第5話 吸血魔王、王に成る
「カカッ! これまた面白ぇ奴が来たもんだ!! 長生きってもんはするもんだなぁ!!」
女は腹を抑えて高笑いした。
ガハハハと独特な笑い声だけが湖の中心から響き渡る。
女が笑うたび、ビリビリという衝撃が俺を襲った。
目付きは鋭く、女性とは思えない態度と口調に威圧感。
彼女の名はゼル・ブラタスキ。
確認はとっていないが反応からして間違いないだろう。
「普通、俺様を見たらビビッてかしこまっちまうよ! それが、おめえ開口一番ふてぶてしい態度で「王になりにきました」って……ぶははっ! 面白登場ランキング歴代2位にランクインだ!」
「……ちなみに1位を聞いても?」
「そりゃあ岩の上に降り立った途端俺に剣を振るってきた奴のことだな! お前の親父のことだが!」
えぇ、お父様なにやってるんですか……。
と、天国にいる父親に戦慄を覚えていると、女は嬉しそうに父との出会いを語ってくれた。
「何でも、「見た瞬間、邪悪なる者だと判断した。真祖だがなんだか知らんが死んでもらう」だそうだ! ありゃイカレてたね!」
「……生前の父からは考えられませんね」
俺の知っている父は常に温厚だった。
争いをいかにして起こさないようにするかばかりに頭を悩ませていたように思う。
「カカッ! 人ってもんは子供ができたら変わるもんさ。強くも、弱くもな。ま、俺様たちは人じゃねえけどな!!」
そう言って笑う彼女は実に楽しそうだ。
が、ガハハハとひとしきり笑った後、「さて」と前置きして、真剣な表情になった。
「先代魔王は一発採用だったが、おめぇはあと一押し足りないって感じだ。だから他の連中と同じように聞かせてもらう。なぁ、おめぇは何で魔王になりたいんだ? 王になって何を成す?」
「復讐です」
俺はノータイムで答えた。そこに迷いはなかった。
「復讐、復讐ねぇ……」
が、真祖様は納得いってないようだ。
先ほどまでの楽し気な雰囲気は消え、つまらなそうに眼を細めている。
「正直ガッカリしたぜ。期待外れだな」
立ち上がりながら、真祖様は右手を構えた。
霊体のようなものなのだろうが、その殺意は本物だ。
彼女が魔法を放てば、それは俺の腹を貫き、俺は絶命するであろう。
「復讐なんてものほど費用対効果が低いもんはねえよ。成し遂げたとして、一体それがどうなる? 気分が良くなってスッキリして終わりか? それを成した後、熱意を向ける矛先もなくなって自滅していくのが目に見えてる。三流の人生だ」
何度も何度もそんな光景を眺めてきたかのように彼女は語った。
実際、見てきたのだろう。
彼女は幾億年もの時を生きてきた。
彼女の死から、知性を持つ生命体は一気に増えたから、彼らの生き様に興味を持つのは必至だろう。
いろんな奴がいたはずだ。
争いもあっただろう。理不尽なこともあっただろう
そんな中、復讐に生きた奴らも多くいたに違いない。
……だが、彼女は勘違いしている。
根本的な勘違いだ。
勘違いされたまま死ぬわけにはいかない。
どうにかして説明するとしよう。
「……復讐は、あくまで手段に過ぎません。俺の目的はその先にあります」
真祖様はぽかんとした表情を浮かべた後、どかりとまた腰を下ろした。
「ほう。なら、その目的とやらを聞かせてもらおう」
再び俺を試すような視線。するどい眼光、威圧。
今までの俺ならば畏縮してしまっていただろう。
だが、今の俺には信念がある。
強くならなければ、強くあらなければならない。
成し遂げなければならないことがあるのだから。
「人界を――――、いや、この世界をぶち壊すこと」
俺は彼女の眼をしっかりと見て、宣言した。
必ず成し遂げるという覚悟を持って。
「この世界は間違ってる。なら、この世界のルールごと書き換えてやる。人界でも魔界でもない、新たな世界を作り出すために」
昔から、ずっと考えてきた。
誰もが幸せで、笑いの絶えない世界。
そんな世界を創るためには、どうすればいいのかって。
魔族同士の闘争は父が抑えたから一時的には収まっていた。
だが、あくまで一時的なものに過ぎないし、完璧なものではなかった。
差別はどうだ?
種族ごとの差別は残っていた。平等だなんてものは上辺だけのものだった。
人族とはどうだ?
数千年前に争って以降、不可侵条約を結び、関係を断ち続けてきた。
人族側はどうだったか分からないが、少なくとも魔族は先の戦争でのことを引きずり、人族を恨んでいた。
そして、あの日。
人族が襲撃してきたあの日。
俺たちは数多の命と尊厳を奪われた。
だから、思ったのだ。
求める世界があるのなら。
世界を『創る』側に周らなければならない。
そのために。
「新しいものを生み出すには、破壊が必要だ。……だから、俺は『とりあえず』この世界をぶち壊すつもりです」
俺の話を聞き終えて。
真祖様はポツリと、
「面白ぇ」
そう呟いて、深紅の剣に吸い込まれるように消えていった。
やがて長剣がカチャカチャと動いた。
「お前の結末を見たくなった。最期まで、俺様を楽しませてくれよ」
俺は剣を岩場から引き抜いた。
力の全てを持っていかれるような感覚が最初。
続けて膨大なチカラが流れ込んでくる。
俺は吸血剣を手に入れた。
俺は王に成った。
―――
深紅の剣は、俺が念じると弾けて霧散した。
消えたのではない。
俺は己れの魂を吸血剣と融合させたのだ。
つまり、この剣は俺の
喜びとともに実感する。
俺は力を得たのだ。
ならば、遂行するべき使命がある。
「ライラ、皆を集めてくれ」
ゼルが居なくなり、降りてきたライラに俺はそう告げた。
ライラは頭を下げ、
「かしこまりました」
そう言って、
俺は何も言わず、その闇の中へと足を踏み入れた。
純金の足と荘厳な装飾を施されている。
座ればそこから見下ろす形となる、王としての権利と、責任を象徴した場所。
俺が足を踏み入れたのは、魔王城、玉座の間であった。
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