第207話 こいつ直接脳内に……!
「。。。分離成功。。。お前ちゃんに憑依させた」
よし。後は精霊を召喚するだけだ。
「出でよ――――」
あ……しまった。既にモーショボーを召喚してる状態だから、他の精霊を喚び出したらモーショボーは強制送還になってポイポイも消えちゃうな。そうなるとポイポイに乗ってるシキさんとルウェリアさんが怪我しかねない。
意思の疎通が無理なら、こっちで方法を考えるしかないか。封印じゃなくて逆に回復魔法食らわすとかどうだろう? 穢されてるって事は呪いのアイテム化してそうだし、案外回復魔法でダメージ食らわせる事が出来るかも。その刺激で――――
《……きこえますか……きこえますか……安置所で戯れている奇異なみなさん……フラガラッハです……》
ん? 今何か囁くような声が聞こえたような……これってまさか――――
《今……あなたの……心に……直接……呼びかけています……回復魔法は……いけません》
こいつ直接脳内に……! そこまで回復魔法は嫌か!
「。。。フフッ」
ほらー! やっぱ始祖のツボだった! 絶対そうだと思ったんだよ。
「あのー、俺トモって言います。フラガラッハさん、こっちの声聞こえます?」
「。。。肉声は届かない。。。マギを含んだ思念で心に直接じゃないと。。。フフッ」
言うなればマギの声ってか。でも俺、そんな発声方法知らんし。腹から声出せば良いってもんでもないだろうしなあ……魂の叫びとは言うけど、本当に魂が叫んでる訳じゃないからね。
「フン。今のザコザコなお前には無理だろうな。ここは我に任せるが良い」
「え、思念飛ばせるの?」
「名怪盗たるもの、思念化声など造作もない。お宝と会話できてこそ一流の怪盗なのだ」
おおっ、なんか期待できそうだ。盗品と会話してる怪盗とか頭イッちゃってるとしか思えないけど、ここは余計な事言わずに任せちゃおう。
《聞こえるか、反魂フラガラッハ。我の名は怪盗メアロ。今の貴様の所有者、つまりマスターはこの我だ。故に我にだけ思念を送れ》
《き……聞こえます……そんな……この私と直接会話が出来るなんて……あなたは我が主たる神と同等のマギを……まさか……》
《それ以上は言わずとも良かろう。それより、貴様が見た夢の所為で迷惑しておる。エルリアフだったか。そやつをどうにかせい》
《どういう事でしょうか……エルリアフは確かに私が産みだした子……回復魔法で数多の人間を助けている筈です……》
《それが余計だと言っておる。邪魔にしかなっておらん。存在が消せぬなら、魔法が使えない状態にしろ》
《そんな……あの子から回復魔法を取り上げるなど……私の夢を奪わないで下さい》
……なんか難航してる? 怪盗メアロ、眉間の皺がどんどん濃くなってるな。
「おい、まさか上から目線で口汚く命令してるんじゃないだろな。こっちはお願いする立場なんだから、もっと和やかにしろ。無意味に威圧とかして空気を悪くするなよ?」
「チッ……仕方ないなあ」
俺の的確なアドバイスが効いたのか、少しずつ険が薄れていく。
そして、5分後――――
「これから丸一日、魔法が使えない状態にする。これ以上は譲歩できないっつってるぞ」
一日か……短いと言えば短いけど、明日の朝一番で冒険者ギルドとソーサラーギルドを集めて王城に乗り込んで貰えば、制圧は十分に可能だろう。ここらが落とし所か。
「了解。それで頼むって伝えてくれ」
「海より深く我に感謝しろよ? あと勘違いすんなよ。こんなにサービス良い事は滅多にないからな。今日は機嫌が良いから特別だ」
「わかったわかった。感謝してるって。やっぱ名怪盗ともなると器の大きさが違うな」
「フン。見え透いた世辞なんて嬉しくねーよ」
そう言いながらも、明らかに機嫌良さげな顔してやがる。これならもう少しお願いしても良さそうだ。
「ついでに、ルウェリアさんにどんな影響を与えているのかを聞いて貰えるか?」
「ルウェリア? ああ、この国の第一王女の事か」
「……知ってたのかよ」
