第336話 気付いたら世界征服してた魔王だけど何か質問ある?

 この暗黒武器を集めさせたのが、魔王の側近……?


「えっと……それってこの暗黒武器が魔王の命令で集められた業物って意味? それとも、この倉庫に集めさせたのが魔王の側近って事?」


「む。そうだな、我は後者のつもりで言ったんだけど、前者の可能性もなくはないぞ」


 はぁ? ますます意味わからん。どういう事?


「隊長、なんかこいつの言う事普通に信じてるっぽいけど……適当な事言って煙に巻こうとしてるだけなんじゃないの?」


「おい雑魚娘。適当な事とはなんだ適当な事とは。せっかく我が大サービスで話してやってるのに。そんな口の利き方するんならもう帰るぞ?」


「帰ればいいじゃん。別に用事ないし」


「……」


 あ、怪盗メアロがこっちにアイコンタクトしてきた。何々……『我こういうヤツ苦手。黙らせろ』、って言いたいのか?


 うーん、そりゃ明らかに相性は悪いとは思うけど、そんなん直接本人に言えよ。


 ん? また? えっと……『こういうタイプは平気で人の心にナイフを刺してくるから相手にしたくない』。心抉られるの嫌なんだな。まあ今の怪盗メアロの立場じゃ何言っても負け犬の遠吠えになるから分は悪いか。


 仕方ないな。怪盗メアロの肩を持つのは不本意だけど、情報源としてのこいつの存在価値がデカいのは認めざるを得ない。ここで帰られるのは正直困る。


「シキさん。こいつを家に帰しても俺達には何の得もない。情報を搾り取るだけ搾り取って取捨選択した方がサクッとお得だ」


「ぅおい! 言い方ぁ!」


「わかった」


「お前もわかるな! なんだコイツら! 嫌なコンビだな!」


 いや、希望通りシキさんを引かせたんだからそこは納得してくれよ。


「色々聞きたい事はあるけど……取り敢えず暗黒武器の事についてもっと詳しく話してくれないか?」


「だったらもう少し我が話したいって思わせる努力しろよ全く……」 


 ブツブツ言いつつも、怪盗メアロは話の続きを始めた。


「んじゃ話すけど、その前に一つ聞いてやる。お前ら、暗黒武器ってそもそも何の為に作られてると思ってるんだ?」


 暗黒武器の存在理由……? あんまり考えた事なかったな。


 普通に考えたら、ルウェリアさんや御主人みたいに光より闇の方がカッコ良いと思ってる人が一定数いるから、その需要を見込んで……ってのが妥当だ。若しくは、職人の中に厨二病的嗜好の人がいるって線もある。


 それと……


「暗殺の為じゃないの?」


 シキさんがサクッと言ったように、闇にまぎれるカラーリングは完全に暗殺向き。さっき俺が対コレット用に集めたと想像したように、聖属性の人間に対する特効も期待できるし、モンスターよりも対人間用の武器って感じだ。


「フン。中々良い答えだ。でも実際に作られてる暗黒武器の大半は暗殺向きじゃないだろ?」


「言われてみれば……」


 ベリアルザ武器商会に勤めていた事もあって、一通りの暗黒武器は御主人から解説を受けた。その中で暗殺に向いてるのはごく一部。それ以外は寧ろ、如何にも持ち歩き難そうな形状の武器が多いから、寧ろ暗殺とは最も遠いタイプの武器だ。


「元々は、お前らの祖先が魔王に上納する為に作ったのが始まりだ」


「魔王に……」

「上納?」


 思わずシキさんとシンクロしてしまう。それってつまり、かつて人類は魔王に屈して媚びを売ってたって事か?


