第010話 マジ最果て
ベヒーモスとの死闘……というよりおちょくられた地獄のような時間から30分後……時計もスマホもないから体感だけど。
幸いモンスターに遭遇することなく城下町に辿り着いた俺達は真っ先に冒険者ギルドに向かい、コレットのパラメータを確認してみた。
「大丈夫? そっちの新人さんに見られても」
「うん。彼にはもうバレてるから」
幸いと言うべきか、最初に世話になったショートカットの受付嬢は無事復帰していた。
コレットとは気の置けない間柄なのか、フランクに会話しているのが聞こえてくる。
彼女が運極振りなのは当然、受付嬢もわかっている筈だから、厚意で情報規制しているらしい。
「それじゃ、マギソートで確認します。手を」
「はい」
コレットは周囲に人がいないのを確認し、そっと魔法の石板に手をを乗せる。
すると――――
「生命力8681、攻……えっ?」
「えっ」
二人が顔を見合わせて呆然としている。
聞き間違えじゃなかったら、今確か生命力8681っつってたな。
……マジか?
「な、なんで? なんでこんな訳のわからない配分になってるの? いや、訳がわからない配分なのは元々だけど……運と生命力の数値がほぼ置き換わってる」
「そうなのか?」
思わず首を突っ込んでしまう。
コレットは目を点にしたまま頷いていた。
「生命力8681、攻撃力78、敏捷性78、器用さ78、知覚力78、抵抗力78、運78……そういえば新人さんもこんな感じの尖ったパラメータでしたね。何かそういう状態になるアイテムでもあるんですか?」
反射的に首を横に振る。
だって本当に知らんし。
俺は多分、元々寿命が長い事が能力に反映されただけだと思う。
少なくとも、人に感染するようなこっちゃない。
「生命力は体力と防御力に影響を及ぼすパラメータ。道理でベヒーモスの尻尾を食らってもビクともしない訳だよ……」
「え、ベヒーモスと遭遇したの? だったら呪いでもかけられたんじゃない?」
「パラメータが入れ替わる呪いなんて聞いた事ないけど……他に理由思い当たらないし、そうかもしれない」
「だったら、新人さんも呪いでパラメータ配分変わってるかも。手、乗せて貰っても良いですか?」
言われるがままにマギソートに手を乗せてみると――――
「……変化なし、相変わらず精力ビンビンですね」
下ネタ好きなの?
「俺が精力ビンビンだったら彼女はどうなるんですか」
「それはもう、お堅い女ですよ」
誰が上手い事言えと。
「コレットだけ呪いを受けた可能性は?」
「それは……ちょっと考え難いかも。最後の尻尾攻撃受けた時点で、このステータスになってた筈だし。その前は寧ろ彼が攻撃を受けてたから」
だよな。
もし呪いを受けるのなら、俺だって受けてないとおかしい。
その線は消えたと言って良い。
「よくわからないけど、もしかしたらマギソートの故障かもしれないから、業者に予備がないか問い合わせてみる。一時間後にまた来て」
「わかった。ゴメンね手間かけさせて」
「どっちかって言うと楽しんでるから気にしないで。それにしても、貴女とレベル18の新人さんのコンビで良くベヒーモス相手に生き残れたね。あの怪物、レベル50の冒険者でも太刀打ち出来ないのに」
そんなヤバい奴が彷徨いてるのか、この周辺……
格上がランダムエンカウントするエリアなんだろうか。
「まあ、魔王城の一番近くの街だから、それくらいの強敵が出没するのは仕方ないんだけどね」
……ん?
なんか今、ヤバい事をサラッと言ってなかったか?
「あの、ここって魔王城の近くなんですか?」
「知らないで来たんですか……? ここは最果ての地、魔王城ヴォルフガングの最寄りの街です。っていうか、レベル18でどうやって辿り付けたのか、ずっと聞きたかったくらいなんですが」
……なんてこった。
なんてこったいでござりまするよ!
ここって、RPGで言うところの終盤の街じゃんか!
それどころか、マジ最果て。
マズいな……
どんだけーのニュアンスで最果てーって叫んでみたくなってきたけど、今はそれどころじゃない。
終盤の街だったら、どう考えてもレベル18は適正じゃない。
RTAガチ勢かよ。
前に受付嬢が『凄い』って言ってたのは、レベルが高いって意味じゃなく、寧ろこんな低いのにここにいるのが凄いって意味だったのか。
もしかして、元の人のレベルと俺のレベル(多分1)の平均値になっちゃったのか?
或いは、俺が32歳で元の人の年齢が20歳だから、俺の方が割合多めになっちゃった可能性もある。
何にしても……ここに来た経緯は話せない。
「すいません。そこは禁則事項なんで」
「何に対してのかはわかりませんけど、そういう事でしたら」
話のわかる受付嬢で助かった。
流石に『転生しました』とは言えないからな。
禁則事項は言えてもそれは言えない。世代的に。
直撃世代は言えるんだよ。
寧ろ積極的に言うべきなんだよ!
文化の継承とか伝統芸能の保守とかの観点からも!
でも直撃じゃないとダメなんだ。
魂が乗らないし情熱が伝わらない。
だから俺の世代だと『鬼がかってる』とか言ってもなんか白々しいし、生殺与奪の権を他人に握らても罪悪感は湧かない。
「では一時間後にまた」
頭の中に色んな単語が浮かべている最中、受付嬢は奥に引っ込んだ。
業者と連絡取る為に他のスタッフと打ち合わせするらしい。
当然、この世界にスマホ的な物はないから、脚を使う必要があるんだろう。
「一時間か……トモはどうする?」
ギルドを出ると、城下町の街並みが視界に飛び込んでくる。
さっきまでと全然違って、今は妙に格式高い風景に見える。
終盤の街と知っただけで。
「んー、本当ならあと3体モンスターを倒せばクエストがクリア出来るから、外に出たいところなんだけど……自殺行為にしかならないな。武器屋にでも行くよ」
「武器屋? 防具屋じゃなくて?」
ボロボロになった俺の鎧を見ながら、コレットは訝しがった。
普通に考えたら、まずはそっちを新調するよな。
「世話になった武器屋があるんだ。そこに挨拶に行きたくて」
「そっか。なら別行動でいいかな。私も寄りたい所があるんだ」
「了解」
特に行き先を告げる事も聞く事もなく、コレットは雑踏の中に消えていった。
さて、俺も目的地へ向かおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます