第199話 対決城下町
予告状
やぁやぁベリアルザ武器商会の御主人
本年春期遠月16日 忘れもしないここアインシュレイル城下町での鬼魔人のこんぼうを巡る対決
我との堂々たる戦ぶり 堂々たる大健闘 敵ながらあっぱれであった
しかし!
自他共に名怪盗と認めるこの我があそこまで手こずっておいて
このままおめおめと引き下がっている訳にはいかんのだ
よってここに完勝の為の再戦として、反魂フラガラッハを巡る対決を貴殿の武器屋にて執り行う事ここに申し込む
ただし簡単に盗みに行くと思ったら大間違いだ
今回はいつ我が現れるかは敢えて記さぬ
この文面を読んでいる今まさにその時かも知れぬし10日後かも知れぬ
もうわかったであろうベリアルザ武器商会の御主人
予告状が届いたその時から 何時如何なる時もフラガラッハを賭けた対決だ
我が捕まれば 我の命はおまえにやろう
しかし我が盗めばフラガラッハは我のものだ
最終的にその剣を確保した方が勝ちとなる
アインシュレイル城下町は今日から対決城下町となるのだ
「おい! 何でしれっと我の命が懸かってるんだよ! お前等の為に盗むのに我だけリスクが天元突破してるのおかしいだろ!」
「いや、まあそこは名怪盗のプライドというか、お前らしさを重視しただけだから。そもそも捕まらないんだろ?」
「フン、当たり前だ。我を捕まえられる人間などこの世にはいないからな。我の命が軽んじられているのが我慢ならなかっただけだ」
面倒臭い奴……つーか文面に文句はないのか。予告状なんて書いた事ないから適当に書き殴っただけなのに。
「まあ、基本的にはこのままでも良いかな。我っぽくはないけど、逆に新鮮だし」
「マジかよ。これ受け取っても御主人困惑しかしないと思うけど」
「フラガラッハを標的にした予告状って伝われば良いんだよ。後は如何に我が格式高い名怪盗かを表現してれば良いんだ。その点はまあまあ及第点だからな。フフン、口では我を散々侮辱していながら、我への敬意に溢れてるじゃないか」
……名怪盗って多めに記述したのは皮肉のつもりだったんだけど、黙っておこう。
「とはいえ、もう一押し欲しいかなー。これだとイマイチ危機感を抱かないかもだし。ちょっと足して」
え、これ以上まだ追記すんの……?
「確かあの武器屋、娘がいたよな。そいつも巻き込むような仕上がりにしろ。フラガラッハを盗まれただけじゃ娘はノーダメージだろ」
「そうか? 娘さんの方も暗黒武器マニアだからダメージ負うと思うけど」
「いや。恐らくあの主人、フラガラッハの存在を娘には伝えていない。愛着のない武器がなくなってもダメージはないだろ」
確かに……御主人の性格上、魔王に穢された物騒な武器を保持してるなんてルウェリアさんには明かさないかもしれない。
仕方ない、これもフラガラッハを手に入れる為だ。適当にそれっぽい文面を考えるか……
やぁやぁベリアルザ武器商会の御主人
この対決に負けたならおまえには生き地獄を味わってもらおう
なに? コレクションを盗まれるより苦しい生き地獄があるものかって?
うは! うは! うはは
あるじゃぁないか あるじゃぁないか ベリアルザの御主人
お前はルウェリア親衛隊が大嫌いだ ディッヘが大嫌いだ
この前はずいぶん辛かったそうじゃないか…
ん? なんだと?
一度の襲撃ならたいしたことはないだと?
ぬは! ぬは! ぬはは
誰が一度と言った?
ん? じゃ二度かって?
ぬは! ぬは! ぬはは
七日間だ 七日間ずっとディッヘ参りを食らってもらうぞ
ん? なんだと逃げるだと?