「現代の人間達が魔王をどう思ってるのかは知らんけど、魔王は別に人間を敵視してねーから。やたらケンカ売られたのを買って返り討ちにしてたらいつの間にか天下統一だの支配者だの言われるようになっただけの話だ」


「……なんでお前がそんな事知ってんだよ」


「我は博識だからな。魔王軍の歴史書は一通り読んでる。特に魔王自ら書いたとされる『気付いたら世界征服してた魔王だけど何か質問ある?』は必読だぞ」


 全く読む気にならないタイトルなんだけど……


 でも、こいつの正体があのベヒーモスだとしたら説得力はある。少なくともかなりハイレベルなモンスターなのは間違いないからな。


 とはいえ、あれが正体って保証もない。あの姿も、こいつの変身能力の賜物かもしれない。鵜呑みには出来ないな。


「だけど、ある時期を境に人間どもは魔王への上納をやめ、戦う事を選択した。その時点で暗黒武器は不必要な物になる筈だったが……以降は単純な武器としてだけでなく、前衛的な観賞性も兼ねた芸術品として作られるようになったんだ」


「暗黒武器が芸術品……?」


 シキさんが『何言ってんのこのガキ』って顔になるのも無理はない。大抵の人間には理解できないだろう。


 でも実際、暗黒武器に魅入られている人間は少数ながらいる。だから決してメチャクチャな話でもない。


「武器ってのはそもそも芸術性が高いんだぞ? 他者の命を奪う、或いは自分らの身を守る為の道具だからストーリーも作りやすい。芸術はストーリーがあってこそ成り立つ分野だからな」


 ……言われてみれば、絵画にしろ掛軸にしろ、その手の物は何かしらのストーリーが背景にあってこそ価値が高くなる。作者が破天荒で破滅的な人生を歩んでいる方が芸術性も高いと思われがちだ。


「とはいえ、武器なんだから『相手を攻撃する』ってアイデンティティがなけりゃ意味がない。ただ鑑賞する目的で作られた暗黒武器は人気も出なかった。そこで昔の人間……お前らの祖先はこう考えた訳だ。『だったら切ったり刺したりするんじゃなく、呪いで攻撃性を表現すりゃ良いや』って」


「……はい?」


「やー、なかなか芸術点の高い思いつきだよなー。傷付けた相手に呪いを付与するタイプってのは少なくて、大抵は所有者が呪われるタイプの武器が作られてるもんな。その方がストーリーが作りやすいだろ? 『手にした奴等がみんな呪われて行方不明になった曰く付きの一品』みたいな」


 な、なんつーしょうもない……でも確かに、そんな理由でもなけりゃ装備者が呪われる武器なんて好んで作らんわな。


「ってな訳で、暗黒武器ってのは人間が人間の為に作ってる物だ。でもその内、初期の作品は魔王に上納されて今も魔王城の倉庫に保管されてるってさ。十三穢の幾つかと一緒にな」


「倉庫……」


 そういや、コレーの亜空間内にあった魔王城にも倉庫らしき場所があった。結局、俺は調べる事が出来なかったけど……始祖はあそこに九星の一つ、リリクーイがあるっつってたな。


 ……リリクーイなあ。


 何だろう。今になって妙に引っかかる。何だ? この違和感は……


「で。ここからが本題だ」


 あ、ようやくか。やたら前置きが長かったな。シキさん途中で聞くのやめてないだろな……


「魔王軍の中に、魔王に上納された暗黒武器をやたら気に入ったヤツがいたみたいでな。魔王は特に興味なかったらしいから、全部くれてやったそうだ」


「それが、さっきお前が言ってた側近なのか?」


「そうそう。名前はサタニキア」


 サタニキア……なんだろう。よくわかんないけど凄くサターニャって呼びたくなる。


「そいつは魔王軍の中でも指折りの過激派でな。やれ人間は滅ぼせ、人類は滅亡させろとやかましいヤツだったようだが、暗黒武器を気に入ってからは寧ろ人類最高、人間は保護するべきって言い出した」


 動物の絶滅危惧種と同じ扱いかよ! 幾ら人間贔屓でも全く好感持てねーぞ。


「そのサタニキアが、この街に入り込んでる」


「……魔王の側近が、ここに?」


「そーだ。知っての通り、この街には聖噴水があるからフツーのやり方じゃ入れない。だから、人間に化けて入る必要がある。もう大分前に潜り込んでたらしいぞ」


 ……何だって?


 おいおい。この話がマジなら相当ヤバい状況なんじゃないか?