名怪盗を自称するだけあって、情報網はマジ名探偵並だな。まあ、こいつに知られているからって害はないだろうから別に構いはしない。
もしこいつが男だったら話は別だけどな。怪盗が王女の心を盗むってベタ中のベタだし。
「。。。ミロも知ってる。。。博識過ぎる」
「始祖が怪盗に対抗意識持ってどうすんの」
「。。。しょぼーん」
なんか、輪の外にいるのを自覚して何とか話題に入ろうとしたみたいな感じだったな。なんでそんな寂しがり屋の構ってちゃんがこんな所にいるんだ。謎すぎるぞ始祖ミロ。
ま……始祖に限らず、この街は未だに謎が多いけどね。王族もそうだし、五大ギルドもそう。まだまだ俺の知らない事、隠されている事が沢山あるんだろう。
でも、そういう所も含めてこの街が気に入っているのは否定できない。アイザックやヒーラーなんぞにデカい顔させている場合じゃないな。一刻も早くこの城を取り戻さないと――――
《――――……そういう……訳です……》
《成程な。道理であの娘、マギの涸渇速度が尋常でない訳だ。まさか"アレ"を預かってるとはな》
《ルールララヴァロンディンヌ姫は……あの結界に守られているからこそ生き長らえています……そしてあの結界は……あまりにも詰め込み過ぎている……とても人が使いこなせる結界ではありません……一体どのような者が作りあげたのか……》
《大馬鹿者だ。歴史上、あんなバカな人間は他にいない。我には到底理解できぬが、だからこそ面白くもあった》
《だとすれば……とても優しく……罪深き方です》
《かもな。ま、後は適当にはぐらかしておくか。中々興味深い話であった》
《私からも……良いですか……》
《何だ? 今日の我は機嫌が良い。知っている事なら喋ってやろう》
《私の他の四光は……無事ですか……?》
《無事かどうかは知らんが、全部貴様と同じ境遇だ。見た夢を具現化している所も含めてな》
《それは……なんという運命でしょう……》
《ククク、違いない。どいつもこいつも、ないものねだりが過ぎる》
《皆が見た夢は……元気にしていますか……?》
《さあな。失踪しているようだから、それはわからぬ。まあ、いずれ戻って来るであろう》
《そう……ですか……》
《運命とは数奇なものよ。まさか貴様と対話する日が来るとは夢にも思わなかった》
《本当に……》
《やはり、面白い奴よ――――》
つーか話長いな! 恋人になりたてのカップルのLINEかよ。
でも表情を見る限り、難航している様子はない。寧ろ和やかに話しているような雰囲気だ。この様子なら多分大丈夫だろう。
なら、今の内に今後の事でも考えておくか。
この城を取り囲んでいる回復魔法が消失すれば、隙を見て逃げる事は出来る。でも……問題はその後だ。
怪盗メアロがフラガラッハを持ってドロンすると、ルウェリアさんがピンチに陥るかもしれない。多分、怪盗メアロはずっとこの街に潜伏しているとは思うし、戦利品を何処かに横流しする事もないだろう。でも、それはあくまで俺の主観だ。100%確実とも言い切れないし、御主人が納得する訳がない。
なんとかフラガラッハを奪い返す必要がある。でもここまで手厚く協力して貰った手前、正式な戦利品を姑息な手段で取り戻すのは良心が痛む。いや、盗難品を奪還する事自体は極めて正当な行為なんだけど。
出来れば、怪盗メアロにもちゃんとメリットがある形でフラガラッハを奪回したい、っていうのは甘い考えだろうか。いやでも、そこは筋を通すべきだろう。人として。
「話は終わったぞ。こいつのマギを剣に戻せ」
ん、ようやくか。命令された始祖が露骨に嫌な顔してるけど、一応言う通りにしている。この二人、一体どういう関係なんだろ……
「王女についてだが、どうやら体質的な問題を抱えていて、マギの収まりが極端に悪いらしい。それをフラガラッハの力で繋ぎ止めているようだな」
「収まり?」
「。。。マギは魂とほぼ同義。。。肉体にキチッと収まるのが普通だけど。。。稀に剥がれやすい体質の生物がいる事はいる。。。」
幽体離脱し易い人とか、そんな感じなんだろうか?
