第249話 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 ディノー、オネットさん、そしてシキさんの証言をもとに、当時の状況を整理してみた。



 俺が手押し車を買う為に一旦鉱山を出た際、三人はフラワリルの採集場からは動かず、その場でずっと雑談をしていた模様。オネットさん曰く、普段あまり話をしないシキさんとこの機会に打ち解けたいと思っていたそうな。多分、恋バナに飢えていただけだろうけど……何にせよ、ギルド員同士のコミュニケーションが取れているのは好ましい限りだ。


 そして、オネットさんが一通り俺とシキさんをイジり倒した直後――――あの地震に見舞われた。


 揺れが収まったところで俺を心配してくれたようで、全員で鉱山の出入り口まで走ったとの事。けれど俺は発見できず、引き返そうとしたところでポイポイに乗った俺とすれ違った。


 コーシュ殺人未遂事件が起こったのは、地震の前後で間違いない。よってコレットといた俺は勿論、シキさん達にも完璧なアリバイがあり、操られていた様子もない事から、約一名を除きウチのギルド員が犯人にはなり得ない。



 ……と、この見解をこのまま陳述書にして冒険者ギルド側に送りつけようものなら、間違いなく犯人扱いされるだろう。



 最大のネックは、俺が無限ループに捕まっていた所為でシキさん達と合流できなかった事。鉱山内は一本道じゃないけど、俺もシキさん達も寄り道はしていないし、迷っていた訳でもないから、どうしたって不自然に思われてしまう。かといって、あの声だけの存在について供述したところで聞こえるのが俺だけじゃ信じて貰えそうにない。見え透いた嘘をつくなと罵られ、心証を悪くするのがオチだ。


 一応、俺以外にもあの声について把握している奴はいる。


 怪盗メアロだ。


 でもアイツが俺の為に冒険者側に証言してくれる筈がない。そもそも、今は本職に立ち返って盗みの準備をしているらしく、俺の前に姿を見せる事もなくなっている。証人にする事は出来ない。


 となると、俺が頼るべき存在はあと一人しかいない訳だが……





「。。。無理」



 怪盗メアロ以外で唯一、声の主の存在を知る始祖にダメ元で頼んでみたものの、所詮ダメ元はダメ元だった。


「やっぱりかー。始祖ってオフィシャルな存在じゃないもんな」


「。。。おうおう。。。ミロを非正規品みたいな扱いすんな。。。やっぞ。。。やってやっぞ」


 始祖はなんかフワフワしながらシャドーボクシングを始めた。あの動きならなんか勝てる気がする。やらんけど。


「。。。ミロ知ってる。。。お前ちゃんみたいに間髪入れずトラブルに巻き込まれる奴の事。。。不幸体質って言う。。。属性が不幸とか笑う。。。」


「笑い事じゃねンだわ」


 転生前はそんな体質じゃなかったんだけどな……寧ろ完全に無風というか凪というか、幸も恥も薄い人生だった。その反動なのか、転生後の俺は何かとトラブルに巻き込まれている。ただ、俺がどうこうって言うより環境が悪いよ環境が。こんな街に住んでれば誰だって何かしらに巻き込まれるって。


 とはいえ、今回はこれまでとは別タイプの理不尽極まりない事態だ。俺達の中に犯人がいないのなんて明らかなのに、いざそれを証明しようとすると色んな事象が邪魔してくる。幾重にも、執拗に。嫌がらせのレベルで。


 この世界に来てからは結構、幸運や出会いに恵まれていたんだけどな……まるで運命が反転したかのようだ。


 ……反転。


 なんか最近、何処かで見聞きしたキーワードな気がする。特に固有名詞って訳でもないのに、妙に引っかかるな。何の時だっけ?


 あー、思い出した。怪盗メアロと初めて遭遇した時、あのバカがスティックタッチを使って左手一本で天井に貼り付いていて、逃げる為に両足を天井に付けようとした時だ。そうそう。あの時はスゲー強引に身体を反転させようとして、結局ダメで勝手にブチ切れてたんだよな。あれは見応えあった。


 ……引っかかってたのは本当にこんなどうでも良いエピソードなのか? なんか違うような……


 ま、良いや。大事なことならその内思い出すだろう。


「。。。この件に関しては全く力になる気なし。。。おときやでお願い。。。」


 おとといきやがれと言いたいらしい。勿論、本人がこう言ってる訳じゃなくて、前世の魂の残滓が現地の言葉をこう翻訳した結果なんだが……なんでこの言葉をチョイスしたんだ。