「そのサタニキアって奴、魔王を探す為にこの街に入って来たモンスター達とは違うの?」


「あー、違う違う。サタニキアの目的はあくまで暗黒武器だ。なんか魔王城の近くまで来てた人間が持ってたヤツで、装備してたのか魔王に納めようとしてたのかはわからんが、とにかくメチャクチャ琴線に触れたらしい。『靴を舐めろと言われたら舐めるから譲ってくれ』と懇願したがダメだったそうだ」


 えぇぇ……そんな魔王の側近イヤなんだけど……夢を壊すなよ夢を。魔王の側近っつったらもっとキリッとしてなきゃダメだろ。最終的に滅び行く魔王と運命を共にして、最後に魔王に感謝の言葉を告げて儚く散る、みたいなタイプしか認めたくないんだけど。


「その後どーしても諦めきれなくて、この街に潜入して情報収集してたそうだ。さも住民のように振舞ってな」


 って事は、シャルフ達とは別行動だった訳か。


 ……いや、待て。


 そう言えばシャルフ達に協力してた奴がいたよな。そいつは城下町に店を構えて、異常に安い価格で多くの住民にサービスを提供していた。評判も上々で、俺も何度となく世話になった。


 そしてシャルフ討伐後、風のように消え去った。


 まさか……


「髭剃王グリフォナルか!?」


「おっ。当たり」


 マジかよ! ここに来て奴と繋がるのか!


 でも確かに、ずっと気にはなってたんだ。明らかに異質な存在だったもんな……髭剃王。


「恐らく奴は街にある全ての暗黒武器をチェックするつもりなんだろうな。だから冒険者に化けて、目的の武器を全部見つける為にお前らが隠した暗黒武器を回収させたんだろう」


「じゃあ、俺から逃げたあの冒険者は……」


「サタニキアの可能性大だな」


 なんてこった。放火犯を追いかけてたらとんだ大物を引き当てちまった。


 でも……だったらあいつは犯人じゃないって事だよな。暗黒武器を欲してる奴が酒場に火を付ける理由なんてないし……やっぱり失火が原因なのか?


 にしても、相変わらずの情報通だな怪盗メアロ。何処で手に入れられるんだよ、ネットもないこの世界で。情報屋がいるっつったって万能じゃないだろうに。


「仮にお前の言う通り、この暗黒武器をサタニキアが集めさせてたとしたら……ここにある奴は全部所望してた武器じゃなかったって事か」


「だろうな。もしお前達が街に隠した武器を全部覚えてるなら、どの武器が抜かれたかわかるかもなー。ま、そんな訳ねーか」


「隊長。なくなった暗黒武器はこの中に全部ある」


「わかんのかよ! 暗黒武器マニア過ぎるだろ!」


 怪盗メアロがドン引きしてるけど、別にシキさんが全部暗記してた訳じゃない。普通に製造番号を控えさせてただけだ。柄の所に刻印されてるからな。 


「だはー……これだから市販の武器はロマンがないんだ……」


「ンな事より怪盗メアロ、サタニキアってのはヤバい奴なんか? 具体的には放火魔より優先して対処すべき相手かどうか」


「んー、ヤバいっつーか極端な奴だな。さっきも言ったけど、昔は『人間なんてゴミ以下だから滅ぼせ』が口癖だったのに、暗黒武器に目覚めてからは『人間最高』になったからな。もしお目当ての暗黒武器を人間が破壊でもしてようものなら、腹いせに城下町滅ぼすかもな」


「……それが可能なくらい強いの?」


 この街は人類最高峰の戦力が揃ってる。それでも滅ぼせるって事はつまり――――


「強いな。攻撃力だけなら魔王以上かも」


 なっ……嘘だろ?


「……信じられない。そんな化物が魔王軍にいるなんて聞いた事もないよ」


 俺よりずっと長い事この世界にいるシキさんですらこの反応。明らかにおかしい。


 幾ら攻撃力に限定されるとはいえ、魔王よりも破壊力が上のモンスターって……そんな恐ろしい存在が今まで人間の間で無名だったなんて、そんな事あり得るか?


