマンダーが消える。代わりに現れたのは見慣れた父の寝室。
……と、いうことは。
「エレナ、」
優しい手と声が降ってくる。随分と久々に頭を撫でられたエレナは思わずへにゃりと頬が緩んだ。
「パパ! 少しの間だけだけど、ただいま!」
「何か、あったのか?」
心配そうな父──魔王の声にエレナはエボルシオン学園での調査の現状を話す。そうしてすぐさま就寝前であったエルフ達やベルゼブブ、ドリアードの所へ、話を聞きに行くことにしたのだった……。
***
お、お待たせしました!! 長い間更新できずにすみません!
五章をどう展開するか色々と悩んでおりました。しかし結局「一旦書き終えてから色々加筆修正すればいいか!」と思い至りました。
あと私、更新していない間に実はVtuberというものになりました。もし興味がでた方は私の近況報告を覗いてくださると嬉しいです。
これからも、「黄金の魔族姫」をよろしくお願いいたします。皆様の閲覧、大変励みになっております。
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