うは! うは! うはは
逃げられるかなぁ? あんな奴から
なぁルウェリア 人事じゃあないんだぞ おまえも一緒に食らうんだぞディッヘの来襲
七日間キスマスも連れて二人で陣中見舞いに来るんだぁ
怪盗メアロ
「……自分で書いてて気分悪くなってきた」
なるべく危機感を持たせろって怪盗メアロのリクエストに全力で応えた結果、最悪の罰ゲームを思い付いてしまった。
ルウェリア親衛隊の中でも随一の変態ディッヘが一週間連続でやって来る恐怖。しかもルウェリアさんが苦手そうなギャルのキスマスも一緒。これは地獄だ。ディッヘルズウィークだ。
「よーしこれでいいや。それじゃ届けに行ってくる!」
喜々として予告状を折り畳んだ怪盗メアロは、あっという間に視界から消えていった。
「。。。何か楽しそう。。。仲良いなお前ちゃん達。。。」
「冗談でもそういうのやめて」
怪盗とそれを捕まえようとしている人物の攻防を『ランデブー』と表現する風潮があるけど、ホント不本意。優先すべき事を成し遂げる為、利害の一致があるから一時的に組んでいるに過ぎない。魔王になんかされた訳じゃない俺にとっては、この世界の宿敵と言えばあのメスガキだ。決して馴れ合いじゃない。
まあ……今はそれ以上に憎らしい奴がいるのも事実だけど。アイザックのバカ野郎をボッコボコにしてやる為なら、宿敵の手を借りるのもやむなしだ。
「。。。ミロも。。。ライバルが欲しかったな」
「まあ、始祖ってそういう関係性とは無縁の職業だもんな」
「。。。職業違う。。。」
違うのか。ヒーラーより始祖の方がよっぽど職業って感じなんだけど。ヒーラーって最早俺の中では強盗と詐欺師と半グレとフーリガンの総称なんだよね。
「。。。ミロが蘇生魔法と回復魔法を作って。。。この世界の人間は長生きするようになった。。。魔物に対抗する力も付けてきた。。。」
ん? なんか自然に自分語りに移行した? しかも自慢入ってる?
まあ、この世界にSNSはないし、何処にでも自分語りが転がってる訳じゃない。あんまり斜に構えず聞いてみよう。
「。。。魔物の方が強い時期は。。。人間同士の結束は強かった。。。でも魔王討伐が現実的になってきたら。。。人間同士で争うようになった。。。」
……生々しい歴史だな。自分が英雄になれる、英雄を支えた人物になれる、って色気が出てきた途端に仲間割れ。すっごくリアリティある。売れた途端親戚が増えたっていう歌手や漫画家いっぱいいるもんな。
「。。。多分。。。魔王を倒したら。。。人間は人間同士で戦争すると思う」
「同感」
「。。。だから。。。魔王は倒されてはいけない。。。」
……ん? 今のは一体何目線の言葉なんだ?
「。。。ヒーラーに対する扱いもそれに比例して悪くなった。。。横柄な人間が増えて。。。回復して貰っても感謝しなくなった」
話題が戻っちまったな。さっきの発言の真意を問おうかと思ったけど……ま、良いか。仮にこの始祖が人間じゃなくて超常的な存在でも別に驚きはしないし。
「。。。魔王が生きている限り。。。ヒーラーは歪み続けるかも」
「なんか別の魔王が生まれそうだよな……でも改心するとかいう段階でもなさそうだし。いっそ滅ぼすとか出来んの?」
「。。。お前ちゃんは鬼か。。。始祖が眷属を滅ぼしてどうするの」
いや、始祖だからこそ『こいつら失敗作だー!』ってノリで淘汰しそうなもんだけどな。まあそういう訳にもいかんか。
現実問題、アイザックの野郎をぶっ潰してこの城からヒーラー共を追い出せても、まだヒーラーの脅威は続く。この城に来てるヒーラーは全勢力の一部に過ぎないみたいだからな。その対策を講じないといけない。
それに、ルウェリア親衛隊とメカクレの動向も気になる。さっき予告状でネタにしたからじゃないけど……もしこのタイミングで奴等が何か仕掛けて来たら面倒な事この上ない。城下町を守るギルドとしては最悪の事態だ。
そうならない為にも、一刻も早く事態を沈静化させないと――――
「予告状出してきた!」
俺の懸念や心労なんか一切気に留めず、帰って来た怪盗メアロは凄く満足げだった。久々に本職を全う出来るからって、随分と良い笑顔だなあオイ。小憎らしいメスガキめ。
「あ、ついでにパン持ってきてやったぞ。お前好きなんだろ?」
「やだこの子超良い子! ちょっと始祖さん! ここテーブルないのテーブル! あとこの子に椅子持ってきてあげて!」
