特権コマンド
こうなってくると恐ろしいのが特権コマンドだ。
[sato@world ~]$ sudo ls /root
Permission denied
---sudoコマンド---
windowsで言うところの「管理者として実行」コマンド。
その責任を理解した上で、偉ぶりたいときに利用する。
---
「よかった……」
当面はshutdownコマンドの存在に頭を悩ませなくて済む。
絶対にヤバイと思うんだ。
地味にuseraddとかも危ういと思う。
怖いなら打たなければいいじゃない、と言われればそれまでではある。だが、怖いものほど打ってみたくなるのが人の性である。
ところで今、普通に会社で利用していたパスフレーズを使ってしまったのだけれど、それでsudoが動いた事実がまた恐ろしい。
/etc/passwdの中身が気になる。
あぁ、気になると言えば、それ以上に気になるのが起動しているプロセス。
[sato@world ~]$ ps aux
12093 pts/0 00:00:00 bash
13022 pts/0 00:00:00 ps
---psコマンド---
現在実行されているプロセスを確認するコマンド
auxオプションを付けると細かく色々と見れる。
はずだけれど、見れていないのは異世界仕様だからだろう。
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どうやら他所様のプロセスは確認できないようだ。
ハイパーバイザが間に一枚噛んでいるような感じだろうか。
おかげで安心した。killコマンドとか、shutdown並に恐ろしい。プロセスIDがどういった感じの管理をされているのかは知れないけれど、一桁台はきっとヤバイ。こうして自身もまたコマンドの影響下に入ってみて分かった。sudoって大切だわ。
ところでこのカーネル、ディストリビューションはなんだろう。
[sato@world ~]$ ls /etc/re
redhat-release request-key.conf request-key.d/ resolv.conf
redhatかよ。
[sato@world ~]$ cat /etc/redhat-release
CentOS Linux release 7.5.1804 (Core)
---catコマンド---
ファイルの中身をコンソールに出力するコマンド
大きなバイナリを間違って指定すると萎える
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いや、centosか。サポートはありませんってことなのだろう。
個人的にはエンプラで頑張ってきた業務経験があるのでありがたい。最近だとdebian系も熱いけれど、一昔前は商用だとredhatが強かった。
しかし、微妙にビルドが古いのが気になる。カーネルをアップデートしたい衝動に駆られる。ただ、sudoが使えなかったので、これは諦める他にないだろう。
それに失敗したら怖い。
っていうか、そうなると/dev以下はどうなっているのか。
/dev/nullとか不安すぎる。
「…………」
このウィンドウについて調べていたら、日が暮れてしまいそうだ。
ディスク容量とか、メモリ使用率とか、めっちゃ気になる。そもそもネットワークはどうなっているのかとか、どうしよう、考えだしたらそわそわが止まらない。
ただ、それ以上に重要なことがある。
自身の衣食住だ。
本日の宿と、当面の食料を確保するべきである。
「人里を探そう」
『ぐあ』
誰に言うでもなく呟くと、隣でペンギンが鳴いた。
遠く空の向こう側を見つめている。
「……そうだ、オマエがいたな」
やっぱり連れて行った方がいいんだろうな。
さっきのコンソールと、何かしら関係していそうな気がする。
◇ ◆ ◇
草原をしばらく歩くと町っぽいところに到着した。
タックスは足が短く歩くのが遅いので、自分が抱えて歩いた。
時間にして小一時間ほどの散歩であった。
「な、なんだ、その生き物はっ!」
「この町に入りたいんですが……」
「…………」
町の出入り口で門番に止められた。
槍を手にした男が、訝しげな表情でタックスを見つめている。年齢は三十中頃くらい。ペンギンという生き物に対して、知識がないだろうことが窺えた。こちらの世界では一般的ではないみたいだ。
「……モンスターではないのか?」
「ふつうの鳥です」
「そのように丸々と太った生き物が鳥だと!? そんな馬鹿なっ!」
「ですがこのように、ちゃんと翼もあります」
翼を手に取り、パタパタと振ってみせる。
タックスはされるがままだ。
「なんて小さい翼だっ! 胴体に対して翼があまりにも小さいっ!」
『ぐあ』
「な、鳴いたぞっ!?」
おっしゃるとおりである。
でも見ての通り、おとなしいヤツなんで許してやって欲しい。
「駄目でしょうか?」
「……分かった。可愛いから通してやろう」
「ありがとうございます」
可愛いってのは得だな。
「ただし、食肉ではなく愛玩用の動物ということであれば、その鳥にも税が必要だ。愛玩用の動物については、一律で銀貨一枚ということになっている。オマエの分と合わせて銀貨三枚が必要だ」
「え?」
「どうした? 銀貨三枚だ」
「…………」
しまった、お金がない。
どうしよう。
「すみません、手持ちが足りませんでして」
「なんだと?」
「他所でお金を作ってから、またお窺いさせてもらいます」
「……分かった」
スーツさえ着用していれば、口先一つで割とどこへでも入り込めた現代日本とは一変して、どこへ行くにもお金の掛かりそうな世界観である。個々人に対する情報のひも付きが緩いが故の税徴収方法なのだろう。
タックスを抱えて一時撤退である。
門から距離を取り、人目の少ない場所に移動する。
そして、正面に取り出したるは真っ黒な背景のコンソール画面。
「お金、お金だよ。何かお金になるコマンドとか……」
必死になって過去に叩いてきたコマンドを思い出す。
お金になるコマンドって何やねん、などと思わないでもないが、四の五の言っている暇はない。お金がなければ野宿確定の上に、食事を取ることもままならない。どうにかして貨幣をゲットする必要がある。
いの一番に思いついたのは、cpでの複製。
ただし、手持ちのアイテムはスマホのみ。
いやまて、財布も持っていたはずだ。
スマホが入っていたのとは反対側のポケットを漁る。そこには財布の感触がある。取り出して中を漁ってみると、紙幣が数枚、更に硬貨が幾枚かでてきた。十円玉が2枚と、百円玉が1枚、それに一円玉が2枚。
「…………」
百円玉を銀だと主張すれば、お金に変わったりするだろうか。
いやしかし、見た目は銀っぽいけれど、実体は白銅である。昭和初期は本物の銀が使われていたらしいけれど、昨今では銅とニッケルの合金である白銅が使われていると、高校授業で社会科の先生が言っていた。きっと重さを測られたらバレる。
そうなると銅の純度が高い十円玉の方が価値がありそうだ。
「よし」
ええい、十円玉を複製してしまえ。
[sato@world wallet]$ ls
10-Yen-1 10-Yen-2 100-Yen-1 1-Yen-1 1-Yen-1
[sato@world wallet]$ for((i=0;i<1000;i++)); do cp 10-Yen-1 10-Yen-$i;done
---bashスクリプト---
コマンドをいくつか機械的に実行することができる。
便利な反面、極めすぎると老害扱いを受ける。
何事もほどほどが一番である。
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コマンドを打つと同時に、目の前に魔法陣が浮かび上がる。
直後に山程の十円玉が現れた。
「おぉ……」
ビニールに封じられた束の状態を想像して、千枚くらいなら問題ないだろうと考えたのだけれど、バラバラで出てくると千枚って結構多いなって思える。
一枚あたり数グラムだとして、千倍だと数キログラムだ。
「…………」
出してしまったものは仕方がない。
スーツのジャケットを抜いで、これで包むようにして持ち運ぶ。待ちへの出入りを監視している門番のところまで運べれば問題はないのだ。
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