「ま、そんなトコだ。フラガラッハは魂を呼び戻す剣だからな。マギを特定の肉体に固定させる力も当然ある」
今の怪盗メアロの説明は、俺が想像していたのとほぼ一致している。それだけに……なんか微妙に作り話っぽく感じるのは、気にし過ぎだろうか。
いや、疑っても仕方ない。どの道、答え合わせなんて出来やしないんだ。ここは怪盗メアロの発言を真実と見なした上で話を進めるしかない。
「ルウェリアさんとフラガラッハを引き離したら、ルウェリアさんはどうなる?」
「そりゃヤバイだろうけど、仕方ねーよ。だってこれ、我の物になったんだもん。ちゃんと予告状出して正々堂々盗んだんだから、文句言われる筋合いはねーし」
怪盗の予告状にそんなフェアプレーの精神みたいなのがあってたまるか! 他人の物を盗むのは、この国の法がどうあれ倫理的にアウトだよ!
……と怪盗相手に反論したところで、奴の心に響く筈もない。こんな正論が通じる相手なら、そもそも怪盗なんてやってねーって話だ。
出来れば円満解決したかったが、ここまでルウェリアさんの命を軽く考えているのなら話は別だ。所詮は悪党。情けは禁物だったな、この畜生め。
よし、この手で行くか。
「わかった。約束通り、そのフラガラッハはお前に譲ろう」
「当然だな。譲るって表現自体が偉そーで気に入らないけど」
「でもその前に、ちょっとだけ触らせてくれないか? 何せ伝説の剣と巡り逢う機会なんてもうないだろうし」
「クックック、良いだろう。我は自分のお宝を見せびらかすほど趣味悪くないが、今回は特別だぞ」
既にマギの戻ったフラガラッハを受け取る。
そして――――
「マギへの効能以外の全パラメータを射程に全振り」
調整スキルを使用した。
「……へ?」
これで耐久力や攻撃力は最低値になったものの、ルウェリアさんのマギを繋ぎ止める能力の有効範囲は一気に広がる筈。どのくらいの範囲かはわからないけど、この街から多少離れても問題はないだろう。
「お、おい。お前、今の……我に一回やったアレ……?」
「そうそう。ステータス弄るスキル」
「伝説の十三穢に何してんの!? バカなの!?」
そんなんどうでもいいわ。伝説よりも目の前の知り合いの命。当然です。
「戻せ! 早よ戻せ! 約束と違う! これじゃパチもんと何も変わらんだろーが!」
「何言ってんだ? 俺は別にフラガラッハを別の剣に変えた訳じゃない。多少能力は変わってもフラガラッハはフラガラッハだ。なんなら剣本人に聞いてみるか?」
「ぐんぬぅ……!! うぬぬぬぬにゅにゅにゅにゅわあああああああーーーーーーーーーっ!!!」
あ、発狂した。
とはいえ、約束を違えた訳じゃない。その証拠に、どれだけ頭抱えて悶えても俺を批難する言葉が出て来ない。はっはっは、ザマー見やがれ。ようやく一矢報いたな。
「。。。悪い顔してんな」
始祖うるさい。
「ぐぬぬぬぬ……おい。どーすれば元に戻す? 条件言え」
「そうだな。この剣を一旦武器屋に戻して、これがなくてもルウェリアさんが健康でいられるようになったら、元に戻して改めてお前に譲渡しよう。それでどうだ?」
怪盗メアロがフラガラッハのネームバリュー目的でこれを欲している訳じゃないのは明白。なら、今の状態のフラガラッハは奴の言うように偽物同然。耐久性最悪だから、落としたら壊れかねないしな。
「………………わかった。その代わり約束破ったらブッ殺すからな! 絶対だぞ!」
「交渉成立だな」
これで、ルウェリアさんの件は一応クリア。後はこの城を脱出して、最強パーティで城攻略に挑むだけだ。
「。。。どんまい。。。詰めが甘いお前ちゃんの悪い癖出たな。。。」
「こんなガキに理解されるなんて……っ!!! 屈辱の極みだ……」
怪盗メアロが自分を棚に上げて始祖をガキ呼ばわりしている光景は、実に見苦しかった。
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