「。。。なんで親戚のおばちゃんになるん。。。あと安置所にそんなのない」
まあ、パンはどんなパンでも何処で食べても上手いから良いか。一体何パンを買ってきてくれたのか――――
「……まさか盗んできた訳じゃないよな」
「え? 普通に盗ってきたけど? 我怪盗だもん」
「この……ド低脳がァーーーッ!! そんな事したら善良なパン屋さんが潰れるだろうが!! 1個のパンを盗まれたらその穴埋めに何個も売らないと利益が出ないんだよ!! 今すぐ金払って来いボケが!!」
「えー怖っわ……ただの冗談なんだけど。誰がお前になんか施すかバーカ」
「テメェ言って良い冗談と悪い冗談の区別もつかねーのかコラァ!!」
その件で2時間ほど揉めた。
「……で、いつフラガラッハを盗みに行くんだ?」
「そうだな、まあ一日くらい空けてやるか。万全の準備をさせた上でそれを嘲笑うようにアッサリ盗むのが名怪盗だからな。格の違いを見せつけるこの瞬間がたまんねーの。ククク」
これが戦士なら『全力を出せ。我もそれに応えよう』って感じで潔さと侠気を感じるんだけど、盗人が同じ事やるとカスとしか思えない。まあどうとは言わないが。
「そう甘く見ない方が良いんじゃないか? ベリアルザ武器商会には今、護衛としてディノーが務めてる。あいつは冒険者ギルドにも顔が利くし、当然ウチのギルド員もお前を捕まえる為に総動員してくるぞ」
「ハッ! お前如きのギルドから何人派遣されようと我の敵じゃねーわ! 楽勝楽勝!」
「んー……」
「な、なんだよそのリアクション。お前だって我の力知ってるだろーが。まして今はレベル78のアレもいないんだぞ? 【リライト】を使えるお前も当然いないし」
「リライト? 何それ?」
「お前の固有スキルだろーが! なんで本人が覚えてないんだよ!?」
……?
あ! そういえば調整スキルにそんな名前付けたっけ……完全に忘れてたな。いつの間にか『調整スキル』で定着してたから全然その名前使ってなかった。よっぽど自分の中でしっくり来てなかったんだろうな。
まあ、それより今はフラガラッハ強奪作戦だ。
「確かにコレットは今、街中にはいない。俺の調整スキルで対怪盗用のステータスに最適化する事も出来ない。でもな、ウチのギルドには……厄介な奴がいるんだ……」
「なんで自分トコのギルド員をそんな死にそうな顔で語るんだ?」
「いいから真面目に聞け。ウチには元暗殺者と首狩り族と人妻屠り師がいるけど、更にヤバイのが最近精霊使いと判明した監禁常習犯の少年タキタ君と、気配ゼロでヌルッと現れる寄生獣もどきの自称イリス姉。この二人だ」
「。。。おうおう。。。散々ヒーラーの件でミロの責任を問い詰めておいて。。。お前ちゃんのギルドも酷くない。。。?」
いや流石にヒーラーよりはマシですよ始祖様。肩書きだけ見ると異常者の溜まり場だけど、余所に迷惑はかけてないからね。今のところ。
「フン。幾ら脅したってビビる我じゃないから。まあお前はここでのんびり死体の真似でもしてろ。明日、あっという間にかっ払って来てやるから」
人の忠告を無視して、怪盗メアロは楽しげに安置所を去って行った。
なんか複雑だな……サクッとフラガラッハを入手して欲しい気持ちと、苦戦して欲しい気持ちが錯綜している。かといって、俺以外の奴があのメスガキを捕まえるってのも、なんかスッキリしないし……
「。。。それはもう恋なのでは。。。?」
「…………言ってる事がわからない………………イカれてるのか?…………この状況で」
ま、何にしても俺に出来るのは待つ事だけか。
いや、待てよ。
「外で起こってる出来事を実況中継とか出来ない? あいつどうせ苦戦しても楽勝だったって言いそうだし、リアルタイムで事態を把握したいんだけど」
「。。。マギの流れを感知するくらいは出来るけど。。。状況の細かい把握は無理」
「そっか。流石に欲張り過ぎたな」
俺が死にかけてたのをいち早く察知したのも、マギの流れってのを把握してるからなんだろう。実際、街中の全ての出来事を感知するとか神様でもなけりゃ無理だろうし。
「。。。どうしてもって言うなら。。。方法はあるけど。。。?」
「え、マジで!?」
「。。。お前ちゃんのマギを身体から分離して。。。相性の良い器に憑依させる。。。とか」
……なんかヤバそうな案だな。失敗したら戻って来られない系じゃないのか?