「いや、本題は別にあるんだ。ラルラリラの鏡について」


「。。。まさかもう手に入れた?」


「まだ。っていうか、他に欲しいって人がいたんで、そっちに回しても良いかな」


 シキさんと約束した以上、早めに始祖に許可を得てないとな。あくまでお礼品に過ぎないんだし、きっと穏便に――――


「。。。なんだとこの詐欺野郎。。。あんなに楽しみにしてたのに。。。絶対に嫌だね。。。」


 大人げなっ! 始祖とは思えない器の小ささよ……まあ、それはそれで親近感持てるから良いんだけどさ。


「。。。どうせ他に貢ぐ相手が出来たとか。。。そんな浮ついた理由なんだろ。。。」


「いや……なんか邪気を払う鏡みたいだから、始祖にあげたら始祖消えちゃいそうでちょっと怖いんだよ」


「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」


「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」


 何か言って! 頼むから論破されないで! 自分を悪霊と認めないで!


「。。。わかった。。。特別だぞ。。。寛大すぎる。。。」


 日和りやがった。やっぱり怨霊の類かもしれないって自覚がちょっとあるんだな。


「そういう訳で、代わりのお礼の品を持ってきたんだ。ヒーラーの一件では本当お世話になったから、大分奮発してみた」


「。。。ほうほう。。。それだけミロを敬っていると。。。良い心がけ」


「なんと100種類もの暗黒武器を」

「。要らん」


 そんな食い気味に……いつもそれくらいの間で喋ってくれればいいのに。


「じゃあこれなんかどう? フラワリルって宝石。始祖カラーの白で結構綺麗だけど……」


 あの地震の所為でまとまった量の持ち出しは叶わず、崩落の恐れがあるからって事であれ以降ヴァルキルムル鉱山は暫く立ち入り禁止になってしまったけど、鉱山を出る際に持てる範囲でフラワリルの鉱石は幾つか持ち帰った。発掘した十分の一以下の量だけど、ないよりはマシだ。


 とはいえ、当初の目的だったブームを生み出す為の恋愛アイテムとして活用するのは難しくなった。入手できる人が少ないんじゃブームになりようもないからな。よって、個人的な贈り物やお土産にするくらいしか用途がない。


「。。。ま。。。くれるって言うなら。。。貰うけど。。。」

 

 良かった。受け取って貰えれば何よりだ。イリスに頼んだ甲斐もあった。


 にしても、白い花を模した宝石にしてみたんだけど……始祖に贈呈すると献花感が半端ないな。


「。。。♪」


 でも、嬉しそうだから良しとするか。


「。。。気分が乗ってきたから。。。一つアドバイスしてやっよ」


「それは助かる。正直、ちょっと手詰まりでさ」


 現状では、クソ冒険者三人に無実の罪を着せられているだけに過ぎない。コレットがギルマスである以上、奴等の訴えが冒険者ギルドの総意になる事はないし、絶体絶命ってほどの危機感はない。


 けど、フレンデリアやティシエラが懸念しているように、奴等がコレットを失脚させようと目論んでいる疑惑は否定し難い。だとしたら、奴等の次の狙いはギルドの内部分裂かもしれない。


 まず、リーダーであるコレットが自ら赴いておきながら重傷者が出てしまった。仲間を守りきれなかったという点で、ギルド内のコレットへの信頼は少し揺らいでいるだろう。


 しかも、あの三人が『コーシュを殺そうとしたのは城下町ギルドの連中だ!』と言いふらしているとなれば、コレットの性格上『城下町ギルドはそんな真似はしない』と俺達を庇おうとするに決まってる。


 こうなるとマズい。こっちにはまだ潔白を証明するだけの材料が乏しいし、多くの冒険者は自分達の仲間を信じるだろうから、コレットの意見に反対する連中が過半数を超える恐れがある。そうなれば必然的に、コレットの支持率も低下の一途を辿るだろう。


 勿論、ウチのギルドだってこの状況が続けば周囲から白い目で見られる。このままじゃ俺達もコレットも共倒れだ。


 そうならないよう、早めにシレクス家とソーサラーギルドの協力を取り付けてはみたものの……彼女達はバックアップ程度の支援であって、具体的な対応策を考えるのはあくまで俺自身だ。なのにちっとも良い案が浮かばない。


