第9話 禁断の森へ
「おっと、これは失礼したねぇ。わっしはケット・シー。このテネブリス一の紳士猫だねぇ。以後、お見知りおきをねぇ」
「きゅっ!」
エレナはケット・シーに襲い掛かろうとするルーを抑えつつ、ケット・シーのお辞儀に釣られて頭を下げる。
「それで。その紳士猫さんが私に何の用でしょうか?」
「君は魔法を使えるようになりたいんだよねぇ? その可能性についてわっしが知っていることを教えてあげようかと思ってねぇ?」
「……可能性?」
「そうとも。君、この図書室の奥のおーくに隠されている扉を知っているかねぇ?」
ケット・シーの言葉でエレナはふと思い出す。そういえばこの図書室の最奥に、大きな一つ目がギョロリと貼りつけられている扉があったのだ。あまりにも恐ろしい見た目だったためにあまり近寄らないようにしていたのだが……。
「あの扉の奥は魔国テネブリスを囲む大森林──“禁断の森”へと繋がっているさねぇ。その管理者である妖精がその“可能性”だねぇ」
エレナは背中に羽のついた小人の姿を思い浮かべる。妖精も魔族であり、森や川に住む魔物の魔力から練り上げられた存在である。
「妖精っていうのは魔力そのもので作られた存在だからねぇ。他の魔族よりも魔力に精通しているさねぇ。生物の中にある魔力の通り道……所謂、魔力回路ってやつを透視することも出来るそうだねぇ。君、一応少し前までは魔法を使えたんだろう? もしかしたら、まだその身体の中にその時の魔力回路が残ってるかもしれないのねぇ?」
魔力回路。エレナは自分の手や腹、胸を見る。まだこの体内にそれが残っているとしたら……。そこまで考えて、首を横に振った。例え魔力の通り道があるとしても、そもそも通る魔力を体内で生み出さなければ意味のないことに気づいたのだ。しかしケット・シーはそんなエレナの思考まで読み取ったらしく、得意げに喉を鳴らす。
「チッチッチッ……。聞いて驚くといいねぇ。なんと大森林には
「!?」
エレナは目を丸くさせた。思わず椅子から立ち上がるほど驚く。ケット・シーのいう聖遺物とは神々が天界から落とした神器と言われているものだ。魔力
(もし、それを手に入れて魔法が使えるようになったら、パパや皆の役に立てたら、魔王の娘として認めてもらえるかもしれない。魔力回路がなかったとしても聖遺物はそれを落とした神の力を一部使用することができるとも言われているし……どんな力が宿った聖遺物なのかは運次第だろうけど! やった、光が見えてきた気がする!)
──と、こんな単純な思考に至るほどにはエレナは焦っていたのかもしれない。
エレナは足早に図書室のさらに奥へ進んだ。ルーがそんなエレナのドレスの裾を引っ張り、なんとか引き留めようとするがエレナの足は止まらない。ケット・シーが「いいぞ、その調子だ!」と軽やかなステップと共にエレナを激励する。
例の扉が見えてきた。扉の大きな目玉はエレナを見るなり困惑したようだが、ケット・シーに何かを囁かれた途端に勢いよく開いた。
「さぁ、行きたまえ元白髪の聖女よ!」
「うん! ありがとうケット・シーさん!」
「きゅ! きゅきゅきゅきゅ!!」
ルーが「行くな」とばかりにエレナに鳴くが、結局エレナが扉の向こうへ行ってしまったため仕方なくそれに付いて行った。エレナ達を向こうの世界へ運んだ途端に扉が閉まる。エレナが去って静かになったその場には──一連のやり取りを覗いていたエルフ達が顔を出す。ケット・シーは得意げに歌った。
「邪魔な小娘でていった♪ これで魔王様は自由だいっ♪ 扉の向こうは大蜘蛛、ドラゴン、グリッドウルフ♪ ゴブリンも怯える化け物ぞろい♪ 小娘すぐに食べられる♪」
「……よくやりましたね、ケット・シー」
エルフ達はケット・シーにご褒美のチーズを投げてやる。そうして今しがた閉じられた扉を嘲笑した。
「エレナ・フィンスターニス。憎き恩恵教の元聖女が、このテネブリスの城にいる資格などない。マモンはあの娘を気に入っていたようだが仕方ないだろうよ。陛下もこれできっと目を覚まされることだろう──」
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