スキル☆Linux ~異世界転生で学ぶLinuxコマンド~
ぶんころり
基本的なコマンド
流行に乗って異世界転生。
トラックによる交通事故ではなく、過労に伴う目眩からの線路転落であったのは幸い。おかげで碌に痛い思いもせずに、気づいたら草原の只中にたっていた。
ひゅうと吹いた風が頬を撫でる。ポカポカとした暖かい陽気に少し冷たいそれが心地よい。見渡す限りの草原。遠くには延々と広がる山脈。頭上には抜けるような青空。
そして、傍らにはペンギン。
「……オマエ、どこかで見たことあるんだよな」
『ぐわ』
ペンギンはこちらを見て鳴き声を上げた。
愛嬌のある顔をしている。
退化した翼をパタパタとやっている。
線路に落ちて視界が暗転。直後、この場を訪れると同時に、彼の姿は既に隣にあった。自分と一緒に線路へ落ちたのだろうか。いやそんな馬鹿な。
もしかしたら、お助けキャラだったりするのだろうか。
「……あ」
キャラという単語から、ふと気づいた。
コイツ、タックスだ。
---タックス----
Linuxのマスコットキャラ。ペンギン。可愛い
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いやしかし、どうして。
疑問に思ったところで、ふと目の前に何かが浮かび上がった。黒い半透明で一メートル四方ほど。よくよく見てみると、コンピュータのウィンドウだ。
キャプションにはsato@worldなる文字列がならんでいる。
「なんでコンソール……」
ウィンドウの下部には、ホログラムで投影したかのようなキーボードが浮かぶ。
変則的な106配列。右側にテンキーは存在しない。
っていうか、見慣れたHHKB Professional JPのものだ。職場だとUS仕様を使っている同僚に、いつもマウントを取られていたことを思い出す。
個人的には変換、無変換キーを利用できるJPが最強だと思う。
windows大好きなんで、ディップスイッチは2番のみオン。
US仕様で頑張って日本語のマニュアルを書くエンジニアの文化、あれなんなんだろうな。ツッコミを入れると喧嘩になるから黙ってるけど。
試しにコマンドを打ってみよう。
[sato@world ~]$ ls -al
drwx--x--x 30 sato sato 4096 Aug 13 23:12 .
drwx--x--x 30 root root 4096 Aug 13 23:12 ..
-rwx------ 2 root root 1022 Aug 13 23:12 .soul
-rw-r--r-- 1 sato sato 4096 Aug 13 23:12 .bash_profile
-rw-r--r-- 1 sato sato 4096 Aug 13 23:12 .bash_history
drwxrwxr-x 120 sato sato 4096 Aug 13 23:12 items
drwxrwxr-x 120 sato sato 4096 Aug 13 23:12 skills
---lsコマンド---
ディレクトリの中の情報を一覧で確認するコマンド。
aやlオプションで詳細な情報を確認できる。
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すると画面に変化があった。
ディレクトリ内の情報がちゃんと表示されたぞ。
最終更新日時は恐らく線路に転落した直後のタイムスタンプだろう。一つだけ見ることも触ることもできないドットファイルがあるのが気になる。ただ、命名的に恐ろしいので、当面はスルーさせて頂こう。
ホームディレクトリには幾つかサブディレクトリが存在している。
取り分け気になるのはitemsやskillsなる名前のディレクトリだろうか。
試しにこちらも確認してみよう。
[sato@world ~]$ cd skills
[sato@world skills]$ ls -al
-rwx--x--x 120 root root 11290 Aug 13 23:12 console
---cdコマンド---
カレントディレクトリを移動するコマンド。
カレントディレクトリとは、現在弄っているディレクトリ。
----------------
「……ほう」
consoleというのは、この黒い画面のことだろうか。
[sato@world skills]$ ./console
試しに実行してみる。
すると向かって正面、今ある黒い画面の右隣にもう一つ、同じデザインのウィンドウが音もなく浮かび上がった。どうやら間違いなさそうだ。
すると気になるのがファイルの中身である。
しかしながら、権限的に考えて中身の閲覧は無理っぽい。
itemsの方はどうだろう。
[sato@world ~]$ cd ../items
[sato@world items]$ ls -al
-rwx--x--x 120 sato sato 11290 Aug 13 23:12 ArrowsM03
drwxrwxr-x 120 sato sato 4096 Aug 13 23:12 Wallet
ポケットの中のスマホ、たしかこれと同じ機種だった気がする。
「…………」
なんかちょっと怖いな、このコンソール。
具体的に言うと、こういう意味で。
[sato@world items]$ cp ArrowsM03 ArrowsM04
---cpコマンド---
引数に指定したファイルをコピーするコマンド。
コピー後に別名を指定することもできる。
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コマンドを打ってエンターを押したところ、目の前に魔法陣が浮かび上がった。地面から一メートルほどの高さである。
「あ……」
ビックリして身構える。
すると間髪を容れず、魔法陣の上に何やら像が結ばれ始めた。
めっちゃ召喚ぽいエフェクト。
「マジか……」
お目見えしたのはArrows M03である。
Arrows M04ではない。
きっと中身はM03のモノだからだろう。
その形がハッキリとするのに応じて、およそ数秒ほどで魔法陣は消失した。コンソールから処理が返されて、キー入力の受付が始まる。
端末は支えを失ったように、足元に茂った草の上にポトリと落ちた。
「…………」
こちらは大慌てでズボンのポケットに手を突っ込む。
するとそこにもまた、端末の硬い感触があった。
スーパーハカー誕生の予感である。
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