「。。。お前ちゃんを苛めるあの声のやつ。。。あれを捕まえようとは思わない方が良い」


「なんで?」


「。。。無理だから。。。怪盗メアロでも手を焼いてるのに。。。お前ちゃんが捕捉するなんて無理中の無理。。。」


 ……まあ、確かに。怪盗メアロが無理だったら俺には不可能だろう。そこは意地を張っても仕方ない。


 となると、『鉱山の出入り口へ向かったシキさん達が、その出入り口の方から奧へ向かっていた筈の俺と合流できなかった』という事態を、一体どう説明すれば良いのか。


 一番妥当なのは『急に何者かによって強制転移させられた』って主張だ。これなら嘘でもないし、以前コレットもアンノウンに飛ばされて行方不明になった事があったからな。


 でも証拠はない。それに俺は、あの殺人未遂現場に駆けつけている。つまり、強制転移後にものの数分で復帰した事になり、コレットの失踪とは全く状況が違う。却って怪しまれる事になりかねない。


 だからこそ、手詰まりなんだけど――――


「。。。守りを固めてもダメ。。。攻めないと」


「!」


 その始祖の言葉に、思わず息を呑んだ。


 確かに、格上のギルドが相手とあって保守的になり過ぎていた。そうだよ。犯人が特定されていないのなら、俺達が見つけりゃ良いんだ。当然、それが潔白を証明する事にも繋がる。


 勿論、正面から『お前らこそ犯人だろうが!』と主張したところで、格下ギルドの俺達の意見なんて大して響きはしない。確固たる証拠を掴まなければ。


 その為には何をすべきか。まずはそこからだ。


 困難なミッションだが……やるしかない。


「ありがとう始祖。やるべき事が見えて来た」


「。。。偉すぎる。。。天才過ぎて辛い」


 相変わらず自己評価が高い。でも実際、今回の助言はマジ参考になった。


 攻める。すなわち――――あの三人の冒険者を徹底調査してやる。そうすればホコリの一つや二つ、必ず出て来る筈。


 例えば……コレットに強い恨みを持っていて、何か事前にいやがらせをしていた、とか。


 奴等がコレットを貶めようとしていた可能性は高いんだ。証拠はなくとも、それを強く示唆する何らかの痕跡が掴めれば、やり方次第で世論を味方に付ける事は可能だ。コレットは市民からの人気が高いからな。


 問題は、どうやって調査するか。


 コレットとは暫く会わない方が良いってティシエラに言われたばかりだし、堂々と聞き込みする訳にはいかない。かといって、一番冒険者ギルドと接点の多いディノーは容疑者の一人だし、同じ理由でシキさんにも頼る事は出来ない。


 そうなると……俺自ら潜入捜査するしかなさそうだな。


 俺とは悟られない姿に変装して、冒険者達と接触し話を聞く。現状、俺に出来るのはこれくらいだ。


 他のギルドの人に頼んで探って貰うって手もあるけど、万が一怪しまれたらそのギルドに迷惑をかけてしまう。冤罪を吹っ掛けてくるような連中だし。


 変装か。なんか興奮して来たな。一度はやってみたかったんだよ。前世の世界だったらサングラスにマスクが定番だったけど、この世界にはそういうお手軽変装グッズはない。怪盗メアロみたいに別人に化けられたら楽なんだけど、生憎そんなスキルは俺には――――


「……待てよ」


 思わずそう声を出してしまう。


 回復魔法だって、回復アイテムで代替が利くんだ。だったら変装スキルだって、それと同じ効果のアイテムがあっても不思議じゃないよな。


「ミロ、他人に化ける事が出来るアイテムって知らない?」


「。。。あるよ。。。この城に」


 ラッキー! 何が不幸体質だよ寧ろご都合主義体質じゃん俺!


「。。。特別に。。。貸してやんよ」


「マジ助かる。持つべきものは慈愛に満ちた始祖だな」


「。。。そういうのは。。。いらない」


 歯の浮くような褒め言葉には興醒めするタイプなのか。共感しかない。今後は控えよう。


 ともあれ、これで一歩前進――――





「……」


「。。。うんうん。。。バッチリ。。。まるで別人」


 確かに、そのアイテムによって俺は明らかに違う姿になった。きっとコレットだって俺とは気付かないだろう。


 ただし、アイテムというか甲冑だった。


 具体的には、漆黒の呪われた全身鎧【バーサーカーマーダーアーマー】だった。


「ナンダヨ コレ!!」


 顔をフルフェイス兜で覆っている所為で、声まで変わっていた。


「コンナノ ヘンソウッテ イワナイダロ……モウイイ ヌグ」


「。。。呪われてるから。。。特殊な方法じゃないと脱げない。。。明日までに用意しとく」


「マジカヨ」


 コレットの山羊マスクを笑えない事態になってしまった。


 それでも一日で脱げるとの事だし、他にやる事もないんで、このままの格好で冒険者ギルドに行ってみる事にした。




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