「。。。おうおう。。。始祖を嘗めるなよ。。。ミロの辞書に失敗の文字はない。。。」
「そこまで言うか」
なら信頼するしかないな。なんだかんだ、この人の介入がなかったらヤバい事になってたのは確実だしな。
「。。。ちょっと待っとけ。。。相性の良い器探すから。。。ぬんぬー。。。ぬんぬー。。。」
信頼感を削ぐ掛け声だなあ……
「。。。よーしわかった。。。後はミロにお任せ」
「了解。宜しく頼む」
そう応えた直後――――俺の意識は一瞬にして途絶えた。
それから一体、どれだけの時間が経過したのかはわからないが……
「……?」
不意に視界が広がる。これは……勝手知ったる我が家、アインシュレイル城下町ギルドのホールだ。
「ギルドマスターは日頃から怪盗メアロを絶対に捕まえたいと言っていた。その希望を叶える為にも、今回の防衛戦は必ず勝利しよう!」
この声は……ディノーか。どうやら俺不在のギルドを纏めてくれているみたいだ。
一瞬ディノーに憑依したのかと思ったけど、彼の姿が視界に入った時点でそれはなくなった。奇妙な感じはするけど、常日頃から他人の身体を扱ってる身だし、今更抵抗はない。
どうやら、俺の意思で話したり動いたりは出来ないみたいだ。宿主の思考も入って来ないし、あくまで五感を間借りしてる感じっぽいな。
後は、誰の身体なのかを特定しないと――――
「みんな聞いてくれぇ!」
感極まった声で叫んだのは……パブロの旦那か。
「イリスさんが行方不明になって、その後にボスもいなくなっちまったぁ。考えたくねぇが、これはもう駆け落ちとしか思えねぇ。許せねぇよな……こんなの許ねぇよなぁ!」
えぇぇ!? 何その解釈!? 俺そんなに信用されてないの!?
「そうだそうだ!」
「あんな裏切り野郎の希望なんて誰が叶えてやるか!」
イリスファンの数名が目を血走らせてる。勘弁してくれ……濡れ衣もいいとこだ。今声挙げた奴等、減給処分にしてやる。
「いやー、どうかなー。あのヘタレギルマスに駆け落ちする度胸とかないと思うけどなー。どっちかって言ったらドジ踏んでおっ死んだ方があり得るんじゃね?」
今の声はヤメか……お前も減給リスト入りな。
ん……? ヤメは隣にいるな。って事は、この身体の持ち主は……
「そんな簡単に隊長は死なないよ」
やっぱりそうか。今のは自分の声と同じように内側から聞こえて来た。
この声は、そしてこの身体は――――シキさんだ。
「ま、確かにしぶといタイプかもね。でもシキちゃんならサクッと殺せるんでしょ?」
おい物騒な事聞くなヤメ。そりゃこの人なら確実に殺せるだろ。俺を殺す108の方法とか言い出しそうで嫌なんだけど。
「んー……難しいかもね」
「あれれ、意外な答え。そんな強くないでしょ、ウチのギルマス」
「戦闘力はね。ただ、ちょっと面倒なタイプ。棺桶で寝るくらい警戒心強いし」
……命の危険を感じて棺桶で寝てる訳じゃないんですけど。こんなんで俺の評価上げるとかやめてよシキさん。
「ま、いつか試す日が来るかもね」
冗談とも本気ともつかない声で、シキさんは会話を締め括った。
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