「人間を敵視してた時代はそれほどでもなかったんだよ。暗黒武器に固執し出してから急速に強くなったって文献に書いてたぞ」


「マジかよ暗黒武器最低だな」


 その関連性はともかく、人間と戦う意志がなくなってから強くなったんだったら、人間側がその強さを把握できないのも無理はない。多分、最後に戦ったの何世代も前の話だろうし。


 何にしても、そいつが危険な存在なのは間違いなさそうだ。お目当ての暗黒武器をサクッと渡して街から出て行って貰った方が良いかも。そんな化物と街中で戦えば、被害が甚大になるのは避けられない。


 サタニキアは多分、俺達が隠した暗黒武器がベリアルザ武器商会から譲り受けた物だとは知らないんだろう。もし知ってたら、この中に目当ての物がないのはわかり切ってるからだ。


 本当に奴が髭剃王に化けていたのなら、大分長い間この街に住み着いていた事になる。ならベリアルザ武器商会の品揃えを確認する機会は幾らでもあった筈。暗黒武器と言えばあの武器屋だからな。チェックしない訳がない。


 でも、俺達に追いやられ髭剃王は暫く姿を消していた。だから、俺達が街中にバラ撒いた暗黒武器がベリアルザ武器商会由来の物だと知る機会がなかったんだろう。


 とはいえ、解せない事も幾つかある。例えば――――


「どうして初日や二日目の午前中に集めなかったの?」


 シキさんの言うように、初動が遅過ぎる。まして暗黒武器ブームがまだ健在だった頃はライバルが沢山いた。それなのに沈静化した昨日の午後から動き出すのは明らかに遅い。


 それに、さっきの冒険者が本当にサタニキアだとしたら、あの反応は……人間不信に陥ってるっぽい感じだった。とても魔王を上回る攻撃力を持った奴とは思えないくらい怯えていたし。


 俺達が王城を占拠したアイザックを懲らしめに行った際、別働隊が髭剃王を捕らえる予定だったけど、結局まんまと逃げられた。その時に人間への不信感が芽生えたとか? でもそんなの逆恨みも良いトコだよな。まあ、モンスター相手に人間の倫理観を求めるのも変か……


「何か事情がありそうだし、会って話したい気もするけど……危険だよな」


「精神状態次第だな。安定してる時は割とマトモだと文献には書いてあった。その代わり、不安定な時は危ないかもな」


 ダメだな……ありゃ完全に情緒不安定だったもんな。しかも俺、相当怪しまれちゃったし……


「なあ怪盗メアロ。もしサタニキアと面識があるんなら仲介やってくんない? 目当ての暗黒武器探してやるから大人しくしてろって」


「はァ? 調子に乗るなよ。この我がいつ貴様らの小間使いになった! フザけんな!! 我は怪盗メアロだ。こうして話してやってんのは我を捕まえた事への御褒美って事を忘れるなよバーカ!!」


「あ……」


 気に障ったのか、怪盗メアロは別れの言葉も告げず倉庫から出て行った。


 マズったかな。でもあの様子じゃ元から協力する気はなさそうだな。後はお前らで勝手にやれ、ってか。


 弱ったな……判断がムズい。下手に追いかけて刺激したら冒険者ギルドまで壊滅……いや、それどころか城下町全体が危機に陥るかもしれない。


 かといって、このまま放置する訳にもいかないだろうし……


「隊長、どうするの? 放火犯の探索を続行する?」


 そっちもなあ……放置は出来ないけど関与するのも簡単じゃないよな。


 不信感を持たれている俺より、初対面のシキさんに交渉して貰う方が失敗のリスクは少ない。でも、シキさん自身のリスクは当然高まる。そもそもシキさんの性格上、交渉事には向いてないだろうしな……


 俺には例の結界があるから、もしサタニキアが暴走しても俺は助かるかもしれない。けど本当に魔王と同等以上の攻撃力を持ってる奴だとしたら、このギルドすら簡単に破壊できそうだ。下手に刺激するとヤバい。


 となると、打つ手は――――





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